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グリマラ 春のマーケット3日目


 出来立ての温かい料理を食べたことで、ルリは抗えない程の眠気に襲われた。

 ――まだ、寝るわけには……。今日は歩いて汗かいてる気がするし、身体洗えるようになったんだから洗いたい……。

 

 次にルリが気が付いた時にはすっかり朝になっており、記憶にないさっぱりとした目覚めだった。

 外はまだ薄暗い。隣ではデモクラが眠っていて、パーティションの向こう側でガロウとフヨウが朝の支度をしている。


 「おはようございます……」

 恐る恐る二人の背中に声をかける。

「おはよう!朝食の準備終わったら支度するから」

「フヨウさん、あとはおいがやいますからよかですよ」

「そう?それじゃあ任せるね」

 フヨウはルリに笑いかけながらエプロンを外して、衣装箱に向かった。


 ルリはもう一度声をかける。

「あのう、先にお風呂に入りたいのですが」

「あれ?昨日入ったんじゃない?それとも朝風呂するタイプ?」

「昨晩入った記憶がないので、入っておきたいんです」

「入ってはりましたよ?」

 鉄板をつつきながらガロウが言った。

「昨晩は目を閉じたち思えば、自分で立ってデモクラさんとご一緒に」

「えっ」

 体が冷えついたのを感じた。緊張感で体が固まる。


 フヨウは少し下を向いて

「なるほど。旦那は随分あんたを気に入ってるみたいだね。でも説明もなしにそれをやった旦那は悪い。目を閉じた……寝たというのも含めて」

 指を眠るデモクラへ向け

「ハント」と唱えた。

 デモクラはかぶっている掛布団にきつく縛られていく。異変に気が付きデモクラは目を開けた。


「フヨウ、まだ起きる時間ではないだろう」

「旦那。今日のマーケットにはあたしがマルーリと一緒に行かせてもらいます。旦那はお一人での行動はまずいので誰か代わりのものを呼んでおきます」

 そういわれたデモクラは眉間にしわを寄せる。

「説明する」

「あたしがします。今日は頭を冷やしてください」

 デモクラは首を肩に倒して、フヨウを認めた。


 むくれたデモクラは朝食中一言もしゃべらなかった。

 今日の朝食は見た目がパンケーキのような、歯ごたえのある生地にバターとジャムを塗ったもの。

 ナイフをフォークを使って切り分けながら食べた。

 味は甘くてこってりしているが、ほんのりと酸味を感じる。

 

 食事が終わり、食器をフヨウが片付けてから出ることになり、その間デモクラは馬車の様子を見に。 ガロウは先に用があると言って出ていった。

 3日目のマーケットも変わらず歩いて店を回る。ただ一緒に歩いているのがデモクラではなくフヨウという違いがある。

 フヨウはルリの顔を指先で触れて買うクリームや化粧水を決めてガーデニング用品を見に行った。

 

「さて、そろそろ聞きたくてうずうずしているんじゃない?」

 フヨウは店の隅でルリへ話しかけた。

「デモクラさんがどうやって私を一人でにうごかしたか?」

「そう。あれね。旦那の特徴は触手。それも注射針よりも細くなれる触手の集合体が正体だよ。それを君の体に張り巡らせて、動かした。それだけのことなんだけれど、君はこれを許せるかな」

 ルリは一日目の夜デモクラに触れた時の違和感を思い出した。骨のない体。

 ――触手でできてるからあんな感触だったんだ。デモクラさんなら別にいいかなと思う。

「首輪のせいかな?嫌悪しないんだね。」

「私、口に出ていましたか?」

「あたしには考えていることが筒抜けだよ。なんで旦那ならいいのさ」

「え、あ、あの」

 ――デモクラさんの声が聞き馴染みのある声で安心できるものだから……。

「面白いもんだね。旦那はあんたの顔を夢で見て同じ姿を探してた。あんたは声で旦那をと」

 フヨウが見ていたものはきれいな花が咲くものだけではなく、薬効があるものか色が取れるもの。染物に使えるものもあった。ルリにそれが分かったのは値札に注意書きが書いてあったからだ。

