第8話 「ソレ、ホントに食べて大丈夫?」
「いらっしゃいませ。ご注文をお伺いします」
「コレとコレ。あとコレも」
メシ屋に入ったオレたちは席に案内され、間もなくしてウェイトレスが注文を取りに来た。
結月のヤツ、相変わらずよく食うな。
「陽一郎は?」
「オレ、は……水を……」
「食べないの?」
食いてーよ。オレだってハラが減ってんだよ。
だけどその金は邪神が結月に持たせたモンだろ。つまり結月の金だってコトだ。
オレにだってプライドがある。結月相手に集れっかよ。
とりあえず水を飲んでハラを誤魔化すしかねぇ。
水がタダで助かったぜ。海外なんかじゃ有料のトコも多いって聞いたけど、この世界の浄水設備とかって意外と整ってんのかな? まさか雨水とかじゃねーよな?
しっかし本格的に金策が必要だな。
さっき言ってた魔法屋のばーさんとやらに金を借りられねーかな。それともチコりんからファイトマネーとか言って毟り取るか? 戦ったのは結月だけどな。
何にしても、今日明日中になんとかしねーと……。
「お待たせしましたー」
もう来たのか? えらく早えーな。
ハンバーグとライス、グラタンにサラダか。ファミレスみてーだな。
くっ……空きっ腹に食いモンの匂いが……。
「食べる?」
「……い、いらねぇ」
「どこ行くの?」
「便所」
こんなの一緒にいられるかっ! オレは席を外させてもらう!
いや、ホントに小便がしたくてだな。……ホントのホントは誘惑に負けそうだからだよ! 悪いかよっ!
あぁ、ダメだ……。ハラが減りすぎて何考えてるのか自分でも分からねー。
とりあえず便所に行くか。
「っと、悪ぃ」
「い、いぇ……」
便所の入り口でウェイトレス姿の女の子とぶつかっちまった。
オッパイは……くっ、負けた……。
いや、ナニを張り合ってんだよ。それより小便小便っと。
小便なのに便座に座るのもヘンな感じだな。オレは立ってする派なんだよ。女って不便だなー。……便だけに。
ってか水洗かよ。この世界の文明水準、どーなってんだ?
あー、出すモン出したけど、すぐに戻ってもまだ食ってるよなぁ。ガマンできる自信がねーし、少し待つか……。
それはそうと、やっぱチコりんも一緒にいたネーちゃんも【魅了】が効いてた感じはなかったな。やっぱバグってんのか?
いや、ネーちゃんはともかくチコりんに迫られても困るけど。そーいう意味じゃ、バグってて助かったけどな。
しっかし、こうなると完全に死にスキルか……。
これからどーすっかなー? スキルなしじゃヒモ生活なんて無理だろーし、ましてや女の身体だからなー。
マジメに働くしかねーのか……。
とは言ってもどーするよ? この世界のコトなんて何にも知らねーし、前世の知識があるっていってもタダの高校生だぜ? オセロでも作って流行らすか……? いや、ネーちゃんの話じゃ異世界人は結構な数がいるみてーだし、とっくに広まってるか。
……と、そろそろ戻るか。
何にも決まってねーけど、便所で考え込んでても仕方ねぇ。
と、個室のドアを開けた瞬間。
「あっ、ぁのっ!!」
「どぅわっ!? な、なんだ……」
ドアの前に女の子が立っていた。いや立ってただけならいいんだが、いきなり大声で話しかけてきやがった。
ん? さっきぶつかった子か? 少し顔色がワリーようにも見えるけど……。
「こ……これっ」
なんだ? なんかオレに渡そうとしてきたぞ? 上から布が掛けられてて、よく分かんねーけど。……ん? なんか、いい匂いが……。
「あ、ぁたしは、これでっ」
「ちょっ、オイっ。……何だってんだ?」
ムリヤリ押し付けて行っちまいやがった。少し呂律も怪しかったし、ホントに大丈夫なのかね?
そんな事を考えながら、無意識に包みの布を剥がすと……食欲のそそる匂いが便所の中に立ち込めた。
「これ……ロールキャベツかっ!? ったく……便所に食いモンを持ってくんじゃねーよ。しょーがねーなぁっ」
なんて言いながら器を抱えて、結月の待つ席へと戻る。
ヤベー。ニヤけヅラが収まらねー。これ、オレが食っていいんだよなっ?
「おかえり。……それ、どしたの?」
「へへーん。神はオレを見捨てなかったってコトよ。いや、神ってあの邪神か。なら、オレの仁徳の賜物ってヤツだな」
邪神も、役に立たねースキルも関係ねぇ。これがオレの実力ってヤツよ。
いやぁー、モテる男はツレぇなー。いや、今は女だったわ。
くぅーっ! ぅんめぇーっ!! 何の肉か分かんねーけど空きっ腹に染みわたるぜっ! ん? 髪の毛が入ってやがる。ま、いいや。ポイっとな。
おりょ? もう空か。少し食い足りねーけど、ガマンすっか。オレは結月ほど食い意地が張ってねーしな。
名も知らぬ少女よ、ごっそさんっ!
「さって、行くか」
「……(こくん)」
とりあえずハラは落ち着いたし、今度は寝床を考えねーとな。とはいえ、相変わらずオレは文無しだ。結月は金を持ってるみてーだけど……オレだけ野宿するっつったら反対するだろーなぁ。
野宿に付き合わせるのもワリーし、最終手段として結月から借りるしかねーか。
しかし、その前にできることはしてみるか。
「さっき門番のネーちゃんが言ってた、魔法屋のバーさんトコに行ってみっか」
どんな話が聞けるのかは知らねーけど、もしかしたら金を貸してくれるかも知れねーし。
結月も反対しねーみてーだし、決まりだな。
そうして通行人に道を尋ねながら迷い迷って、ようやく目的地にたどり着いた。
やっぱ初めての町じゃ、道を聞いてもよく分かんねーなー。
これが魔法屋か。何売ってんの?
とりあえず中に入るか。
「あ、いらっしゃーい。なんのごよーですかっ?」
店内に入ると愛想のいい返事が飛んできた。
バーさん……には見えねーな。小学生くらいのガキだ。いや、ひょっとするとロリババァの可能性も……。
「おばあさんに会いにきた」
「おばあちゃん? サチコおばーちゃーんっ! おきゃくさんだよーっ!!」
ロリババァじゃなかったか。ちょっと残念。
ってか「サチコ」? どう考えても日本人の名前じゃねーか。
「はいはい、今行くよ。……はぁ、またかい?」
おい、バーさんよ。人の顔見てため息つくのは失礼ってモンじゃね?
ま、いーや。とりあえずは金の無心が先だ。それをしなきゃ始まらねー。情報収集はその後で十分だ。
「ってなワケでバーさん、金貸してくれねー?」
「なんだいこの子は、藪から棒に」
「いやマジで困ってんだよ。さっきロールキャベツを恵んでもらわなきゃ、今ごろミイラになってっトコだよ」
いや流石にミイラは大げさだけどな? それくれー切羽詰まってるってコトだよ。
……ん? なんかバーさんの顔色が変わったよーな? ちっ、そんなに金を貸すのがイヤなのかよ。
「あんた、そのロールキャベツって誰に貰ったんだい?」
「あ? いや、知らねー子に」
「それ、下手すると妊娠してるかもしれないよ」
…………なんで?