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自分の中の化け物 sideルスラン

 シエノークのおかげで入学は楽しみになったが、入学式は憂鬱だった。

 なにが楽しくてシエノーク以外の貴族に囲まれて長時間拘束されなきゃいけないんだ。

 シエノークはまともな貴族だが、それはシエノークが特別賢いからだ。シエノークほど賢くないであろう他の貴族のことはまだ全然嫌いだ。


 よって、サボった。


「とんでもわがまま坊ちゃんです……っ!」

「横暴の化身ですねー」


 初等部一年の教室で暇をしていると、窓の外に姿を現して話しかけてくる護衛二人。

 どこに立っているんだと思ったら、外の木の枝だった。

 ちなみに、護衛の片方は薄っすらと赤みがかった白髪を持ち、片目が隠れている女。もう一人は緑のもさもさ髪を持っている……性別不詳。

 控えめな口調で失礼なのが白髪のキィ、いつも間延びした喋り方をしていて失礼なのが緑髪のミャフだ。


「なんでお前らどっちも失礼なんだ!どっちかは敬えよ!」

「最低限敬ってますよ……っ?」

「最大限敬えよ!!」

「入学式おサボり坊ちゃんですからねー。敬いレベル低下中ですー」

「はぁ!?別に入学してやったんだからちょっとサボるくらいいいだろ!あんな数の貴族に囲まれたら息ができなくなって死ぬ!!」

「この坊ちゃんに友達はできるんでしょうか……っ?」

「できないんじゃないですかー?」

「シエノークがいるし!!」

「シエノーク様と友達になれる前提ですか……っ?」

「このままじゃ態度悪すぎてシエノーク様に幻滅されるかもですよー」

「な……っ!?」


 シエノークに幻滅される…………???

 全く考えていなかった可能性を指摘され、俺は青ざめて呆然とした。

 言われてみれば確かに、自分は真面目に入学式に参加してるのに堂々とサボっている奴がいたら嫌かもしれない。

 いや絶対そうだ。

 え!?どうしよう!?


「なんで先に言ってくれなかったんだよ!!」

「理不尽な怒りですー」

「これを機に態度を改めましょう……っ!」

「い、今から参加したら間に合う……?」

「途中参加はむしろ印象悪いですねー」

「今回はもう仕方ないので、この教室で堂々と出迎えましょう……っ!」

「…………もしも嫌われてたらどうやって巻き返せばいい…………?」

「情けない坊ちゃんですねー」

「う、うーん……、ちゃんと毎日挨拶してコツコツ印象アップを図るとか……?」

「あいさつ……」

「あ、そろそろ入学式終わりそうなので消えますー」

「坊ちゃんファイトです……っ!」

「あ、おい!」


 もっと案を出して欲しかったが、消えてしまった。こうなったらもうあいつらは呼びかけても現れない。いや現れろよ。主人の命令だぞ。


 失礼な護衛に憤慨して窓の外を睨み続けていると、背後がざわざわし始めた。


 振り返れば、教師を先頭に、俺と同じくらいの歳の子供がぞろぞろ教室に入ってきていた。


 その中で揺れる小さな黒に、目が吸い込まれた。




 それは、黒を基調として金の装飾が散りばめられた正装を身に纏ったシエノーク。

 着るものによってはキツい印象を与えかねないその衣装は、シエノークの柔らかい顔つきにより中和され、綺麗な印象だけを感じさせていた。

 シエノークが他の子供と並ぶとその小ささが際立つ。まるで、生まれたての子犬が大人に混ざってちょこちょこと動いているかのようだった。


 シエノークは俺を見ると、ふにゃりと無防備な笑顔を見せた。




 え?


