ニンカツその十三「爆誕! 首刎ね兎くノ一のナリア」
「はぁっ、はぁっ、あはぁ……きもち、いい……」
床の上に寝転び、うっとりとした顔で呟くナリア。
あのおっきなマシュマロが、折れウサ耳と同じくふにゃんっと垂れている。
「あれっ? 私、どうしてハダカに?」
「「それはね」」
「っきゃあああああっ!? ヘンタイッ! 痴漢っ! 強姦魔ぁーっ!?」
「ヤってねえよ!」
「脱いだのもオマエだ!」
「ふぇえええええっ!? 私が脱いだんですかぁ?」
「ああ、自分の魔力を暴走させてびりびりっと」
「《オレたち》はお前を助けたの。麻薬中毒で死にかけてたんだよ」
【――『忍法・羽化登嬗』を継続中】
「はわぁ!? 女の人もいるんですか?」
「いや、今のはシステムボイス……って、オマエにも聞こえてる?」
「異世界転生もののアニメやマンガ、ラノベじゃ、本人以外聞こえないと」
【対象は『忍法・羽化登嬗』の影響下にあります。ミュートをご希望の場合はココをクリックしてください】
「ココってドコですかぁ!?」
「巻物のこの辺だよ。まあ、聞かせた方が話が早いか。都合が悪ければ記憶を消すし」
「ま、そうならないと良いな、ナリア」
「ふぇえっ!? なんで私の名前をオジサンが!?」
「オジサン!?」「オジサンだとぉ!?」
「きゃあんっ! ごめんなさぁいっ! お兄さまでしたかぁ!?」
「あ、覆面で顔が隠れてるわ《オレたち》」
(素顔を見せるか?)
(そりゃマズいな。できれば顔バレは身内にも避けたい)
(よし、それじゃ半々にして、ちょっとかっこつけよう。威厳も足して)
「これでどうだ?」
さっと覆面を脱ぐフリをして、《オレたち》は顔を変形させた。
右はトーヤの紅髪と日焼けした精悍な顔、左はツムギの白髪に白く端麗な顔を、それぞれ青年風の容貌にアレンジして、下半分は黒の襟巻きで隠す。
「わぁ、カッコイイお兄さまです! ワイルドで知的でミステリアスでデンジャラスで」
「ホントに異世界か、ココ?」
「どこだって変わんねーって事だろ」
「まあいいや。話を戻そうか」
「ナリアは死にかけてて、《オレたち》が助けた」
「どうしてお兄さまは、《オレたち》なんです?」
「…………」「ツッ込むよな、そりゃあ」
「そーいう喋り方だ。納得しろ」
「は、はひっ。分かりましたぁ。すっごく話しにくいですけど、がんばります! で、お名前は?」
「…………」「フリーズしすぎだろっ!?」
「《ホワイトシャドウ》でイイ?」
「知ってるヤツが来たら、即バレやん」
「だよな。あああ、こういうネーミングのアドリブ、苦手なんだよ!」
「オレだってそーだよ。考えんのはオマエの担当だろ!?」
「はわわわわ。脳内会議でケンカなんて、しちゃダメですぅっ! 自分同士の自己嫌悪、不毛な争いですよぉ!」
「……検索。偉そうで正体がバレにくい、呼びやすい名前」
「え!? 『萬川集海』に丸投げ!? そういうチートスキルじゃないだろ?」
【――検索終了】
【忍法・ランダム偽名作成バージョン十六】
【イケてるニンジャネーミング辞典二千二十三】
【秘奥義・失敗しない名乗りのコツ百選】
【古今東西、有名無名忍者名鑑令和五年版第四刷】
【――以上が検索条件に九十割、合致しました。他を参照する場合はココをクリックしてください】
「コレもあるのかよ!? なんで忍法にしてるんだよ!?」
「みんな悩んでるんだろうなー。ペンネームって一生もんだし」
「誰の悩みだ、誰の」
「魔法使いも悩みますねえ。使い魔との契約や悪魔召喚の時、真名を隠さないとダメですから」
「意外と需要あるよなー。よしランダム偽名作成だ。忍者名鑑も取っとこう。ぽちっとな」
【『忍法・羽化登嬗』をバックグラウンドで待機。『忍法・ランダム偽名作成バージョン十六』『古今東西、有名無名忍者名鑑令和五年版第五刷』を伝授します】
「ん? 五刷?」
【たった今、版上げされました】
「よし、習得した。早速『忍法・ランダム偽名作成バージョン十六』!!」
「名刺が五十枚、現れたぞ? どれどれ……甲賀忍軍エイブリア支店長『オカシラ様』ぁ?」
「オカシラ様ですか。イイお名前ですね。とってもお似合いです!」
「マジか」「なんで!?」
「個性的な響きなのに、言いやすいですから。ニンポーと語感も似てますし。ところでニンポーってスキルのことですよね? 聞き覚えのないスキルなんですけどオカシラ様ぁ」
「ちょうどいいや、説明するぞ。オマエは『くノ一』だ」
「クノイチ?」
「うん。転職させた」「ナリアは魔法使いでくノ一だ」
「ふええええっ!? なっなっなんでそんなコトできるんですかぁーっ!?」
【『忍法・羽化登嬗』により、職業を追加しました。『忍法・三倍化』も付与されます】
