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春男とカレンダー

春男とカレンダー


 夕方。比較的早めの時間に春男の家に向かおうと、メールをしたところ、春男が外に出ていると知った。ついでに帰りの買い物に、付き合えというので、指定場所まで行ったのはいいのだが……。

「春男。」

「んー。」

 春男は生返事をした。オレはため息をつく。

「春男、まだか?」

「もうちょっと!んー。」

 オレはあきらめて、店の外にあるベンチへと戻った。ベンチの隣には妻の買い物か、子供の買い物かに付き合わされている男性陣がたくさん並んでいる。本を読んだり、携帯をしたり時間のつぶし方は人それぞれだ。

 誰が言い出したのか、昔から女の買物は長い、という名文句。しかし、オレはそれに反撃できる。買物が長いのは女だけとは限らない。

最初はオレも見ていたのだが、自分に必要ないものを見ていると飽きるのが早い。そして、春男はオレがここに来るよりもさきに来ていて、ずっと悩んでいる。

 オレは、電子パソコンを開いて、仕事を始めた。

 ところで、ここは春男の家でもなく、美術館でもなく、巨大な本屋だ。よーくさがせば、春男の本も置いてある。しかし、春男の目当ては本ではなく、壁掛け用のカレンダーなのだ。

本が必要なら自分で買いには来ないで、オレに買わせるだろう。

正直、パソコン内に入っている電子カレンダーと手帳のカレンダーを使用しているオレにはまったく用のない、シロモノなのだが。

「お待たせー。」

 春男がにこにこしながら、袋を手にやってきた。

「待ったぞ!」

 事実だ。オレはパソコンをしまって、立ち上がった。

「まぁまぁ、ごはん作るからさぁ。」

「材料の買物か。」

「当たり。行こう。」

 本屋の下にある食料品売り場に移動した。春男があれこれかごに入れるのを見ながらオレは考えていた。

何が楽しくて、男二人で買物をしなきゃならないのか。学生時代なら、友人たちとわいわいしながら作るなんてこともやったが、まさか大人になったからもやるとは夢にも思わなかった。しかも男二人で!

 オレがいるせいか、春男は油やら、醤油やら重たいものばかりを中心に買ったようで、ふぅふぅ言いながら、春男の家までたどり着いた。巻いているマフラーが暑くてしょうがない。

「疲れた!重いもんばっかり。」

「ごめんよー。」

そう、まったく悪びれた様子も無く、春男は言うと、食材よりも先にカレンダーを開け始めた。なぜか足取りまで軽やかだ。コートも脱がずにだ。

「まて!冷蔵庫にしまえ!」

「閉まっといてー。ああ、鍋の材料はしまわなくていいよ、すぐに作り出すから。そこに適当に置いといてー。」

 オレはため息をついた。どうして、自分の家でもやらないことを他人の家でやらなくてはならないのだろうかと。コートを脱いで、手を洗ってから、がさがさ音を立てながら袋の生身を机の上に出した。正直なところ、なにを冷蔵庫にいれていいのか、よくわからない。

「よし!貼れた。見て!」

 見に行かないと、大騒ぎをするに決まっている。オレがしぶしぶ見に行くと、そこには宇宙の絵のかかれたポスターが貼ってある。

包まっていたせいか、まだ下のほうが丸まっている。

 春男本人は、日めくりに最初はしようとしていたのだが、オレが絶対にお前は毎日めくらない!と断言したせいか、普通のカレンダーになった。

「予定、書き込んどけ。」

「うん。あー、でも先に鍋作るよ。」

 春男は先に、手を洗ってコートを脱いで鍋の準備に取りかかった。その間に、オレはカレンダーをめくってみた。あれだけ悩んでいたにもかかわらず、比較的シンプルなカレンダーになっている。

オレが帰る頃、春男はにこにこしながら、ペンを引っ張り出してきた。

そのうち、あそこにはたくさんの記号が書かれて、ごちゃごちゃになるのだ。今のカレンダーのように。きれいなのは今だけかもしれない。オレはそんなことを思っていたのだが……。

 その三日後。原稿内容の確認のため、春男の家に向かうと。カレンダーは見事なまでに記号だらけになり、あのまっさらな綺麗さが完全に失われていた。そんなことになるような気はしていた。

「なにもわざわざ紙のカレンダーを買わなくても、電子を使えばいいじゃないか。エコだぞ、エコ。」

と、オレは言った。

「そしたら、パソコンを毎回開かないといけないじゃないか、面倒な。」

と、春男は反論した。電気代がかかることが問題なのではなく、わざわざ開くというのが手間らしい。しかし、言わせてもらうなら、春男のパソコンは基本的につきっぱなしなことが多い。朝から出かける場合を除いて、朝から晩までついている。

 まぁ、運動のために出かけるのはいいことだし、(たとえそれが一年に一度だとしても!)春男のカレンダーには春男の父親が書き込んでいくこともあるので、まぁいいかと思っていた、その帰り。

 廊下で、袋を蹴っ飛ばした。

「あ、悪い、なんだ、この袋?」

「それ?カレンダー。」

「はぁ?」

 開けてみると、確かに壁掛けタイプのカレンダーだ。春男の母親の料理研究家のマキさんがにこやかにほほ笑んでいる。レシピ付きだ。

「なんだ、わざわざ買わなくても、これ使えばいいじゃないか。」

「母さんのカレンダーにあれこれ書き込むと怒るんだよ。まったくなんのためのカレンダーなんだか。いるなら、持って行って。」

 春男がため息をついた。オレは、カレンダー一つであれこれあるもんだと、妙に感心した。


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