 可愛い。

 守りたい。

 口に含みたい。

 美味しそう。

 食べたい。




 教師が「あそこにおられるのがルスラン様だ」と発言し、シエノークの視線がそちらに向いた。


 その間に目を逸らし、意味もなく窓の外を見る。


 心臓がうるさい。


 なんだ?今の感情は。

 シエノークを見ると、ありえない感情が湧き上がってしまう。

 なんなんだこの気持ちは。

 本当になんなんだ。


 ……とにかく、あの笑顔を向けてもらえたのだから、嫌われてはいないだろう。多分。

 そうだったらいいな。


 そんなことを考えていると、隣の椅子が引かれる音がした。振り返れば、そこにいたのはシエノークだった。


 えっ。

 わざわざ俺のところに来てくれたの?

 こんなに椅子があるのに?

 他の貴族は見るからに俺を避けてて俺とシエノークがいる場所が孤島みたいになってるのに?


 俺の動揺をよそに、シエノークは聞こえやすく澄んだ声でこう言った。


「おはようございます」


 そう言って、俺の返事を待つこともなくさっさと座って前を見るシエノーク。

 俺は口をあんぐりと開けた。


 ……挨拶って、こんなに嬉しいものだったんだ……。


 挨拶というものが存在するおかげで俺は今シエノークの声を聞けたのだと思うと、挨拶を発明した人に盛大に感謝したい気持ちになってきた。

 ありがとう。


『う、うーん……、ちゃんと毎日挨拶してコツコツ印象アップを図るとか……?』


 ここで、キィが言っていたことを思い出した。

 嫌われてはいなさそうとはいえ、入学式にいなかったのは印象が悪いだろう。俺も挨拶して巻き返さねば。

 

「……ぉはよ」


 下手か。

 あまりの恥ずかしさに、振り返るシエノークと目が合う前に窓に顔を向けてしまった。


 こいつ声小さいなと思われただろうか??

 絶対そうだ。

 最悪だ。


 泣きたい気持ちになっていると、窓の外に護衛が現れて、『気にしない気にしないー』『明日も頑張りましょう……っ!』と合図された。

 こいつらに慰められるなんて……と逆に悲しくなった。

 恥ずかし過ぎてその日は終わった瞬間寮に逃げ帰って挨拶の練習をした。




 ******




 シエノークは、毎日俺の隣に来て、挨拶をしてくれた。


 え?俺のこと好き?


 思わず勘違いして舞い上がりそうになる心を理性で押さえつける。

 違う。シエノークは別に俺が好きだから俺のところに来てるんじゃない。

 勘違いして調子に乗ってなんだこいつと思われたくはない。


 冷静に分析してみれば、なんのことはない、図書館で先に話して、顔見知りになっていたからだろう。


 シエノークが他の子供と話そうとしないところや、図書館で初めて会ったときの様子を考えるに、シエノークは極度の人見知りなのかもしれない。

 だから、初めましての貴族よりも、一度話したことのある俺のところに吸い込まれるようにして来てしまうのだ。


 危ない危ない。危うく調子に乗るところだった。

 冷静になれてよかった。




 図書館で勉強しててよかった~~~~~~~~!!!

 シエノークが隣に来てくれて嬉しい~~~~~~~~!!!

 毎日俺だけに挨拶してくれる~~~~~~~~!!!




 実際のところ全然冷静ではなかったが、顔だけは冷静に保って挨拶を返した。練習の甲斐あって、二日目からは問題なく発声することができるようになっていた。


「おはようございます」

「おはよう」


 幸せだ。


「青春……ですね……っ!」

「挨拶だけで満足しすぎではー?」


 護衛は相変わらずうるさい。




 ******




 数日して、初めて体を動かす授業の時間がやってきた。

 体を動かすのは好きだ。実は、勉強よりも。

 もちろん、体を鍛えるだけでは国は救えないので、そればかりやって勉強がおろそかにならないように気をつけているが、毎日走って気分転換しないとなんとなく夜眠れなくなるくらいには、好きだ。


