ニンカツその四「異世界ニンカツのススメ」
「はぁ、はぁ、はぁ。いやはや参ったね。腕が六本もあると、あんな姿勢でこんな事やそんな事まで。色々すごいねキミたち」
着崩れた衣装を整えながら、感嘆の声を漏らす女神様。
露わな肌のあちこちに、ピンク色のアザが残ってる。
六本の腕で《オレたち》が、色々ガンばった痕だ。
「両脚つかんで抱え上げ、激しく上下に動いたりしたんだけどなー」
「上下逆さま、舐めたり吸ったりしながら、おクチも使って貰ったのに」
疲労困憊で合体が解けた《オレたち》は、息も絶え絶え地面に突っ伏してる。
「し、死ぬ……めちゃくちゃ搾られた」
「気持ちよすぎたあ。さすが痴女神」
「おねーさんの方がエロいって」
「も~おムコに行けないっ!」
紬のわざとらしい泣きマネに、ドヤっと暖簾を揺らして胸を張る女神様。
めちゃくちゃ大っきくないけど、あちこち張りがあって突き出して、メリハリの利いた体型で、とても魅力的だ。
「んふふふ。おねーさんを甘く見ちゃだめなんだぞ。さて楽しませて貰ったし、ご褒美をあげようかな」
「今のが?」「ご褒美じゃないの?」
「今のは依頼の前払いだね。向こうに行けば分かるよ。で、こっちはおねーさんからのボーナスだ」
懐に手を入れ、胸の谷間からぶっとい巻物が、むにゅんと引っ張り出される。
「萬川集海か」「初級の教科書じゃん」
「それは表本だね。おねーさんの良くできた孫が、全て公開すると思うかい?」
「確かに、気配が尋常じゃない」
「魔道書なのか?」
「今風に言えば『シン・萬川集海』かな? 古今東西あらゆる忍術忍法を蒐集し、所有者に伝授する神器なのさ。作者の我が孫を讃えよ! F8! F8!」
頭上に掲げた両手で指を四本ずつ交差させ、高らかに唱和するおねーさん。
「F8って何だよ!?」
「ふじがFで、はやしが8って当て字。ホント孫バカだなー」
「むぅ。ではキミたち、写本のお時間だ」
「え?」「くれないの?」
「とっても貴重な孫の初版本、あげるわけないじゃん。孫バカって言ったし!」
「ウチのバカがすみません!」
「言ったのオマエだろ!?」
「大丈夫、ここの時間はおねーさんの自由自在。ご飯も作ってあげよう。兵糧丸もあるし。だから何万年でも写本できるよ☆」
「ひぃ!?」「勉強イヤーッ!!」
「収録されてる忍術忍法は古今東西だからね。もたもたしてると現在進行形で増えるばかりさ。写本中の飯代は、肉体労働で払って貰おうかなー」
赤く塗られた爪先で、顔の前垂れを摘まんでヒラヒラさせるおねーさん。
細いのにむっちりしてる太ももも、魅惑の隙間がチラチラしてエッチだ。
「ゴクリ」「いやいや死ぬって」
「じゃあ写本を始めよう! ガンバレ☆ ガンバレ☆ F8! F8! F8!」
……かきかき、かきかき。
体感時間で一月ほどガンバって、『写本シン・萬川集海』が完成した。
「干からびた……もう兵糧丸は食わねー」
「半分くらいは、肉体労働だったよなー」
「オレばっか書かされてた!」
「オレが校正しなきゃ誤字脱字だらけ」
「ご苦労さま。最後は腕を八本生やした甲斐があったねえ。早い早い」
書き上がった巻物をバサーッと広げて一読し、お肌ツヤツヤのおねーさんは垂れ幕越しににっこり微笑んだ。
「良い出来だよ。ちゃんと神器クラスの魔道書になってる。じゃあそろそろ行こうか異世界エイブリアに」
「中世ヨーロッパ風の王国で」
「剣と魔法と怪物の大冒険。やったぜ」
「で、ニンカツか」
「異世界で忍者活動と妊活、両方ヤるとは」
写本作業の合間の休憩時間、寝物語に語られた依頼内容は、話が美味し過ぎて実感に乏しい。
「くノ一ハーレム軍団作るんだよな」
「エイブリアじゃ、忍者が途絶えてて」
「《オレたち》が復活させると」
「まだ信じられないかい?」
「美味しい忍務は疑えってね」
《オレたち》の疑念に、うんうん分かるよと頷くおねーさん。
「前払いはたっぷり受け取ったよね。女神の寵愛を授かって、イヤとは言わせないよ?」
「たいへん気持ち良かったデス」
「自分もノリノリだったクセにー」
「向こうでニンカツしてれば、色々とヤるコトが出来るよ。依頼を達成したら、鬼娘に吹っ飛ばされた直後に黄泉還らせてあげる」
ふと居住まいをただし、女神が指を立てると、荘厳な門が出現した。
《オレたち》を異世界に転移させる門だ。これをくぐれば後戻りできない。
「死に戻りはなし。チャンスは一度限り。依頼を達成せずに死んだら、元の世界にも復活できないから気をつけて」
「てコトは、何か裏の忍務がある?」
「死んだら終わりか。面白れえ!」
ぱんっと手を打ち合う《オレたち》。
今は話せない狙い、命懸けの忍務。
だが一度は死んだ《オレたち》だ。
チャンスをくれた女神様を、疑っても仕方ない。良い目も見せて貰ったし。
「じゃ行くとするか」「寂しくなるな」
「また会えるだろ?」「どうかな?」
合体変身して《オレたち》になり、名残惜しくおねーさんの髪に手を伸ばす。
「記念にさ」「一本もらってもいい?」
「断れないなあ。いいよ。御守りだね」
すっと身を寄せ、体を押しつけ、垂れ布を上げて《オレたち》にキスして。
「これも大事に使うんだよ。チートスキルにしたから、無くさないと思うけど」
『写本シン・萬川集海』を《オレたち》の胸に押し込むと、髪と共に虹色の粒子になって吸い込まれた。
「へへっ、異世界転生チートスキルだ」
「おねーさんも元気で! また会おう」
「「行って来るぜ!!」」