第2話 「きっと、そうなると思った」
「……ちろー。……陽一郎」
……結月が名前を呼びながら揺すってきやがる。
頭を揺するな。揺らすなら肩にしろ。
「ふわぁぁぁ……。今日は日曜だろぉ?」
ったく、また母さんが結月を部屋に入れやがったな。
オレがナニをしてたらどーすんだよ。……いや、それはそれで。
「この男、下らん事を考えておるぞ。塵にするか」
「あん? 誰の、何が下らねーってぇ?」
どこの誰だか知らねーが、人の部屋に勝手に入って「下らねー」とは言ってくれるじゃねーか。
聞き覚えのない女の声だがカンケーねぇ。ヒィヒィ言わせてやんぜ。
「……と、あれ? ここ、ドコよ?」
オレの部屋だと思ったんだが……そこは見たことねー部屋だった。
ってか、そこらに食いモンの袋なんかが散らかってやがる。ちゃんと掃除してんのか? 部屋主のだらしなさが表れてんな。
「ここは妾の神殿よ。結月に感謝するが良い。本来なら下賤な男など、存在自体が許されんのだからな」
「はぁ? おたく、頭は大丈夫?」
このキタねー部屋のどこが神殿なんだよ?
ってかこの女、真っ白なローブってのか? コスプレみたいな衣装を着てやがる。アニメキャラになり切ってる、頭の痛いヤツか?
「陽一郎。あの人、神様」
「いかにも。妾こそ、アザーフュの唯一神・アナパトラーピヤである。崇め奉る事を許してやろう」
「あーそうですか。結月、帰るぞ」
変人には関わってはいけない。無視するに限る。
多少美人でも、頭のイカレた女はノーサンキューだ。
「ほう? どこへ、どうやって帰るつもりじゃ?」
ニヤニヤとムカつく笑みを向けてきやがるが、無視だ無視。ヘタに相手をするとつけあがらせるだけだからな。
ってかこの部屋、ドアがねーぞ? どっから出んだよ?
「愚かな貴様に教えてやろう。結月と貴様はすでに死んでおる。電車に轢かれてな」
「死ん……っ?」
そういや、電車に突っ込まれたような……。
「そこで妾が、美しく聡明で屈強な結月を我が世界『アザーフュ』に転生させようと魂を引き寄せたのじゃ。余計な害虫までついてきよったがな」
「おい、誰が害虫だテメェ」
「貴様じゃ。まったく、女しかおらぬ妾の美しい世界にこんな穢れた魂を招く事になろうとは……」
「テメェ、女だと思ってイイ気になんなよ?」
こういう男を見下した女は、男が絶対に手を出してこないと思って好き放題言いやがるんだ。
だがオレは違う。女だろーと鉄拳制裁も辞さない、ヤル時はヤル男だ。
「待って。話、聞いて」
と、そう思ったところで間に結月が割り込んできやがった。
そーいやコイツ、先に起きてたんだよな。すでに自称女神から話を聞いてたのか。
……チッ、しょうがねぇ。
確かに電車に撥ねられた記憶はあるし、百歩譲って死んだってコトは受け入れてやる。
ホントに神様だってんなら話を聞く価値もあるだろーしな。
「賢明な判断じゃな。これからお主らは新たな肉体と能力を得て転生する」
「転生? 赤ん坊になんの?」
「安心するが良い。新たな肉体はお主らの魔力を使って再構成される。年恰好もそれほど変わるまいよ」
ふむ。誰とも知らぬ親の子として生きるわけではないらしい。
まぁ見知らぬ他人を親と呼ぶ気はねーし、その方が都合はいいな。
しっかし魔力とはまた……。ファンタジーの定番だなぁ。
魔法とか使えんのかな? 能力ってのはそれのコトか?
