タイトル未定2026/05/25 11:29
親日はロボットにお願いした。
「日本の資料を取ってくれないか」
「承りました」
ロボットは、部屋の隅にある資料棚に行き、器用に両手を動かしながら任務を遂行し始めた。
無言である。
親日は窓の外を眺めた。
霧の向こうにかすかに見える山。
その影でさえ荘厳さを隠しきれてはいない。
机に目を落とす。
『富士山所有権闘争』
A4の薄型デバイスに書かれた文字は所々が欠けていた。
「お待たせしました」
「ありがとう」
親日は資料を受け取った。
少しでも力を入れると壊れてしまいそうで、優しく抱きとめる。
そっとページをめくる。
およそ百年前の日本の記録で、当時の国会答弁に関する記述が主な内容だ。
アメリカに対する膨れ上がった嫌悪感が擬似的な英雄を生み、政権を破壊するまでに至った。
暴走した英雄は戦火を撒き散らし、業火の中に消えていった。
日本の半分と一緒に。
「まだ調査しきれていない部分が多分にある。
責任の所在を明確にすることが、日本の今後のためになるかもしれない」
「そうですね!」
ロボットは元気に頷いた。
親日は資料をめくる手を止めた。
彼女を見た。
「少し声を抑えてくれないか」
「すみません」
「謝らなくていい。命令に従ってくれ」
「承りました」
ロボットは声音を抑える。
親日は手を動かす。
窓から風が入り込む。
汚れたカーテンが揺れた。
ページをめくる音だけが部屋の隅っこで鳴っていた。
親日は資料を読み込む。
しかし書いてあるのは日本の失態ばかり。
ページをめくる手は止まらない。
止まれない。
夜が来た。
窓は開いたままだった。
冷たい風が親日の背中を叩く。
ロボットは虚空を眺めている。
親日は資料を机に置いた。
窓を閉める。
「元に戻してくれ」
「承りました」
親日は、棚に向かうロボットの背中を見つめた。
コンクリートのような鈍色の肉体。
関節に隙間が見える。
彼女は、滑らかに資料を棚に戻す。
無駄のない所作だった。
不気味だった。
親日は目を逸らし、途方もない未来のことを考え始めた。




