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2.トリップ先で運命の出会い

 どれくらい気を失っていたんだろう、突然ボヨヨーンというやわらかな感触を全身に受け、あたしはハッとなって目を開けた。するとまた、ボヨヨンとクッションのようなものがお尻に当たる。


 ちょっ、えっ!?


 一瞬だけ見ることの出来た、シルエット。中央に丸くて黒い物体があって、その周りを透明なゼリーが覆っている。直径50センチほどのそれが山のようにいくつも連なっていて、あたしはその上をゴム鞠よろしく下っていく。


 ボヨン、ボヨン、ボヨヨヨーン。――バッチャーン。

 跳ねて、跳ねて、更に勢いよく跳ね上がって、また落下。最後は盛大な水しぶきの音と一緒に視界が青く塗りつぶされた。って、なにこれ! つめたぁああー!!


 お尻から着水したらしい、両手をついた半身浴状態であたしの身体はようやく動きを止めた。

 なな、なんだったの、今のは。今まで生きてきた中で最高ランクに位置する、絶叫体験アトラクションだったんだけど。

 

 ってそれより、ここどこ? 学校に、こんなところあったっけ。あたしは左右を見渡し、落ちた場所を特定することにした。

 周りを手ごろな大きさの石たちに囲まれてて、水の上にははすの葉が浮いてるってことは、池? 日本庭園にある池みたいな感じだけどって誰よ、こんなところに池を作ったやつは。全身びしょぬれじゃない、と内心毒づいていると、あたしはハッとあることを思い出した。


 水……、ヤバイ!

 ブラウスの袖をめくり、そこにある腕時計を確認する。


 うああああああああ。あたしのミサがあああああああああ。

 ちょうど17時を差して、完全に止まってしまっている腕時計。その中央に描かれているのは、愛しのミサ。『フェルソナ』最終巻一つ前の巻の初回特典で、これをゲットするのに、どんだけの労力と金銭を費やしたと思って――でもでも、あああああ。水が滴ってても、やっぱ可愛すぎる。

 はあ、と大きなため息。アラーム機能でミサが喋ってくれるから、お気にいりだったんだけどな……。


「大丈夫?」

「……へ」


 不意に背後からかけられた声に、あたしはピタと動きを止めた。

 え、うそ。あたしの腕時計、壊れていなかったの? 確認してみたけど、やっぱり止まったままだ。じゃあ、今の声は? だって、このあたしが聴き間違えるはずがない。でも『大丈夫』なんてセリフ、なかったよ、ね?

 あたしは、ゆっくりと振り向く。


 ……?


 …………!


 そんなまさか。

 あたしは、何度も目を瞬かせてみたりゴシゴシ擦ってみたりする。

 あれ、うそ、消え……ない。


 あたしが、腰まで浸かっている池のそば。大木の根元に座って読書をしていたらしい、一人の女の子が本から顔を上げていた。柔らかな栗色のロングヘアに空色の大きな瞳が、あたしをとらえて離さない。

 愛らしい表情が、不思議そうに小首をかしげた。そのちょっとした仕草に、あたしの体温が急上昇した。


「ミミミミミミミミミミミミミ――」


 彼女を指差しながら、羽化したばかりのセミもビックリなミの羅列があたしの口から飛び出す。


「ミ?」


 栗色の髪を揺らし訊ねてくる彼女に、ピィーーーー。笛吹きやかんの沸騰をお知らせする音が脳内で響きわたり、あたしの脳みそは完全にオーバーフローした。

 口をパカッと開けたまま、池の中で立ちつくすあたし。彼女は膝に乗せていた本を閉じると、それを胸にかかえながら、クスクスと笑い始めた。


「空から落ちてきたように見えたのに、全然平気そう。もしかして、天使さま?」


 天使? そうだ、天使だ。天使なら今、あたしの目の前にいる……。

 何度も夢に見た彼女が、実際に動いて、話して、そして笑っている。ヤバイ、想像していた以上に可愛い……!


 もしかして、もしかして、もしかして――。

 さっきから、あたしの頭の中を埋めつくしてやまない名前。ドキドキしながらそれを口にしようとした、その時。


「おーい、ミサ~~っどこだあ~~っ」

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