第7話 「アイツはいつも空回り」
「2人とも【筋肉は嘘をつかない】でも悪意は見えんし、入町検査は問題なかろう」
「それじゃ改めて♪ ようこそ、ロセウスへ!」
何でもないように言ってくれっけど、問題ないなら何で戦ったの? 結月も誇らしげに胸張ってんじゃねーよ。
コイツらの事が全く理解できねー。
それはさておき、町の中に入る前に確認した方がいいな。
「ちょっと聞きてーんだけど、そのチートスキルって……」
「ん? まさか余の【筋肉は嘘をつかない】を疑うつもりか?」
そう言って、チコりんがスキルウィンドウを開いて見せてくる。
聞きてーのはスキル内容じゃなくて、チートスキルそのものだったんだが……。ま、いちおう見ておくか。
【筋肉は嘘をつかない】
筋肉の全てが見える。
説明文短っ!? スキル名と文字数が同じじゃねーかっ!? しかも意味不明だしよっ! これを見せて何が理解できると思ったんだ?
……はぁ、仕方ねーからこっちから質問すっか。
「チートスキルって、誰でも持ってんのか?」
「おかしな事を聞くやつだな? 成人すれば誰でも神から授かるだろう?」
誰でも……。ふざっけんなよっ、あの邪神っ!
何がチートだよっ!? 全員が持ってたらズルでも何でもねーじゃねーかっ!
「あーっ! もしかして2人は異世界人?」
「なるほど。そういえば見慣れぬ服を着ているな」
おまけに異世界から転生した事もバレてる!?
何なんだよもーっ! 少し「マンガの主人公みてー」なんて思ってたのに、オレたち特別でも何でもねーじゃんっ。
「なら、町に住んでる魔法屋のおばあさんのトコに行って話を聞くといいよ☆」
「あのー、異世界人って結構いんの?」
「町に定住してる人以外は、たまーにかなぁ?」
あの邪神、そんな頻繁に人を攫ってやがんのか。とんでもねーな。
ま、今言ってもしょーがねー。とりあえずは町に入るか。
「んじゃ行くか。結月、ケガは大丈夫か?」
「……(こくん)」
門を潜って中に入ると、そこにはタイルで舗装された道と所狭しと洋風家屋が並んでいた。うん、わかってたけど日本の街並みとは別モンだわ。
通行人の服装も、思った通りファンタジー風だな。
さって、まずは目当ての店を……おっ、すぐ目の前にあんじゃねーか。
「結月、あそこの服屋に入んぞ」
「……?(キョトン)」
結月のヤツ、分かってねーな?
しょーがねー。メンドーだけど説明してやっか。
「オレたち無一文だろ? だから今着てる服を金に換えるんだよ。異世界の服だから、きっと高く売れるぞ」
こーいう時は前世の服を売りに行くのが定番だからな。
金がねぇとメシも食えねーし宿にも泊まれねー。
きっと「こんな素材、見た事ないっ」っつって高く売れるに違いねぇ。
ダテにマンガやアニメを見てるワケじゃねーんだよ。
「……(ふるふる)」
「なんだよ? その汗クセー道着を売るのが、そんなにイヤか?」
「……(ムッ)」
なんだよ? なんか気に障る事を言ったか?
まぁいいや。さっさと金に換えてメシ屋に行こーぜ。オレのハラもそろそろ限界だしよ。
「いらっしゃいませー」
「スンマセン。オレが着てる服を下取りに出したいんだけど、いくらになります?」
「下取りはしてますけど……今、着てる服をですか?」
やべ。不審者を見る目だ。
よく考えりゃ、そりゃそーだ。着てる服を売ろうなんて、絶対フツーじゃ考えられねー。マンガの主人公はなんで変な目で見られねーんだ?
しかし背に腹は代えられねぇ。金がねーのは事実だし、売れるモンも他にねー。……スマホは売りたくねーし。個人情報の塊だかんな。
「ああ、できるか?」
どっちにしろ後には引けねぇ。男に二言はねーんだよ!
……今は女だったわ。
「査定の為にお預かりする事になりますけど……」
あ……。
完っ全っ、に頭になかったわ。
そりゃ査定しなきゃ買い値は付けらんねーわな。金がねーから替わりの服も買えねーし、パンイチでうろつくわけにもいかねーし……。
マンガの主人公どもはどーなってんだっ!? 都合が良すぎだろっ!?
「あ、あはは……。し、失礼しましたーっ!!」
クソっ。結局、逃げるように店を出ちまった。
どーするよ、これから。
ハァ……。ハラ、減ったな……。
メシ屋が目の前にあるのに、金がなきゃ入れねー。いっそ物乞いでもすっか?
「陽一郎、ゴハン」
「ちょっと待ってな。今、どーすっか考えてっから」
いくら落ちぶれても食い逃げとかはなー。犯罪だけはしたくねーし。
事情を話したら働かせてくれたりしねーかな? つっても数時間働いたくらいじゃ、たぶん宿には泊まれねーよな?
いよいよ野宿も覚悟するしかねーのかよ。
「入らないの?」
「金がねーだろ、金が」
世の中、金が全てを回してるんだよ? 金がねぇと服も食い物も手に入んねーの。オマエ、知らねーの?
「お金、持ってる」
……は? オマエ、今なんつった?