春男、父と健康
春男、父と健康
春男の父親の人相はこれでもかというほど、怖い。
そんな怖い顔でため息をつく様子はまるで、組の相続にもめているやくざの様なものだ。
「ど、どうしました?」
たまたま春男の家に来ていた、オレはおそるおそる聞いた。
「ん?」
「いえ、なんだか、元気がないような……。」
「あ、ああ。……若いっていいよなぁ……。」
「はぁ。」
オレはなんだかよくわからずに、頷いた。
「僕も若いんだけど?」
春男が言う。
「お前は別だ。」
にべもなく、父親は言った。
「気にしなくていいよ、最近、健康に悩んでいるんだって。」
「健康?」
あんなに怖い顔で悩んでいるものはこのことだったとわかるとちょっと落ち着いた。
「でも、太っていませんよ?」
どちらかといえば、細い。春男の半分以下ではないだろうか。
「いや、体型のことじゃないんだ。今回の健康診断でちょっと血圧が高くなっちまって。」
「血圧……。」
血圧は別に年齢で左右されるものではないのだが、どうやら、少々落ち込んでいるようだ。
「母さんが、血圧ダウン用にそばを作り出してねぇ。」
春男が内情をばらす。
「そば?ああ、そうだね、そばの何かが入ったお茶とかでていますしね。」
「お茶ならいい。二日に一回は確実にそば。それも市販。まずい。いや、食えないことはないが、まずい。そばなら自分で打ちたい……。」
春男の親父さんの苦悩は料理にあるらしい。春男の父親の趣味は家事だが、奥さんには秘密なのだ。
「黙って打てないんですか?」
「打てない。健康診断の結果に妻は自分の管理が足りないからだと言って、しょっちゅう家に帰ってくるんだ。家にいてくれるのはうれしいが、そばはまずい。」
春男の父親は愛妻家である。そのため、奥さんに逃げられたりしないようになにかと気を使っているのだ。
「さて、じゃ、そろそろいくよ。そばが待ってる。」
「んー。気をつけてね。」
息子でもないのに、なぜかオレが親父さんを送り出した。春男は椅子から動かない。送り出して、振り返ると、テーブルの上のものに納得がいった。なにやら、血圧関係の本が並んでいる。
「早く、血圧をどうにかしないと、逆に父さんのストレスが上がっちゃうだろうね。」
春男はのんきに、本をめくりだした……。