「魔法が使えるかは素質と努力次第じゃな。それと能力は別じゃ。最近の者にはチートスキルと言えば伝わりやすいと聞いておるぞ?」
「チートスキルってーと、マンガやアニメのあれか? ってか、さっきから人の心を読んでねぇ?」
「神じゃからの」
マジか。ってことは、ヒワイな妄想を浮かべれば全部筒抜けに……。
よしっ。この邪神を脳内でメチャクチャにしてやるぜっ。アレをそうして、こうして、このっ、参ったかっ。このっ、このっ、これでも喰らえっ!
おっと、ムスコが臨戦態勢になっちまったな。
「やはり塵にするか」
「おっと失礼。で、続きは? 誰が言ったんだか知らねーけど、チートスキルってだけじゃ分かんねーよ」
オレも詳しいわけじゃねーけど、一言でチートスキルって言ってもマンガじゃ取得方法も効果も千差万別だ。
取得方法は、ランダムに手に入れたり自分で選んだり、適正で与えられたりってトコか?
効果は、それこそ種類が多すぎて特定できねーな。どんなスキルがもらえるんだ?
「厳密には妾が与えるわけではない。お主らの『望み』が『能力』となるのじゃ」
「望み?」
「どんな能力を欲するか、強く願うが良い。願いが強ければ強いほど、その能力は強くなる」
「何でもいいのか?」
「それもお主の願いの強さ次第じゃ」
ふーん。えらく曖昧だけど、要は何でもアリってことか。
何がいいかなー。少しワクワクすんな。
まず定番としては戦闘系だろ。それからスローライフものなんかで出てくる生産系の能力も捨てがたいな。
たまに生産系の能力なのにメッチャ強ぇなんてのもあるし、そこを狙うべきか……。
いや、その前に。
「なぁ、そっちの世界って魔物とかいんの?」
「たまに聞かれるが、そのようなものはおらん。妾の世界を何だと思っておる」
それじゃ戦闘系はナシだな。生産系一本で考えるか。
いやでも生産系ってなんか作んの? オレ、物作りに興味とかねーんだけど。別にスローライフなんてのも目指してねーし、領地経営とかぜってぇームリ。
んー……。他になんかあったかな~……。
「結月、お主の能力は本当にコレで良いのか?」
「……(こくん)」
何だ、結月はもう決めてんのか。心を読む邪神と無口な結月じゃ、話の内容が全く分かんねーな。
と、人の事より自分の事を決めねーとな。
「あ」
考えている内に閃いてしまった。
いや確かにこういった能力を持つ主人公の話もあるが……倫理観的にどうなんだ?
しかし、それはそれとして確認すべき事を聞かねばなるまい。
「なぁ、さっき『世界に女しかいない』って言ってなかった?」
「言ったぞ。妾の世界『アザーフュ』には女しかおらん」
聞き間違いじゃなかった。
……ならっ! オレのスキルはコレしかないっ!!
「決まったか? 能力の決め直しはできんぞ?」
問題ねー。このチートスキルなら、どんな世界だろうとオレの人生は安泰だ。
なんならオレの王国を作ってやんぜっ!
それは【魅了】っっ!!
一目見ただけで「ステキッ! 抱いてっ!」ってなるよーなキョーレツなヤツだっ!!
女しかいねー全人類から惚れられりゃ、オレの人生も安泰ってなモンよっ!
クズと笑いたきゃ笑えっ!
ゲスと罵りたきゃ好きにしろっ!
オレはこの能力でヒモ生活……いや、ハーレムを作ってやるぜっ!!
「……害虫め」
「ん? なんか言った?」
「結月、本当に良いのか?」
「……(こくん)」
またなんか2人で話してやがるが、今はどーでもいいっ!
願いの強さが能力になるっつーなら、今は【魅了】の事だけを考える時だっ!!
魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了魅了っっっっ!!!!
オレは自分と結月の身体が光り出して粒子になって消えるその瞬間まで、【魅了】の2文字を唱え続けたのだった――。