 そのため、少しだけ心躍らせながら迎えた初授業だったが……、


 先生の話が、やたらと長かった。

 どうでもいい。早く動きたい。

 そう思っても先生の説明は止まらず、授業の終わり頃になるまで先生は喋り続けていた。


 このまま終わるのだろうか……、と残念に思っていると、最後の最後でようやく、軽く護身術を実践しようと言われた。

 俺もすでに知っている護身術なのだろうが、まぁ、全てが先生の話で終わるよりマシか。

 やれやれと思いながら立ち上がると、先生はとんでもないことを言った。


「二人一組になってください」


 そういうの本当によくないと思う。


 いつも隣に来てくれるシエノークは、体がすごく小さい。体が大きい俺の相手をさせるのは可哀想だからだめだ。

 かといって俺には他に組む相手もいない。なんならテオスの家の子だからとずっと避けられている。

 シエノークが体格の近い子と組んで、最後に余った貴族と顔を見合わせて気まずい空気が流れる未来が見える。


 示し合わせていたのだろうかという早さでペアを作る他の生徒たち。

 そんな彼らを、誰が余るのかなと予想しながらぼんやり眺めていると、俺を避けて遠ざかっていく人の流れに逆らって、シエノークがぴょこんと飛び出してきた。


 きらきらした目で俺を見上げている。

 え。可愛い。

 ……じゃなくて。


「……お、前、まさか、俺とペアになる気か……?」

「はい」


 何故か自信満々に返事をするシエノーク。

 どこから来るなんの自信なんだそれは。


「……お、俺が触ったら折れたりしないか……??大丈夫か……??」


 なんでその小ささで俺のペアが務まると思っちゃったんだ?

 他の人から見たら小型犬とライオンだぞ。


 周りが騒がしくて俺の言葉が聞こえなかったのか、きょとんと首を傾げるシエノーク。

 クソッ可愛い。


「……わかったよ」


 完敗。シエノークの無言の圧と可愛さに一瞬で敗北し、俺は白旗を上げた。

 



「では、生徒同士で実践してみましょう、ペアの片方がもう片方の腕を掴んで、掴まれた方は、教えられた方法を使って抜け出すようにしてみてください。一度行ったら役割を交代して、もう一度行ってください」


 やっぱり知ってる内容だった。つまらないなと思いつつ、一応実践するためにシエノークに視線をやると、シエノークは「えっあっ……」とか言いながらオロオロしていた。


 ……もしかして、掴むとか掴まれるとかやったことないんだろうか。

 なさそう。

 可愛い。


 シエノークは慣れていなさそうだったから、先に俺が護身術の手本を見せた方がいいと思い、「……とりあえず、俺が抜け出す方やるから」と声をかけた。


 シエノークは瞬きした後、小さくこくりと頷いた。

 そうして、恐る恐る俺に両手を伸ばして、きゅ……。と握った。

 動作の一つ一つが可愛い。癒される。

 そうして訪れた、気持ちいい圧迫感。

 ……力を入れすぎるのが怖くて手加減しているのだろうか?一瞬そう思ったが、シエノークは顔を真っ赤にしてプルプル震えていた。


「え、それ全力?」

「はい……!」


 思わず尋ねると、真剣な顔ですぐに返事してくれた。

 可愛すぎるだろという気持ちと弱すぎるだろという気持ちと今のとんでもなく失礼な発言だったけど気にならなかったの?という気持ちとずっとプルプルしてるところを見てたいなという気持ちとそれは可哀想だよなという気持ちがいっぺんに押し寄せてきて、内心むちゃくちゃになりながら、腕に力を込めた。


