第4話 「私の幼馴染は世界一かわいい」
「……ん」
目が覚めると、視界には大空が広がっていた。
空気が澄んでるってのか? 寒くもねーのに、真冬の早朝みてーな空気が肺に満たされる。
「うぉ、すっげ……」
どこまでも続く草原。
遠近感が狂うほどの巨大な木。
地平線には火山から昇る噴煙も見える。
どれ1つ取っても日本じゃ滅多にお目にかかれない光景だ。
さらに加えて、変な生き物まで視界に入る。
遠くの方で首と脚が短いキリン(?)に、ピンク色のヌイグルミみてーな恐竜が歩いてる。空を飛んでるのは豆腐……か? 意味がわかんねー。
あの邪神、「魔物はいない」っつってたけどホントに無害なんだろーな?
そんなトンデモ生物どもを見た後に、続けて見慣れた生き物の姿が映った。結月だ。
「すー……すー……」
……寝てやがるな。
さっきとは逆に、オレの方が先に目が覚めたみてーだな。
コイツは寝起きがワリーし、起きるまで放っとくか。
そーいや、チートスキルはちゃんともらえてんのか?
こーいう時、マンガとかじゃ「ステータスオープン!」とか唱えるんだったな。
と、考えたとたんに目の前に文字が浮かんだ。念じるだけで出るパターンってことか。
なになに……。
【魅了】
あなたを視界に入れたあらゆる女性はあなたを愛し、「あなたとの子供が欲しい」と願わずにはいられない。
子を為す事のできない別種族・幼子・閉経した女性は、愛ではなく好意に留まる。
おっ。思った通りの能力だな。
「女しかいない世界」なら、このスキルを持ってりゃ危害を加えられる心配はねーし、困った時はきっと助けてもらえんだろ。
そして何よりエロ三昧だっ!
動物やガキ、ババァは「好意に留まる」ってのもナイスだな。
さすがにコイツらに手を出す気にはなれねーし、かといって「全くの効果なし」じゃ攻撃される可能性もあっからな。
オレは「能力の穴を突かれてバッドエンドになる主人公」にはならねーぜっ!
「んぅ……。よーいちろー……?」
あ、結月が目を覚ましやがった。
相変わらず寝起きがワリーな。半目だけ開けて、身体を起こしもしねー。
「よーいちろー……どこ……?」
「いや、寝ぼけ過ぎだろ。オレなら目の前にいんだろ」
ようやく身体を起こした結月がキョロキョロしながらオレを探してやがる。
いくら寝ぼけてても目の前の人間を見落とすかフツー? ってか、まずは周りの光景にビビれよ。日本じゃ絶対に見れねぇ景色だろーが。
「……陽……一郎?」
「おう。目ぇ覚めたか?」
なんだ? オレをじっと見つめて固まってやがる。
あぁっ! 【魅了】の影響かっ!
あ~、どっすっかな~。
正直、コイツにエロい事をしようなんて思わねーんだが……。
いや、別に嫌いじゃねーよ?
胸は控えめだが、顔の良さは認めてやる。オッパイは小せぇけど、イイ奴だってのも分かってる。バストはもう少し欲しいが、人当たりも悪くねーし人気もある。
でもなぁ~、結月はエロ対象じゃねーんだよな~。
コイツとはずっと一緒だったし、兄妹みてーなモンだかんな~。
「陽一郎、かわいい」
何言ってんだコイツ? かわいい? 背が小せぇってバカにしてんのか? いや……ひょっとすると、これがコイツの愛情表現か?
だとしてもムカつくな。エロ攻撃で苛め倒してやろーか。
……ん? なんだ結月のヤツ。自分の鞄を漁りだしたぞ?
ってか、鞄も一緒に転生してんのかよ。よく見りゃ服装もあん時のまんまだな。
「ハイ、陽一郎」
「あ? 手鏡?」
コイツ、こんな女の子っぽいアイテムなんか持ってやがったのか。ってか、それをオレに渡してどーしろっつーんだよ?
あ、ひょっとして盛大な寝癖でもついてんのか? あー、なるほど。結月は人の寝癖を見て「かわいい」とかって言いそーだわ。
クソっ、青カンで脱童貞かと思って少し焦っちまったぜ。
と、そう思って鏡で自分を映してみたんだが……。
「おい結月。寝癖なんてついてねーぞ?」
映っていたのは、まるで整えたかのようなサラサラの金髪ストレートヘアだった。
う~ん、キレイな髪だな。思わず見とれちまうぜ。
いやいや、髪だけ見てたけどスゲーな。
肌は色白でビックリするくらいキメが細けぇし、デケェ青目に長ぇまつ毛。少しばかり童顔だけど、小顔で全部のパーツが怖ぇほど整ってやがる。
まるで二次元美少女が飛び出してきたみてーだな。
…………んん?
「な、なな……なぁんじゃこりゃああああぁぁぁぁっっ!!!?」
鏡に映った美少女は、なんとオレだった。