 フヨウは注文票に丸を書き入れて店員へ渡すと、この店を出た。


 昼食はコーヒーの香りの強いカフェへ。

「このエルミナスは移ってきた種族で構成されてる。気になってることはない?」

 ルリはミルクコーヒーに手をかけていた。

「種族ってどれくらいあるんですか?」

「異形、九竜、渡り、ライ、バイサーバ、あと原住民のエレメト。」

「見分け方が知りたいんですけれど」

 フヨウは一口エスプレッソを飲んでから「うーん」と唸ってから答えた。

「渡りは体が小さくって羽が生えて空を飛んでるから見分けやすい。エレメトはよくみたらちょっと光ってる。ガロウちゃんとかちょっと光ってるからエレメト」

 2つを答えてまた口を閉ざした。

「異形は旦那みたいに形態模写が上手いヒトもいるからわかりにくいのもいるけど、角、しっぽと余分なものがついていたり一部が違ったりとかかなぁ。九竜……。

 正直九竜、バイサーバ人の見分け方はよくわからないな……。九竜ってのは女王と呼ばれるリーダーが中心で、兵士と働き手を産むんだそう。ここ最近じゃ異形とも混ざっていてより見分けずらくなってる。

 あんたと同じ奴隷のバイサーバ人なら首輪をつけられているだろうからわかりやすいはずだ。

 そうじゃない野良は……周囲と服装が違うくらいなんじゃないだろうか。」

「フヨウさんも大分特徴的な恰好をしていますよ」

 肩をすくめて「鏡を見てあたしはアタシってことをわからせるためさ」とフヨウは答えた。

「ライはあたしなんだけど、みんなホムンクルスで体に呪文が彫り込まれてる。だから知り合いは常に長袖で素肌を隠してるね。あと目が決まって紅色」

 いろんな角度でフヨウはその瞳をルリに見せてくる。

 ――そんなに見せなくても色鮮やかな紅色だよ。

「アハハ!そうだよね」


 この日は何もなく終わると思っていた。馬車へ戻ろうとしていると後ろから声がかけられた。

「フヨウ、マルーリ」

 デモクラの声だ。

 振り向いてフヨウが「どうしたんです?馬車の中で落ち合う予定でしょ?」

「馬車まで行けなかったんだ。サニーフレアやホワイトウィンに泊まるヒトらも駐車するだろ?そこらじゅうでヒトが立ち往生していて、とてもじゃないがたどり着けなかった」

「なるほど。アタシ、ガロウちゃんの店のカギ貰ってるのでそこで休んでましょうか」

「あるのか。頼む」

 そう二人がやり取りをして向かう先を変更した。


 夕焼けが船の向こう側に沈んで、マーケットの街並みが薄暗く影になっていく。

 ポツポツと明かりはつくが少々心もとない。ガロウの店にも小さな明かりがともっていた。

「いるみたいだねガロウちゃん」

 そういってフヨウは店のドアを開けた。

 中にいたガロウは目を見開いて三人を凝視した。

「お三方どうなさいました?」

 驚く顔のガロウに違和感を感じた。服装は昨日のものとは確かに違うがもっと違うものがある。

「今馬車が出せなくって上に帰れないんだ。だからしばらくここで休ませてもらおうと思ってね」

「駐車場に入れんほどですか。弟たちも帰れんので居ります……あと、お客が一人居りますが、くつろいでください。夕食も準備します」

「あたしも手伝うよ」

 店を見渡すと確かに奥の席のほうでろうそくの火に照らされている子たちが二人。一人はガロウにそっくりな亜麻色の髪の子。もう一人は黒髪の子。どちらもほんのすこし光っている。比べると今日のガロウの明かりは少々心もとない。かなり弱い光を放っている。

