第5話 「中身は全く変わらない」
「陽一郎、大丈夫?」
結月が心配そうに覗き込んできやがるが、大丈夫じゃねーよ。
「マンガみてーな展開だな」とは思ってたけど、まさかTSものだとは思わねーだろ。TSは守備範囲外だっつーの。
クソっ、あの邪神め。何が「年恰好は変わらねー」だよっ! 性別が変わってんじゃねーかっ!! 恰好どころじゃねーよっ!!
胸は……少しあるな。結月と同じくらいか?
……ハっ!
なに自分で自分の胸を揉んでんだよっ!?
初めて触ったオッパイが自分のなんて、こんな悲しい事があるかっ!?
あぁ、ムスコもいねぇ……。
マイサン、どこいったんだよ……?
「ヘンタイ」
「んだよ? 確認だよ、カ・ク・ニ・ン」
別にやましい気持ちで胸や股間をイジってるわけじゃねーよ。
あ、でももう少しオッパイ揉んどくか。
「……(じとー)」
「わかったって。それより結月は異常ねーか? チンコが生えてたりしねぇ?」
「しないっ! ヘンタイっ!!」
何だよ? 心配してやったのに何を怒ってんだよ? オレが女になっちまったんだから、結月が男になってねーか心配すんのは当然だろ?
しっかし、ってー事はアレか。「女しかいない世界」だから男のオレは女になって、元々女の結月はそのまんまっつーワケかな。
確証があるわけじゃねーけど、たぶんそんなとこだろ。
つまり邪神の説明不足ってことか。
あの邪神めぇ……っ。今度会ったら絶対ヒィヒィ言わせてやるっ!
「まぁ、それはともかく。そろそろ動かねーとな」
「……(プイ)」
「拗ねんなよ。こんな何もねートコで夜明かしはできねーだろ?」
周りは草しか生えてねーし、こんなトコにいても仕方ねー。メシと寝床を確保しねーとな。
見える範囲に町とかはねーけど、向こうに川が見えるな。川に沿って進みゃ、村くらいはあっかな?
何にしても人のいる所を探さねーと。サバイバルなんてできねーし、したくねーよ。当然だけどキャンプ用品なんて持ってねーしな。
ん? 結月がまた鞄を漁ってんな?
今度は大きな紙を取り出したぞ?
「何だよ、それ? ……地図? もしかして、ここの?」
「……(こくん)」
何でそんなの持ってんだよ? 邪神が渡したのか? あ、それともこれが結月のチートスキルか?
「便利な道具を出すスキル」なんてのも定番だしな。
「これ、もしかして結月のスキル?」
「……(ふるふる)」
違うってことは、やっぱ邪神が持たせたのか。オレと待遇が違くねぇ?
……まぁ、態度で分かってたけどよ。
「どれどれ……近くに町があんな」
後ろから覗くと、現在地のマークのすぐ横に町のイラストが見える。
えらくポップにディフォルメされた邪神の絵で「スタート地点っ!」って吹き出しが書かれてやがる。フザけてんのか?
あとなんか町のところと、他にもいくつか紅点がついてっけど何だろな? ま、それは今はいーか。
縮尺は分かんねーけど、見えてる川の位置と比べりゃ大体わかる。町の位置はこっから10~15kmってトコか。
「んじゃ、行くか」
「ん」
ま、3時間ほども歩きゃ着くだろ。
そーいや結月の態度、いつもと変わんねーな。【魅了】のスキル、効いてねーのか? 「オレの子供が欲しい」って思うはずなんだけどな?
いやいや、別に結月を魅了しよーなんて思ってねーよ?
結月に「子供作ろ?」なんて言われても困るっつーか……。よく考えたら、今は作りたくても作れねーわ。トホホ……。
いやそーじゃなくてだな。
ホントにスキルの効果ってあんのか? ちょっと疑わしいな……。
「なぁ結月。オレ見てなんか思わねー?」
「……かわいい?」
「そーじゃねーよ」
やっぱ効いてねーのか? それとも効いててコレなのか? ひょっとして同じ転生者には効かねーとか?
わっかんねーな。まさか同性だから効かねーってコトはねーだろーな? もしそうだったら死にスキルじゃねーか。
そう思って、もう一度確認する為にスキルウィンドウをオープンする。
【魅了】
あなたを視界に入れたあらゆる女性はあなたを愛し、「あなたとの子供が欲しい」と願わずにはいられない。
子を為す事のできない別種族・幼子・閉経した女性は、愛ではなく好意に留まる。
う~ん。「女性」ってなってっから「同性は効かねー」ってコトはなさそうだけどな。
やっぱわかんねーな。
「陽一郎のスキル?」
「んだよ、勝手に見んなよ」
なんだよ。これ、他人に見えんのかよ。こーいうのは自分にしか見えねーっつーのが定番じゃねーのかよ。
「すけべ」
「悪ぃかよ?」
「……(つーん)」
勝手に人のスキルを見て批判してんじゃねーよ。
男はみんなスケベなのっ。……オレは今、女だけどな。
クソっ。オレのスキル、性転換と一緒にバグったんじゃねーのか?
これじゃハーレム王国どころか、ヒモ生活もできねーよ。
こんなワケわかんねー世界に転生させられて、性転換までしちまって、オレの人生どーなっちまうんだよ?
「陽一郎」
「なんだよ? 今、考え事してんだけど」
これからの人生について真剣に悩んでたっつーのに邪魔すんなよ。こちとら予定が大幅に狂って途方に暮れてんだ。
「町、見えた」
「お、もう着いたか?」
なんだよ。それならそー言えよ。
今のか弱いオレじゃ、野宿なんてできねーからな。生きてくためにゃ、とにかく町にたどり着かねーと。
あそこが町の入り口か? 門の前に何人か人影が見えるな。
とにかく向かうか。
結月と2人で門に向かうと、そこには数人の武装した門番(?)がいた。
その中の1人を見て、オレは絶句しちまった。
ゲームやマンガでしか見た事がないようなビキニアーマーを着た、筋肉ムキムキの変態女がそこに立っていたのだ。
そして変態筋肉女はオレたちに向かってこう言いやがった。
「む、旅の者か? とりあえず服を脱げ」