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1.ハーレムエンドにもの申す!

 放課後。西日さす高校の教室。

 ホームルームが終わってから少し経つけど、まだ数人の生徒がだらだらとだべっているその一角で。


「終わった……」


 あたしは、文庫本を手に、真っ白に燃え尽きていた。


「あ、さやか、『フェルソナ』最終巻、読み終わったんだ。さすが早いねー。で、どうなった?」


 前の席で雑誌に目を通してた麻美あさみが振り返って話しかけてきたけど、ショックが大きすぎて、すぐには反応できない。


「どうしたの? まさか――ミサが死んだとか?」

「勝手に殺すなー!! んなことになってたらその瞬間あたしも窓から飛び降りてたわ!」

「はいはい、じゃ、なにごと?」

「ヒカルが……ヒカルがミサを選ばなかったのよー!」


『フェルソナ』は最近中高生を中心に人気のライトノベルシリーズ。


 主人公ヒカルが超能力者育成学園で個性豊かな仲間たちと出会い、成長しながら巨悪に立ち向かう、笑いあり涙ありバトルあり恋ありの学園青春ファンタジー……なんだけど、このシリーズの人気の秘密はなんといっても魅力的なキャラクター達にあった。

 特に女性キャラが豊作で、幼馴染のツンデレ少女、クールで賢いお姫様、潔癖症の委員長、男装ヤンデレ娘……多彩なキャラ達がヒカルに想いを寄せるハーレム状態の中、最終的に誰とくっつくかってのが、ラスボス決戦以上に読者の注目を集めてたの。


 そして、あたしが愛してやまないのが、『フェルソナ』のメインヒロイン(のはず)である『ミサ』だ。

 

 ミサ。本名、天ノ川ミサ。

 柔らかな栗色のロングヘアに空色の大きな瞳。ヒカルの妹で、純粋で優しくて健気な癒し系。女好きで暴走癖のあるヒカルのツッコミ兼サポート役。

 妹、だけど実はヒカルとは血の繋がりがなくて、子どものころからずっと一途にヒカルを想ってきた……とくれば、いくらヒカルが鈍感なスケコマシでも最後はミサにいくと思うでしょ!? ところが!

 

 待ちに待った最終巻。いくつものフラグを立て、いよいよミサと両想いか――と思いきや、結局ヒカルはミサに愛を告白することなく、かといって他の美少女たちの誰かを選ぶこともなく、恋愛に関してはなあなあの状態で物語の幕は閉じたのだった……。


「いわゆるハーレムエンドってやつ? ありえないでしょ! ここはミサしかないでしょヒカルのアホンだら!」

「『フェルソナ』はどのキャラも人気あるからね~角が立たないように誰ともくっつけずに終わらせたのよ」

「そんな大人の事情知らんわ! これじゃミサの10年間の片思いが全然報われてないじゃない! ああ、可哀想なミサ……こんないい子をほっとくなんて信じらんない。ふざけんなヒカル、おまえなんかにはそもそも勿体ないくらいなのになんだこの扱い! てかミサも、なんでこんなエロガキがいいんだ。目を覚ましてミサー!」


 もどかしい気持ちで表紙のキャラ達に向かって呼びかけてたら、麻美に苦笑された。


「落ち着け、このミサ廃」

「お褒めに預かり光栄です。ミサ最高! ミサ万歳! ミサマジ天使! ミサ可愛いよミサ! ミサ好きすぎて生きるのがつらい! ミサをぎゅーぎゅーしたい! ミサをちやほやしたい! ミサちゃんミサちゃんミサちゃんなうあああああああ!!!」


 最終巻の寂しさも相まって完全にぶっ壊れてミサ愛を叫んでいたら、不意に、ポタンと何か水滴のようなものが頭のてっぺんに降ってきた。


「つめたっ。何……?」


 瞬間、ぼややややーん、と目の前の光景が歪みだす。


 え? え? え?


 黒板も、並んだ机も、すぐそばの麻美の姿もぐにゃぐにゃになって、カラフルな粒粒がちかちかと視界いっぱいに瞬きだして、気持ち悪さに思わずギュッと目をつぶる。

 その直後、床が爆発したような衝撃とともに、あたしのからだは座っていた椅子ごと真上にバッピョーンと吹っ飛んだ。


 んな!?


 それはもうものすごい勢いで、天井にそのまま頭ぶつけて死んじゃっても全然おかしくないくらいだったけど、なぜかあたしは何にも阻まれることなくいつまでも上昇を続け、果てしなく高度をあげ続け、昔ギリシャのイカロスが勇気一つと共に飛び立った雲より高くまだ遠く、いつまで上るのこれ、とそろそろ少しだけ冷静になってきた頃、ふっと止まった。と思えば。今度は。


 ――――落下。

 

 ひいいいいいいいいいい。


 全身を襲う無重力状態。あたしにできるのは歯を食いしばって身をすくませるのみ。

 当然、目なんて開けられない。恐ろしすぎて悲鳴も上げられない。

 自慢じゃないけど遊園地でもジェットコースター系の激しいアトラクションは超苦手なんだから。


 だめ、もう、限……かい……。

 

 そこで、あたしの意識は、ぷつっと途絶えた。


まずはサクッと異世界跳躍。

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