 もう一人はソファでひざ掛けと枕を使って眠っているようだった。フヨウがガロウのいるカウンター向こうへ行こうとするときに、ちらりとその人物の顔を見た。


「げっ!!」

 フヨウは目を見開いて眠る人物を覗き込んだ。

「なんで、なんでこいつを入れてるの⁉ガロウちゃん、こいつとどういう関係なわけ⁉」

 そう声を荒げながらガロウを見る。ガロウは顔を手で覆いながら。

「すいません……もうちっとはよう言うべきやった……昨日のデモクラさんとマルーリさんの会話で皆さんがこんひとを探しといとはわかっちぇましたし、今晩にでも言おうおもって……」

「ああ、やめてやめて。旦那、なんかどうでもいいこと考えてください」

 フヨウはガロウの目を覗き込んだからなのか、顔を蒼くしてからデモクラを見た。

「フヨウ、誰なんだ。そこで眠っているのは」

「ひどく弱ったヤマメ。二代目エレメトですよ」

「この子どもサイズが?」

「エネルギー消耗を極限に減らしている姿ですよ。髪も茶色くなってるし。ガロウちゃんも光が弱いけど何かあった?」

「うちのバブゼエル兄さんみたいだ」デモクラがつぶやいた。

 ボヤキをよそにフヨウはガロウの頬に手を触れる。

「外の事態と通じてるね。ガロウちゃんも横になってたほうがいい。魔力切れしてるから」

 ガロウは口をつぐんでヤマメのいるソファへ向かった。

「マルーリ。手伝ってくれる?」

「は、はい」

 ルリが離れたのでデモクラはガロウの席から道への出口をふさぐように座った。

「どうして二人そろってそうなっているんだ?」

「……魔力を奪われたからやろか……。おいやのうてヤマメさんの方に光が当たったんです。せやからおいの魔力を今ヤマメさんに渡しとる状態で……」

「光?その時の状況を詳しく教えてもらえないか?」

「えっと、二人で先日発掘された杖を見に行こうとったら、その杖が盗まれたとあたりがパニックになっとりました。仕方ないので道を引き返してほかの店へ行こうとしていた時に光が当たりました。」

「発掘された杖って……」

「タンゲアの杖」

 フヨウの声を幾分か甲高くした声がした。ルリはフヨウを見るが首を横に振る。

「初代エレメトのクリスタルがはめられた杖の一つ」

「ヤマメさん、起きんくていいですから」

「ボクが受けたものからして、杖は盗みの杖だろう。相手にとってなくてはならないものを奪う杖。状態を確認するために見に行こうとしていたけれど、受けた感じ問題はなさそうだね」

