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ニンカツその八「ドワーフ娘とツムギが宿屋でしっぽり打ち上げ」

「ぷはあ。結局お宝は無し! でもエレベーターの報告で報奨金も出て、今回は儲かったな!」

「ご機嫌だね、ベルガ。二人きりになってくれるなんて、意外だったよ」

「グハハ、懐はあったけえし、酒も料理もたらふく食ったんだ。あとは……だろ?」

 焼いた腸詰め肉とふかした芋が山盛りの皿、酒瓶を抱きかかえて、フカフカのデカいベッドに寝っ転がる女戦士。

 ツムギも横に腰掛け、果汁入りの水をコップであおる。

 ここは冒険者ギルド大食堂の隣にある宿屋ではなく、ちょっと離れた表通りのホテルだ。

 依頼成功で盛り上がり、あるいは失敗を慰め合う冒険者御用達の憩いの場。

 現役忍者時代も大変お世話になってたが、エイブリアでは初めてだ。

 回転するベッドや鏡張りの天井、ガラス張りののお風呂などは流石にないが、大きいベッドに手水入れの壺と深皿、タオル代わりの布が数枚と、何か入ってそうなタンスがベッド脇に鎮座してる。

 明かりも蝋燭ではなく、明るさが調節できる魔法のランプだ。

 当然、部屋代はお高い。

「意外と言えばテメェらだツムギ。トーヤとデキてんじゃねえのか?」

「はぁ!? アイツはただの友達だよ。この街に来る前に出会って、ちょっと顔とか似てたから意気投合しただけで」

「そっかぁ? オマエら、てっきりカップルかと思ってたぜ。あとザン・クとラピスな。アイツらも怪しくねえか?」

「半分同意。解散した時、妙に二人でそわそわしてたし。でもラピスはサシャと仲良いだろ?」

 ベルカが齧りついてる骨付きもも肉の塩コショウ焼きから、香ばしく焼けた一片を貰ってもぐもぐするトーヤ。

「まーな。魔法使い同士で意気投合ってヤツか。トーヤが口説いてるかもな」

「サシャとトーヤで、お楽しみ中かもね」

「パーティ内で色恋は厳禁、って言うけどよ。カップル多いよな?」

「そりゃお互い命を預けてるんだし。気の合う面子じゃなきゃ、パーティ組まないよね」

「でも人間関係がややこしくなるってよ? いざって時に判断もトチるってな」

 そう不安を口にするのは、豪快な容貌と裏腹に繊細な逸品を打ち出すドワーフ族の、繊細さの表れか。

 あるいは、この先の展開で変わる、人間関係を危惧したものか。

「絆がパーティを強くするって言うさ。愛って絆だろ?」

「そ、そりゃあそうだけどよ……恋人と仲間は、違うよな?」

 見れば耳まで朱く染まったベルカがいじましくて、 ツムギはキュンとする。

 可愛い。実に可愛い。ギャップ萌えだ。

「優先順位は変わるかもね。仲間より恋人にさ。でも、それって本当にどうしようもないときに、そうなればいいんだ」

「ああ? どういう事だよ?」

「絶体絶命の時はいつか来るよ。冒険者だからね。必ず究極の選択を迫られる。その時までは、最善の選択を心がければいいんだよ」

 忍者とて人間、冷静冷酷な殺人機械であろうとしても感情を捨てきれないし、感情を失った忍者は一緒に何かが欠落する。

 それは忠誠心、克己心、協調性、原動力、生存意思など、重大なものだ。

 ツムギを忍者として育てた甲賀忍軍は、数百年の歴史を積み重ねた結果、感情を抑える術に重きを置きつつ、感情を否定できなくなった。

「聞いた話だけどさ、感情を捨てた冒険者は利益しか考えなくなるんだって。そして誰も彼も裏切り続けて、全てを敵に回して破滅するのさ」

 かつては感情を捨てた忍者こそ完成と見なしたが、甲賀忍軍が恐るべき生化学で生み出した『完璧な忍者』は、忠誠心や協調性、目的意識を維持できず。

 大半は過酷な忍務を諦め自死を選び、一部は忍軍を乗っ取ろうとした為、甲賀は忍者の感情喪失を忌避することにしたのだ。

「それに感情がないと、生きる意欲が湧かないよね。何も楽しくないし、嫌でもない。だから簡単に諦めて死ぬんじゃないかな」

「口の回るヤツだぜ。だけどまあ、そうだよな。強くなりてえ、スゲえ武器を打ちてえってのは、オレの感情だよなあ」

「そうそう。だからトーヤがサシャを口説いてもいいし、ザン・クとラピスがいい仲でも大丈夫。もちろん俺とベルガが楽しく過ごすのもね」

 ニコッと笑いかけるツムギの笑顔に、今度はベルガがドキッとさせられた。

 最初は職業の相性重視で組んだパーティ仲間だ。

 ひょろガリの頭でっかち、知識以外は頼りにならないと思っていたツムギが、いつの間にか心憎く思えて。

「クソっ! ならよ、楽しませてもらうからなっ!」 

「わっ!? ちょっと!!」

 荒々しくベッドに押し倒して、めくれ上がるツムギの短いスカート。

「うぉっ!? コイツぁ……参ったな。こりゃあ……」

「ん? ひょっとして見るの初めて?」

「お、おう。だからよ、ちっせいお前のなら、ちょうど良いかもって思ってな」

 何がちょうどいいのか、察したツムギが申し訳ないと頭を掻く。

 脇毛が見えるのも気にせず上着を脱ぎ、がっしりした赤銅色の上半身を晒したベルガが、今更ながら羞恥に頬を赤らめた。

「小柄で華奢で女みてえなツムギが、こんなデカイ槍を隠してたなんてなあ」

「デカいのはお互い様さ。ベルガのも硬くて張りがあって、揉みごたえがあるよ」

 興奮に高鳴るベルガの胸の急勾配な盛り上がりを、手のひらで楽しむツムギ。

 岩小人特有の、強靭な筋肉の手応えを楽しみ、髭の三つ編みを揉み込みながら、彼女に覆い被さる。

「んぉっ!? もうかよ?」

「大丈夫、優しくしてあげるから」

「お、おう」

「激しいのが好み?」

「いや……この方がいい。優しくしてくれよ……っ」

「ふふっ、可愛い。もっと可愛くなって貰おうかな?」

 ベルガの初めてを、最高の思い出にしてやりたい。

 そして己の色に染め上げたい。

 そんな感情が、生きる意志になるのだろう。

 実際、今夜一晩で飽きるほどツムギは淡泊でもないし、ベルガは魅力的だ。

「ゆっくり楽しもうね、ベルガ」

 ツムギはじっくり一晩かけて、彼女の望みを叶えてやるのだった。


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