第10話 「この世界の機械、すごいね」
「そういやバーさん、魔法屋って何売ってんだ?」
朝メシを食いながら、オレはバーさんに尋ねた。
朝はオーソドックスに米・魚・味噌汁だ。この世界に味噌ってあんのな。
「そりゃ、魔法屋なんだから魔法さ。魔法石って石があってね。それを飲むと魔法が使えるようになるのさ」
石、飲むの? この世界の人間、変なモンばっか食ってんな。ハラとか壊さねーの?
でも、それはそーと興味はあるよな。
スキルが使いモンにならねー分、魔法なら活躍できっかも知れねーし。転生者が膨大な魔力を持ってるなんて、マンガじゃ鉄板だろ?
「その魔法石ってのを飲めば、オレも魔法を使えんのか?」
「何だいあんた、魔法に興味があるのかい? 最近の子はみんなそう言うねぇ」
「で、使えんの? 使えねーの?」
「そりゃ使えるけどね……。ま、あんたはともかく結月ちゃんは使えるようになっといた方がいいだろうね」
なんでそこで結月が出てくんの? オレはともかくって、どーゆーコトだよ?
「あんたら、ご飯食べ終わったら採血するよ」
「採血? なんで?」
「魔法の適性を見るためさ。血液検査が一番正確なのさ」
そーゆーの、魔法の水晶とかでできねーの? あ、ムリ? そーか……。
ま、別に血を抜くくれーいーけど、変なコトに使うなよ? 魔法屋のバーさんとか、怪しいクスリの材料とかにしそーじゃん?
「……(ブルブル)」
あ、そーいや結月は注射が苦手だっけか。
まー、ガマンしろ。バーさん的には結月の方が重要らしーからな。ちょっと血を抜いたくれーで死にゃしねーって。……消毒とか、大丈夫だよな?
「で、その後は仕事に行ってきな」
「仕事? 職安とかあんの? あ、それとも冒険者ギルド的な?」
転生して異世界で就く仕事っつったら冒険者だよなっ。
いやー、なんかワクワクすんな。最初は薬草採取か? それともゴブリン退治か? いきなりドラゴンとか出てくんのはカンベンな。
「知り合いの工場で人手が欲しいってさ。行ってきな」
「工……場……」
なんだ、その異世界に似つかわしくない単語は……。
誰か、異世界転生した主人公が工場で働くマンガって読んだコトある? 工場運営とかじゃなくて下働きだぜ? オレは見た事ねーよ、そんなのっ!
そして1時間後……結月と2人でサチコの紹介した工場へと向かう道中……。
「ホラ、しっかり歩けっ。こっちに寄りかかってくんな」
「おんぶ」
しねーよ。絵ヅラをを考えろ。オメーの方が20㎝以上デケーんだよ。
ったく、健康診断とか予防接種で注射の後はいっつもコレだ。もうすぐ18だろーが。甘えんじゃねーよ。
「……? 陽一郎、道ちがう」
「あー、結月。悪ぃけどちょっと寄り道していいか?」
「……?(こくん)」
そう言って道を外れ、向かった先は昨日のレストランだ。
別に食事をするために寄ったワケじゃねーよ。さっき食ったばっかだし。
道からレストランの中の様子を窺う。ガラスウィンドウで良かったぜ。
昨日のあのコは……いたっ!
フツーに店内を歩き回ってる……。ケガを庇ってるようには……見えねーな。
「ほっ……。何ともねーみてーだな……」
いや、人肉食ったコトは忘れるっつったけど、やっぱ女の子の方は心配じゃん?
握り拳くらいの肉を切り取ったりすりゃ大怪我だしな……って、想像したら吐き気ががが……。
それはともかく、どーなってんのかな?
やっぱ魔法のある世界だし、回復魔法とかで一発だったりすんのか?
ま、とにかく無事で何よりだ。
「よしっ。ちっとは安心できたし、行くか」
「もういいの?」
結月はオレがここに来た理由が分かってねーみてーだけど、説明はメンドーだな。テキトーにはぐらかすか。
「いいんだよ。行こーぜ」
そして道行くこと約10分。
オレたちは目的地の工場へたどり着いた。
「なんか、思ったよりシッカリした建物だな……」
しっかしデケーな。高校の敷地くれーありそーだぞ?
それにしてもドコ行きゃいーんだ? ばーさんは話は通ってるっつってたけど。
「あ、来た来たーっ☆ こっちこっちー!」
「あれ? 門番のネーちゃんじゃん」
元気よくオレたちに手を振って招いたのは、チコりんと一緒に門番をしてたネーちゃんだった。
今日は鎧を着てねーのな。町中だし当然か。しかし……デケェ……っ。コレを、あの胸当てで隠してたの……? 潰れてたんじゃねーの?
「あれぇ、アタシの名前教えたっけ? まーいーや♪ アタシ、ネイチャン。改めてヨロシク☆ ユヅキちゃんと……キミは何だっけ?」
なに? 名前、ネーちゃんでいいの?
ヘンな名前だなー。まぁ、チコりんよりはマシだけど。
「オレは陽一郎だ。それより、なんでネーちゃんがここにいんの? チコりんは一緒じゃねーの?」
「アタシ、普段はここで働いてるからね。門番とは仮の姿なのさっ♪ チコりんは今日も門番してるけどねー♡」
なるほど、副業ってヤツか。この世界も物価高とかなのかなー。世知辛ぇー。
「で、オレたち何やらされんの? 何も聞いてねーんだけど」
「ダイジョブダイジョブ♪ 誰でもできる、簡単なお仕事だから♫」
「ブラック企業くせぇ……。せめて何の工場かくらい教えろよ」
「ん? 食品加工の工場だよ♡」
食品加工ってーと肉や魚を切ったり、出来上がったモンを器に詰めたりってコトか? 今はまだ肉とか見たくねーんだけどなー。
でもまぁ仕方ねーか。仕事しねーと金が手に入らねーからな。
ネーちゃんの案内で工場の中に入ったけど……。
おぉ、中はさらに広く感じるな。なんかデッケー機械があるけど、まだ動いてねーのかな?
「基本的には機械が勝手にやってくれるから、キミたちにして欲しいのは機械に投入する材料の補充と、完成品の確保だよ☆」
「……補充は分かるけど、確保ってナニ?」
「んー、見せた方が早いよね♪ じゃあ、お手本として一連の流れを見せるね☆」
そう言ってネーちゃんが部材投入部の方へ移動して……ってアレ、生ゴミじゃねーかっ!? 何が食品加工だよっ! あんなの材料にして売りモンにしてんのかっ!? この世界、ホントどーなってんだよっ!?
あ……あぁ……。目にするのも悍ましい物体Xコンベアでが流れてく……。うげ……見てるだけで気分が悪くなってきた。
で、物体Xが機械に入って、なんか“プシュウゥゥゥ”っつって……プレスしてんのか? 今度は“ゴウンっゴウンっ”っつってんぞ? 中は一体どーなってんだ?
お、また機械が動いて中から……。
「コッコッココッ……コォケコッコオォォーーッッ!!」
「いやなんでだよっ!!!?」