 横になったままヤマメは話した。

 フヨウはガロウが下ごしらえしていた野菜を鍋にいれて火にかけ、味を調えつつ両手の平を鍋へかざして何かつぶやいていた。

 ルリに任せられたのはバケットを等分にきること。

 準備中、不安そうなガロウの弟たちの一人がフヨウに声をかけた。

「あのお、ガロウにいちゃんは大丈夫なんですか?」

 フヨウは優しく微笑んでから

「大丈夫。今はあのチビに充電させるため魔力を貸してるだけだから。少ししたら君たちのお兄さんは元に戻るよ」

 スープを注ぐとき、フヨウはまたなにかつぶやいていた。つぶやく間掬うおたまのなかに光が吸い寄せられてそれが全部収まると皿へ移し、あとは通常通り注いだ。

「こっちはあのチビに」

 光が注がれていた皿をヤマメの方へ置いて他の皿も並べる。切ったバゲットは子供たちの分には少し手を加えて並べた。

「奥の休憩部屋にクッションがあります。ヤマメさんを起き上がらすため持ってきてくれませんか」

「奥の部屋ね持ってこよう」

 フヨウが奥に行った時ヤマメが

「今の声の主は?」

「フヨウです。私の小間使いですがそれ以外の雑務も行ってくれています」

「ボクの声に似ている気がした。種族は何かな」

「ライ族と名乗っています」

「アライザ?それともライベニ?」

「ライザです。ライザ・フヨウといいます」

「ライザ……知らないなあ」

 デモクラとルリは感じた。

 ――この二人しゃべり調子がおなじだ。

「ええ、グリマラが閉じた後に生まれたそうですから知らないはずです」

「そっか。でもライベニのことがあったから増やさないと思ったもんだけど増えたんだ」

 フヨウが戻ってきてガロウへクッションを渡す。

「あんた、その皿を平らげたらさっさと魔力をガロウちゃんへ戻しなよ」

 上から指をさしながらフヨウは言った。

「わかってるよ。ボクが決めたことだもの」


 ヤマメがスープを平らげると枯れたような茶色の髪が緑色へと変わった。光るほどまでには戻らなかったが、ヤマメは自分の胸から光る器を取り出してガロウへ渡した。いや返した。

 一息ついたところで扉から音がした。ノックだ。

 フヨウが立って扉を開ける。

「カルーナ様」

「やあこんばんわ。こっちには何人いる?」

「6人います。ガロウちゃんの兄弟とあたしたち3人あと……。なぜ、カルーナ様がわざわざ?」

 ガロウがヤマメをひざ掛けで顔を隠す。

「いやねえ、確認ついでにお酒でもと思ってさ。弟の無事も知りたかったし」

「そうですか。お食事はとられましたか?」

「今日は忙しくてまだとれてないよ。参ったもんだね」

 デモクラがガロウへ下げるジェスチャーをし、フヨウへはうなずいた。

「でしたらまだスープが残っているので温めますよ」

「ありがたい。ぜひ頼むよ」

 カルーナはカウンター席に座って、店内にいる全員の顔が見える位置になった。

 ヤマメがいう。

「あのカルーナ?昔とは随分かわったなあ。君はお母さんに似てるけど」

 カルーナはヤマメの方向を見て。

「おや、どなたかな」

「偽物だ!」

 ガロウが声を荒げ立ち上がるなり懐から筒を取り出すが、デモクラの触手の方が早かった。

 その場で縛り上げて動けなくする。

「カルーナに魔法を教えたのはお前が名前を知らないそこの人物だ。下調べすればわかるぞ」

「旦那、あんまり無茶しないで。代わりに締めますから」

「なら代わりに店の周りに気配をはってくれ。ガロウ。君の力で何かできるか」

「感覚を【暴走】させて狂わせることができます。いや、しようちしました」

 筒を向けたまま偽カルーナのもとへ歩み寄る。

「ガロウはどこで気づいた」

「部下たちに任せるような仕事をカルーナさんがしに来るはずがないと。来た瞬間におもって、ヤマメさんに気が付かなかったので確信しました。ずっと探しよったカルーナさんにまず会っていただいたんで」