 スル……


「あっ……」


 俺にあっさり抜け出され、ぽかんと自分の両手を見つめるシエノーク。こんなにすぐ抜け出されるとは思っていなかったようだ。

 自分の弱さに自覚が無さすぎるだろ。

 可愛過ぎて怒りすら湧いてきた。

 イライラする。

 でもシエノークが可愛過ぎて発生したイライラは嫌な気持ちにならないから不思議だ。


「……じゃあ、掴むけど……」


 折れない?大丈夫?と続ける前に、「あ、はい!」と元気よく片腕を差し出すシエノーク。

 クソッ可愛い!どうなっても知らないからな!どうもしないけど!と思いながらシエノークの腕を掴む。


 ぎゅち……っ。


 握ってみると、あまりに細い。本当に折れるんじゃないかと心配になったが、手を抜いて易々と抜け出せる状態にしてしまっては授業にならないし、シエノークのためにもならないだろう。

 心を鬼にして握り続けるが……、シエノークは、一向に抜け出してくれない。


 護身術が身についていないのもあるが、なにより力がなさすぎるのだ。


 顔を赤くし、苦しそうに歪めるシエノーク。


「…………うっ、ん……っ、……ぐぅ……」




 はぁ、はぁと、シエノークの息が上がってくる。

 鼻にかかった呻き声が耳に響く。




 かぁ、と顔が熱くなる。

 腹の奥が疼く。

 無意識に、手に力が入る。


 噛みつきたい。


 脳のどこかで、それ以上はだめだと理性が叫ぶ。

 今その衝動を抱えてはだめだと。

 それでも、止まらない。止められない。溢れ出す。




 痛みに顔を歪めてほしい。

 呻き声が聞きたい。

 弱り、細くなっていく息を耳元で感じたい。




 シエノークの目に涙が浮かび、光を反射した。




 ハッと我に返って手を離す。

 よろめいて転びそうになったシエノークを捕まえて受け止める。


 小さな小さなシエノークの体を抱きしめながら、俺は呆然としていた。


 俺は、……俺は、なにをした?

 不必要なくらい腕に力を込めて、シエノークを痛めつけて……、……何を、考えた?


 顔から血の気が引く。妙な汗が吹き出す。

 俺の中に、化け物がいる気がした。




 これ以上抱きしめていたら、潰してしまいそうな気がして、「やりすぎた」と言ってシエノークを解放する。


「痛い?」


 そう尋ねると、シエノークはすぐにこくりと頷いてから、視線を彷徨わせ……、「……ゃ、やっぱり痛くないです」と明らかな嘘をついた。


 不快な苛立ち。

 今度は、シエノークが俺に嘘をついたことに、腹が立った。

 嘘をついたシエノークに腹が立ったのではない。

 シエノークを怯えさせ、シエノークに気を遣わせ、嘘をつかせた俺に腹が立った。


「見せて」

「えっ」

「あざになってるかもしれない。見せて」


 俺は、怒りを隠すのが苦手だ。イライラすると、全て態度に出る。

 これじゃあ、また怖がらせてしまう。


 そんな俺にやはり怯えたのか、シエノークは逃げようとした。首を横に振り、腕を見せることを拒否したのだ。


 ……でも、もし本当に怪我をしていたら、放置するのはよくない。

 教会の人もよく言っている。すぐ手当てするのが大事なんだって。

 だから、嫌かもしれないけど、見せて欲しい。


 もう一度頼もうと口を開いて……、「そこまで」と先生の声が響いた。




 邪魔された。

 イライラする。イライラする。イライラする!

 早くシエノークを手当てしないといけないのに!


 むしゃくしゃして仕方なくなって、先生の話が終わった瞬間、シエノークを捕まえて、袖を捲っていた。







 赤くなった肌。

 グロテスクな古い傷痕。




 すぐに振り払われ、袖が戻されたが、その光景は、俺の目に焼きついた。

 シエノークは、ひどく怯えた顔をして、震えながら後ずさった。




 確認するため、という名目で、実際のところ、八つ当たりだった。


『肌を見せるのを嫌がる人の服を捲って、無理やり見てはいけませんよ』

『その人の心の傷が開いてしまうかもしれません』


 教会でお医者様が言っていたこと。

 知っていたのに。




 嫌われたかもしれない。

 ……ううん、そんなことどうでもいい。

 謝らなきゃ。

 許されなくても、謝らなきゃ。


「ごめん」


 声が震える。心が痛い。

 でも、きっとシエノークは、もっと痛い。


「痛い思いさせて、勝手に見て、ごめん」


 シエノーク、その傷跡は誰につけられたんだ?

