第二話:君に逢えて光を知った
「これは……一体……?」
私は自分の手のひらを見つめた。微かに光っている。それも、ただの魔力ではない。青白い、けれどどこか温かい光。
魔法理論の授業中、ふとした拍子に光が漏れたのだ。今まで何度やっても失敗していた基礎魔法〈光の種〉。それが、無意識のうちに発動していた。
「君……ようやく“鍵”が開いたみたいだね」
声をかけてきたのは、魔法学院の講師であり、学院一の魔力を持つと噂される女性──イレーネ先生だった。銀髪と琥珀の瞳、威厳ある佇まい。その目が、私をじっと見つめていた。
「“鍵”……?」
「あなたが持っていたのは、普通の魔力じゃない。どこか、異質な……それこそ“外の世界”のもの。今ようやく、それが目を覚ましたのよ」
先生の言葉に、教室の空気がざわつく。
「シアは……異世界人だってこと?」
「……うん。ごめん、今まで黙ってた」
クラスメイトの視線が集まる。中には好奇の目も、警戒の目もある。でも──
「何が異世界だろうと、シアはシアだよ」
レイの声が、それらをすべて吹き飛ばした。
彼がそう言ってくれた、それだけで胸がいっぱいになる。
⸻
それからしばらくして、レイと私は学院の裏庭で落ち合った。夕日が落ちる少し前、木漏れ日の差す静かな時間。
「……魔法が使えるようになったのは嬉しいけど、ちょっと怖い」
「うん。でも、大丈夫。僕がついてる」
レイは、私の肩にそっと上着をかけてくれた。
その仕草がやさしくて、息が詰まりそうになった。
「君はね、どんどん強くなってるよ。心も、魔力も。気づいてないだけで、もうちゃんと前に進んでる」
「……私、臆病なんだ。怖がりで、不器用で……甘えるのも、下手で……」
言いながら、気がついたら涙がこぼれていた。ずっと我慢してた。みんなと違う自分を、周りに合わせようと無理して、いつの間にか自分の感情をどこかに閉じ込めてた。
「泣いても、いいんだよ」
レイがそっと、私の手を取ってくれた。
「あ……」
その瞬間、私の魔力がまた光った。さっきよりもずっと強く、そしてあたたかく。
「これは……?」
「君の感情が、魔法と繋がったんだ。君の魔法は、“心”と呼応する。特別な力だよ」
そう言って、レイはそっと微笑む。
その笑顔が──初めてこの世界で出会ったあの日を思い出させた。
焦げた魔法陣の前で立ち尽くしていた私に、手を差し伸べてくれた。光の中で見上げた、あの瞳を。
「レイ……君に逢えて、本当に良かった」
「僕もだよ、シア。君と出会って、僕の世界も変わったんだ」
今まで灰色だった夢が、色を持ち始める。遠かった未来が、少しずつ近くなる。
私たちの歩幅はまだ揃っていないかもしれない。けれど──
「これからも、一緒に歩いていける?」
「もちろん」
差し出された手を、私はしっかりと握り返した。
もう、背中だけじゃ足りない。もっと近くにいたい。触れた手の温度を、心に刻むように。
そして、空の彼方で星がまた一つ、瞬いた。
物語は、まだ始まったばかり。