「どこのどいつだろうな」

「多いんですよ。カルーナさんに変身しておいんところでタダ酒しようちすいヒト」

「君の【暴走】ってのは酒のまわりにも影響できるか?」

「……あんましヒトにすいことじゃなかですが、できます」

「飲みたい奴には飲ませてやろうか。ガロウ一杯たのむ」

「かしこまりました」

 ガロウはカウンターへまわりながらも筒を向けている。

「ホタル、ユウガ。向こうの席に行っていて。マルーリさんも」

 4人を固まらせて座らせた。

 ガロウと同じ金髪の子は黒髪の子にしがみついて怖がっている。

 カウンターから瓶を取り出してお玉でグラスに移す。赤紫色の液体に向かってガロウが「【オーバー】暴走せよ」と唱えた。

「異形の尋問では【真実薬】を飲ませるとき同時に【酩酊薬】を飲ませる。口を滑らせるためだ」

 触手を漏斗のように形づくり、偽カルーナへ無理やり飲ませる。飲まないようにともがくが触手はびくともせずにただ締まり返す。

「フヨウ、気配を探りながらこいつの思考をよんでくれるな?」

「ええ。そのつもりですよ」

 またガロウが唱える。

「【オーバー】廻れ」

「ご苦労」

「はい」

 デモクラは椅子に座り、伸ばしていた触手を縮めた。

「麻痺毒を流した。酒もあってしばらくはうごけないだろう。質問の答えは頭をのぞけばいい。ふう、疲れた」

 ヤマメの隣へ座るルリの不安そうな顔を見て、デモクラは眉間にしわを寄せる。

 ――人が多い。体がだるい。休みたい。だが、ここで気を緩めれば奪われるかもしれない。タンゲアの杖め……。

 偽物に質問する前にデモクラは尋ねた。

「タンゲアの杖を見てどうするつもりだったんですか?」

 ヤマメはクスリと笑って、

「ボクの魔力源にしようとね。ボクは誰かの魔力に当たりながらじゃないと力を維持できないんだ。初代エレメトのクリスタルさえあれば」

「ヤマメさん」

 ヤマメの話の途中でガロウが遮った。

「よそ者がおらん時にそれははなしてください」

「ははふ。ごめんごめん」

「ガロウと会うまではどうしていたんです」

「弟が一人山頂近くの洞窟にいる。あの子は自分で魔力を生み出せるからそれを貯めてた。結構遠いからね。降りてくるにはガロウくんなしじゃ無理」

「そうでしたか」

 ヤマメへの質問を終えて、偽物へ向き直って質問をする。

「問う。お前の種族は?」

 扉へもたれるフヨウが静かに目を閉じながら答える。

「転生者。奴隷」

「次だ。何の目的でここに来た」

「グリマラの力を手に入れるため」

 その答えにヤマメの纏う空気が変わった気がした。

「買い主は?」

「【ネクシス】ってことは」

「【来世の姉妹たち】か」

 デモクラの感嘆は次の質問にはつながらなかった。だが、ヤマメは刺激された。

 ソファーの上に立ち上がってヤマメは机に立った。

「なんでグリマラの力を狙っているのかなァ」

 フヨウは口を強く閉ざしてから偽物をにらみつけて答えを言った。

「転生者を使ってコミュニティを拡張するためには言葉の壁が邪魔だから」

「フヨウって言ったね。バイサーバ人は美味しく料理できる?」

 偽物の目がひん剥いて顔が徐々におびえていく。

「あー、転生者を食べるのは人道的にちょっとと言われてるんだよ。昔のようにはいかない」

「そう。ああ、あとボクが聞きたいのはもう一つ。タンゲアの杖、グリマラのものを盗んだ奴がどうなるか分かってるかなァ?」

 フヨウは笑ってから

「そうかい【ネクシス】は教えてくれなかったんだ。かわいそうに。」

 ヤマメは机を軽く蹴って宙に浮きながらフヨウの答えに笑う。

「力を持ってる子には教えるべきだろう?【来世の姉妹たち】ってのは下っ端には教えないんだ。けど、タンゲアの杖を扱ってる方は知っているかもねえ」

「あんた、クリスタルの位置はわかる?」

「わかんない。けど発動したらボクにはわかるよ」

 フヨウがルリの方を見て、

「マルーリ、旦那と窓のある席へ」

「本気か」

「旦那の今失いたくないもの。そっちを信用してます」

 ルリはデモクラの顔を覗いてから窓のある席へ移る。

「デモクラさん、顔色がわるいですよ?」

「あれだけ伸ばして力を入れていれば疲れるさ。」

 動こうとはするがゆっくりとしているため、ルリはデモクラを支えるようにして移動した。

 フヨウは口を押えてうつむく。

 ――そういえば夕食もすませたのに、デモクラはクスリを飲んでいない。

「フヨウって言ったね。なぜその子を窓際の席へ?」

「あんたならわかると思ったんだけど?まだ本調子じゃないから感じない?」

「きみのいいぶりからして、ボクにとってとっても大切なことなんだろうけど、全然ぴんと来ないなァ」

 フヨウは音がするようにしたうちをした。

 その時。その場にいる全員が全身をなぞられた感覚に身を震わせた。

 後、窓から閃光。



 光が収まり、視力が戻るより先にフヨウの声がした。

「場所をわかりやすくしてくれてありがとう」

 そうすると外からは悲鳴と何か落ちる音がした。


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