 俺が声をかけたときに怯えていたのは、他の生徒に頑なに話しかけようとしないのは、人が怖いから?

 人が怖くなるくらいのことを、誰かにされたのか?


 尋ねたくて、でも、尋ねる資格は俺にはないと思った。


 完全に黙って、動かなくなってしまったシエノーク。




 気がついたら、周りの生徒はみんないなくなっていた。

 ……急かしたくはないけど、俺のせいで次の授業に遅刻させてしまうのはもっと嫌だ。


「次の授業あるから、行こう」


 俺がそう言うと、シエノークはこくりと頷いて、ようやく動き出した。




 ******




 シエノークは、最後の授業の間ずっとぼんやりしていた。

 いつもなら自習するのに、本を開きすらしなかった。

 そうして、終わった途端、ふらふらと教室を出ていった。


 俺も寮に戻ろうか、と思ったが……、あまりにもシエノークの様子が異様で、心がざわついた。

 なにか、放っておいてはいけない気がした。




 結局、シエノークがアツェ寮に入るところまで、こっそりついていってしまった。


「……ミャフ、キィ」

「あの子の詳細は教えないですよー」


 護衛の名前を呼ぶと、俺が何か言うより先にそう言われた。「わかってる」と答えて、俺はシエノークが入っていった寮を見つめながら、護衛に話した。


「俺、変なんだ。シエノークを傷つけたいと思ってる。苦しむ顔が見たいと思ってる。噛みつきたいと、そう思う」


 気がついたら、涙が溢れていた。


「……俺のっ、中に……っ、化け物が、いる……」


 拭いても拭いても涙が止まらない。


「……そのせいでシエノークを、傷つけ、ちゃった……っ」


 しゃくり上げて泣く俺に、ミャフはいつもと変わらないテンションでこう言った。


「傷つけちゃったものはもうしょうがないですねー。時は戻らないですー」


 その軽さは、俺の心も少しだけ軽くした。腹は、立ったけど。


「……もう一回、謝ったほうが、いい……っ?」

「いやー?もう謝ったのでー。これ以上はしつこいんじゃないですかー。しつこい男は嫌われまーす」


 キィが、横から口を挟む。


「人は、誰でも化け物を飼ってます……っ!それを閉じ込めるのが、理性という檻なんです……っ!それでね、あのねっ、檻は、勉強と自己暗示で丈夫になるんですよ……!」

「……勉、強……じこあんじ……?」

「はい……っ!なんで人を傷つけてはいけないのかっていう勉強と……、もう二度と、絶対、ぜーったい傷つけないっていう、決意です……!もうしないぞーって、自分に言い聞かせたら……、結構、効果ある、らしいです……!」

「……らしいって……」


 キィの曖昧なアドバイスに、少し吹き出してしまう。心が、もう少し軽くなる。


「失敗は、誰にでもあります……っ!坊ちゃんはまだまだ子供ですから失敗するのも当たり前……っ!繰り返さなきゃいいんです……!成長していきましょう……!えいえい……おー……っ!」

「おー」


 護衛達のゆるすぎる応援に呆れた目を向けた頃には、涙は止まっていた。



 キィに言われたことを、自分の中で反芻する。

 ……成長……。

 成長できるかな。成長したら、シエノークのことを傷つけずに、そばにいられるようになるかな。


 ……いや。

 するんだ。

 できるかななんて、甘えたいことは言ってられない。

 もう二度と、絶対、絶対、シエノークを傷つけたりしない。

 神に誓って。


 そう考えていると、アツェ寮からすごい勢いで飛び出してくる人影が見えた。




 シエノークだった。

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