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ニンカツその五「男子寮でおはようございます」

「起きろツムギ。朝だぞー」

「むにゃむにゃ……あと五分だけぇ」

 第六迷宮『ルザルバ』の上に設立された冒険者学園『ラリデミア』の、男子寮『ザイの館』の自室で、トーヤはツムギの布団を引っ剥がした。

「ふぁああっ! なんてコトをー」

「遅刻するぜ? 顔を洗って来いって」

「うー。行ってくるー」

「裸で行くなぁっ!? 服着ろ服!」

 ツムギに下着と制服を投げたトーヤは着替え済みだ。

 シャツをはだけたワイルドな着こなしが似合う細マッチョ。

 パン、チーズ、サラダにコーヒーもどきの朝食は食堂で配られたもの。朝の早いトーヤがジョギング帰りに貰ってきた。

「しっかし至れり尽くせりだよな」

「制服、寄宿舎、授業に部活動」

 きちっと和ロリ着物風に魔改造した制服を着て、テーブルについたツムギがプチトマトっぽい野菜とレタス風の葉物をフォークで口に放り込む。

「全部タダだぜ。何不自由なく」

「生徒に迷宮探索させて、財宝ゲット。スポンサーの寄付もガッポガッポだ」

 王都タールザンに建つラビデミアは、迷宮探索を目的とした学校組織だ。

 三百年前、魔王ルザルバに敗れ、パーティー壊滅を生き延びた魔法使いが、冒険者の知識と技を継承し、迷宮に隠された秘宝を収集研究、攻略を果たすべく設立した。

「これが図に当たって、魔王ルザルバを百年で討伐、ところが深部はまだまだ未踏破で、新たな魔王ガイメルも現れて」

「エイブリアって、アチコチにダンジョン作る魔王が居るもんな。最深部に魔界とのゲートが出来るんだっけ?」

「そそ。マナが地下深くの空洞に堪って転移門を作って、魔王がやってくるんだ」

「で、地上に出て世界征服を企むと。《オレたち》が何とかすりゃいいのか?」

 チーズとサラダをパンに挟んで、トーヤはコーヒーで流し込み平らげる。

「それならおねーさん、隠さず言うと思うんだけどな」

「エイブリアに来て一月、学園に潜り込んで二週間だ。わからねーコトだらけ」

「身元を問わず簡単な試験だけで入学できたからなー。生徒を迷宮攻略の捨て駒にしてるワケでもないし」

「全員無事じゃねーけど。四組のメレイダのパーティーが壊滅したって」

「聖騎士見習いのメレイダ。回収屋が見つけるといいな。僧侶はあの時も小声なのが可愛いターラか」

「メレイダは胸甲の大きさを盛ってたなー。中はスカスカだったけど、オレの努力で育ったかも」

 級友たちは悲嘆に暮れ、明日は我が身と覚悟を新たにしていたが、忍者の《オレたち》にとってはいつもの事だ。

「蘇生魔法、神々の奇蹟、復活アイテム。優しい世界だよなー」

「《オレたち》だって敵も味方もそうそう死んでないだろ? 忍者はしぶとい」

「メレイダ、無事戻るといいなあ」

「ターラはハイダル(物陰族)でさ。アチコチ撫でると可愛いんだコレが」

「騎士だからってメレイダ、オレに馬乗りになりたがるんだけどさ、すぐオレが上になるんだよな」

「トーヤ相手に騎乗スキルが足りなかったか。ターラはハイダルのクセに、全然隠れないんだぜ。道ばたで誘ったら路地に引っ張られて、すっごく興奮してて」

「他種族からは隠れてるように見える、ってだけでハイダルは隠れてる積もりが無いんだって」

「ちっちゃいもんなー色々と」

 物陰族(ハイダル)は小柄な妖精族だ。子供くらいの身長で、物陰に隠れて暮らしているというが、陽気ですばしっこくお祭り好きで、賑やかな種族。

 タールザンは王国の首都でラビリミアにも人が集まり、ヒューマンの他にもドワーフやエルフ、ハイダルなど様々な種族が暮らしている。

「そろそろ食べ終えろよ。行こうぜ」

「今日も授業だ。ワクワクするな!」

「座学はもうウンザリだよ、オレは」

「おハイソエルフなマーリールゥ先生でも眺めてたら? バレないように」

「背筋がピンと伸びて、足が交互にクロス。優雅なキャットウォークだもんなー」

「絶対、わざとだ。天然だったらその方がエロい」

 くだらない事を言い合いながら、《オレたち》は鞄を持って部屋を出た。

 ラビデミアの学生生活は平和で退屈だけど、衣食住がタダで身元を隠しても怪しまれないメリットがある。

 それに迷宮攻略という冒険にも出られるし、生徒と教職員の半分以上は女性。

「そろそろニンカツ頑張らないとなー」

「まだハーレム候補も見つけてないし」

「おはようさんだトーヤ! ツムギ! 今朝も二人で騒がしいぞ!」

「騒々しいのは貴様もだ、ザン・ク」

 隣室の自称平民ザン・ク・ロゥとラピスピエール・ドルファ。

 二人とも長身でスタイルがよく、絵画から出てきたような美形で、《オレたち》と同じ一年二組だ。

 育ちの良さが隠し切れてない金髪碧眼と、眼鏡をかけた銀髪赤青妖眼のヒューマン二人組。

 トーヤたちが着る支給版の制服でも布鎧並みの頑丈さなのに、ザン・クとラピスの華美なオーダーメイドはチェインメイル級の防御力、そして華美な装飾がよく似合ってる。

「一緒に登校するのも馴染んだなー」

「午後からは迷宮で探索実習か」

「宝箱を開けられない盗賊に、薬アレルギーの錬金術師、鎧も盾も使わない戦士と、詠唱を噛みまくる魔法使い」

「役立たずしか居ねぇ!」

「毎回、よく無事に帰れるものだ」

「あと二人、誘いたいなー」

「できれば女の子がいい」

「男子ばかり、むさ苦しくてかなわん」

 早くも午後の探索に、姦しく心躍らせる四人だった。

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