「忍者、知ってる?」
「オマエを助けるには忍者の女性版、くノ一に転職させる必要があってさ」
「ににに忍者ぁっ!? 全然知らないですぅっ!」
「今はエイブリアに居ないらしいし」
「盗賊の上位職だと思って。でも実際は冷酷な殺人マシーンで、あの手この手で情報を盗み、忍法を使う怪人だけど」
「そんな物騒とんでもない職業に転職しちゃったんですか私ぃっ!? はうっ」
驚愕の余り卒倒したナリアを抱き支え、大きくはっきり頷く《オレたち》。
「落ち着け。大丈夫だからな」
「それに転職って転職の秘宝を使うか、勤労神の神殿で儀式してもらわないと出来ないはずじゃ?」
「出来ちゃうんだなあ、忍法だから」
「忍者が使う特殊な魔法だと思って」
「えぅ……アタマがフットーしそうです」
「ナリアは瀕死だった。治せる僧侶や医者に診てもらえるよーな時間がなくて」
「《オレたち》にも都合があって、失敗するかも知れない忍法で転職させた。すまない」
「はわわっ、なんで謝るんですかオカシラ様ぁ。私を助けてくれましたよね?」
「正直、他にも手はあった」
「ただそれは《オレたち》の将来に、リスクが大きすぎて」
「ナリアの命に関わる選択を、君の承諾もなく実験も兼ねて行ったんだ」
「成功したのは結果論で……だから……」
罪悪感に駆られ、《オレたち》は肩を落としてうなだれた。
《オレたち》を改造した奴らと同じ、骨の髄まで忍者なのだと自覚させられて。
堅く握りしめた拳を、そっと包むナリアの暖かい手のひらに、驚く。
「ありがとうございます。見ず知らずの私のコト、真剣に案じて下さって」
寄り添い、手を伸ばし、微笑む少女。
「オカシラ様は悪くありません。私にとって最善でなくても、全員に最適の選択をして、成功したんです。だから私は感謝します。助けて頂いた事を」
「「ナリア」」
「それに、何だかとっても体の調子がいいです……って私ハダカぁっ!?」
「おおっと!」「コレを着てくれ!」
慌てて《オレたち》は、襟巻きを広げて外套にし、彼女に羽織らせた。
「裸マントの魔法使い」「感動だ!」
「便利ですねえ、そのマフラー。長さも大きさも自由自在なんですか?」
「これも忍法だからな。それよりナリア。体の調子が良いのはくノ一になったからだ」
「身体能力が凄まじく上がってるから、本気で注意しろよ」
「ジャンプして塔のてっぺんに激突死とか洒落にならないからなー」
「あははは。いくら私が灰色ウサギ族の獣人だからって……真剣に注意ですか?」
「ああ。《オレたち》の故郷じゃ改造、もとい転職後の過剰な能力で、事故死や自爆は割とよくある」
「特にナリアは飛んだり跳ねたりが得意だろ? 忍者もそうだから相乗効果がでるかもなー」
「ふえええええっ!?」
【『忍法・羽化登嬋』をバックグラウンドで待機中。六十秒後にスリープモードに入ります】
「おっと、忘れてた」「まだ転職中だ」
「忍法を一つ伝授する」「三倍化だ」
【『忍法・羽化登嬋』を再開します。対象に『忍法・三倍化』を付与】
「な、何が三倍なんですかぁ?」
「何でも一つ、三倍化できる忍法さ」
「無茶苦茶だけど、使い方次第だって」
「あううう……常識ががらがらと崩れていきますぅ。神や悪魔の力ですよぅ」
【対象に素質を発見。『忍術・斬首』の習得が可能】
「はぁっ!? ナリアは忍者の適正がなかったんじゃ?」
【対象は適性がありませんが、種族特性は優性。くノ一に転職後、条件を満たし有効化しました。習得を実行する場合はココをクリックして下さい】
「くノ一になって能力が上がったから、習得できるようになったんだな。『忍術・斬首』か」
「忍法と忍術って同じだろ?」
「ちょっと違う。忍術は技術だ。習得すれば使用に条件や制限が無いか少ない」
ツムギはトーヤの含み針をふっと吹いて見せた後、ナリアのマントになったマフラー、《オレたち》の皮膚の変形を指差した。
「忍法は『何か』が要る。気力魔力妖力神力の類いや、超常の道具や器官が」
肉体の変形増殖は、怪忍の異能だ。
甲賀の生体改造技術で作られた怪異細胞により負担は抜群に少ないが、その根源は座敷童の妖力。
故に含み針は忍術で、変型増殖は忍法なのだ。
「そーいえばウチの一族というかウサギの獣人は、首刎ね兎って呼ばれるコトがありますね。おっきな戦争の時とか」
「もって生まれた俊敏性に刃物で、首を狙って一撃離脱戦法か」
「どっかで聞いたよーな」
「まあ習得しとけ」
「ふえええええっ!? 私、首なんか刎ねたくないですよぉっ!?」
「料理の時、便利かもよ?」
「普通に切れますよぉ!」
ともあれピカッとナリアの全身が眩く輝き、転職が完了した。
【『忍法・羽化登嬋』の完了を確認。お疲れ様でした】




