ニンカツその十七「ナリアの弟子入りハーレム入り」
「助けて頂き、ありがとうございますオカシラ殿。しかし麻薬の製造法については、はっきりと覚えておらぬのです」
ベッドに横たえられ、家人に看病されながら、ズローはそう頭を下げた。
「死霊に取り憑かれていた間の記憶は、曖昧って事か」
麻薬の製造施設は、屋敷の地下室。
死霊に取り憑かれたズローが一人で設備を整え、大枚叩いて購入したゴーレムに作らせていた。
使用人に堅く口止めし、立ち入りも禁じていたあたり、徹底した機密保持だ。
「地下室には入らず、コンクリートで埋めます。信じて貰えぬかも知れませんが」
「信じられないと言えば奥さんだ」
「若い女を娶って、しかもいつの間にか消えてるなんてな」
「麻薬漬けなのに、どう逃げたのか」
「腕輪を贈ったのも、奥さんですよね」
「はい。恥ずかしながらこの年まで仕事ばかり、親戚の紹介で結婚したのですが、その矢先にこんな」
行方を眩ませた妻に未練を寄せるが。
「奥さんが死霊を取り憑かせた、と見るのが自然だな」
「そんな……」
がっくりと肩を落とす大商人を、執事や使用人が気遣い慰める様は、彼の善良さの現れだろう。
「いいさ。《オレたち》は死霊と奥さんを追う。何か分かったら知らせるよ」
「あ、ありがとうございます! これはほんの気持ちばかりですが、感謝のしるしです。どうかお受け取りを」
執事がずっしり重い皮袋を差し出す。
「遠慮なく頂こう。警護の連中にも手厚くな。頑張ってたぜ」
「もちろんです」
「じゃあな!」「また来るよ」
「どうかお大事に」
開け放した窓から、外に飛び出す《オレたち》とナリア。
手近な屋根に登り、その陰に潜んで。
「夜明けが近いな」「これでお別れだ」
「ふえっ!?」
「成り行きでくノ一にしたけど、ひとまず麻薬は片付いた」
「ナリアは元の生活に戻るといいよ。《オレたち》と連む理由はないだろ?」
「そんな、終わってませんよお! 死霊と奥さんだって……私が邪魔ですか!?」
「邪魔じゃない」「だが危険だ」
「巻き込みたくないんだよ」
「キミにメリットもないし」
このままくノ一ハーレム入り第一号にすれば楽だ。
でも、それはしたくない。
彼女が自分で選んだのではなく、状況に流されて一緒に戦ったのだ。
「今回は運が良かったんだよ」
「悪事を潰し、得るものもあったけど」
「いつもこうはいかない」
「下手すれば死ぬし、手を汚す事も」
「ナリアは未だ戻れる。学園で優等生として学び、立派な冒険者になれるんだ。勇者だって夢じゃない」
ここまで懸命に説得する理由は二つ。
一つは、忍者になるしかなかった《オレたち》の悔恨と羨望だ。
忍務で死んだ仲間を思い出し、忍者でなければと思うとやりきれなくて。
もう一つは、ナリアに抱く親近感。
一夜にも満たない出会いで、《オレたち》は彼女が好きになった。
だからこそ《オレたち》のせいで死なせたくない。後悔させたくない。
「ナリアだって、理由がないだろ。一時の感情だけじゃ連れて行けない」
「……ありますよ」
「「えっ?」」
「私は学園に背いて迷宮に挑み、王国に反逆しても秘宝を手に入れたい。だから勇者になれないですよ、私って」
「ナリア……」
「それをやり抜く強さと賢さが必要で、私に与えてくれるのは」
まっすぐ《オレたち》を見つめる、ナリアの真摯な表情、覚悟に満ちた瞳。
「弟子にして下さい。オカシラ様」
《オレたち》は半歩、後ずさる。
(おい、気圧されてんじゃねーよ!)
(オマエの方だろ! 参ったなあ)
(上手く言い訳しろよ。頭脳担当!)
(四の五の言ってられないか。ままよ)
「代償は?」
「ふえええっ?」
「タダじゃ弟子にできない。でも安くもないぞ。《オレたち》が満足するものでなきゃダメだ!」
無理難題を押し付けて、諦めさせる。
金貨の詰まった袋をぶら下げて、これでもぜんぜん足りないと告げる。
「世界でただ一人、伝説のニンジャの弟子入りだ」
「しかも秘宝を盗んで、国家反逆罪にも巻き込まれるんだからな」
「とても払える金額じゃねーぞ」
そう意地悪く畳みかけるが、内心はいまにも泣き出しそうなナリアの様子に、胸が張り裂けそうだった。
動揺の余り紅白模様が忙しなく蠢き、マフラーもパタパタ揺れる。
と、垂れ耳をぱふんと跳ね上げて、ナリアが顔を真っ赤に叫んだ。
「だったら! この命をお返しします! 私を自由にして下さい! なんでもしますからぁ!」
――ぷつん。
「言ったな?」「もー限界」
「ふぁ?」
「《オレたち》」「我慢してたんだぜ」
「ナリアが良いって」「言ったなら」
「「ナリアとニンカツしてやるよ!」」
「ふえええっ? ニンカツってぇ!?」
「平たく言えば」「子作りだ!」
「「《オレたち》のハーレムに入るのが、弟子入りの条件!!」」
恥も外分も捨てた最後の一線を引いて期待半分、後悔半分でドギマギしながらナリアの答えを待って。
「二、ニンカツしますぅ。だから私と子作りして、弟子にして下さいっ!」
「よーしよしよし」「契約成立だ!」
がしがしがしがし。
「ふひゃあっ! なんで腕を四本も、肩を掴むんですぅ?」
「そりゃオマエを」「逃がさない為さ」
「どれだけ《オレたち》が、ムラムラしてたと思う?」
「天然おっぱいバニーめ!」
「いっぱい気持ちよくシテやるよ!」
「ゆるしてって泣いても止めないから」
「「覚悟しろよぉっ!!」」
「いっ、今ココでっ!? もう朝ですよお日様のぼって明るくなって! みんなに見られちゃいますよぉ~っ!!」
「だから」「ガマンできないんだって」
「「ナリアがエロいのが悪い!」」
「えええっ! だっ、だめぇえええーーーーっっ!!」
かくてナリアは《オレたち》に弟子入りし、くノ一ハーレム一号となった。
さんざん可愛がっちゃって、後ですっごく怒られたけどな!




