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男!?

 街に戻り、少年を家まで送った後、俺とアリエスは街を二人で歩いていた。

 何でも、アリエスは今日この街に来たばかりで街のことを何も知らないのだという。

 仕方ないので、俺がアリエスを案内することにした。本当はじっくりアリエスとデートしたいところだが、街にいるといつ女性たちから俺の悪い評判を流されるか分からない。

 街の案内は早めに済ませ、冒険者ギルドへ急いだ。


「お、誰かと思えば女のて――ぶべらっ!?」

「おいおい、何するんだオクト! いくら次期邪お――ぼへっ!?」


 街中を歩いていると、知り合いの冒険者たちが話しかけてきた。アリエスの前で「女の敵」や「次期邪王」と呼ばれるわけにはいかない。

 二人の冒険者の口には、悪魔の森で拾ったキノコをぶち込んで黙らせる。


「知り合いなのに、あれでよかったの?」

「ああ。あいつらはキノコ大好きブラザーズなんだ。暇さえあれば赤いキノコをむしゃぶっているから、出会った時はあれでいい」

「なんか、首を抑えて苦しそうにしてるけど……」

「初めて見るとそう見えるかもな。でも、あれは苦しんでるんじゃない。喜んでいるんだ。たまにいるだろ、美味しいものを食べると表情が険しくなる人。あいつらはそれだ」

「涙も出てるよ」

「泣くほど美味いってことだろ」

「そうなんだ。変わった人がいるんだね」

「ああ。愉快な街なんだ」


 他にも冒険者ギルドに辿り着くまでに何人か俺の評判を落とそうとする悪の手先がやってきたが、全員の口にキノコをぶち込んで黙らせた。

 この街のキノコ大好きブラザーズは十人兄弟になるとほぼ同時に俺たちは冒険者ギルドに辿り着いた。


「ねえねえ。やっぱり、中に入ったら「ここは坊主の来るような場所じゃないぜ、帰りな」とか言うおじさんがいるのかな?」

「あー、俺が冒険者になった時はいたな。まあ、一捻りしてやったけどな」

「す、凄い! オクトって物語に出てくる主人公みたいだね!」

「ははは! なら、アリエスは俺のメインヒロインだな」

「も、もう! だからボクは男だってば!」

「入口でいちゃつくのはやめてもらえますか?」

「うわっ!?」


 背後から聞こえた坦々とした声に振り向くと、シーナがいた。


「おう、シーナ。今戻ったぞ」


 シーナに向けて微笑むと、シーナは俺とアリエスを見比べてから、俺にジト目を向けて来た。


「また随分と可愛い子を拾ってきましたね」

「同じ冒険者同士、困っていたところを助けただけだ。冒険者の基本だろ?」

「それ、この間パーティーメンバーに襲い掛かったあなたが言います?」

「仲良くすることと馴れ合いは違う。仲間が誤った道へ進もうとしているなら殴ってでも止めるのが真の仲間だ」


 シーナの表情がどんどん険しくなっていく。

 だが、俺だってアリエスの好感度を下げまいと必死なのだ。過去にも何度かこういうことがあった。

 その時のことを思い出したのだろう。シーナは俺の相手をやめて、アリエスの方に顔を向けた。


「こんにちは。私はこのタコルの街の冒険者ギルドで受付嬢をしているシーナです」

「こんにちは! ボクはアリエスです!」


 アリエスの名を聞いたシーナは目を見開き、アリエスの姿を改めてじっくりと見る。


「アリエス……? まさか、あのアリエスさんですか?」

「は、はい。多分、そのアリエスです」


 シーナの反応にアリエスが苦笑いを浮かべる。

 どういうことだ? シーナはアリエスのことを知っているのだろうか?


「オクトさん、やはりあなたは何か重大なことをしでかさないと気が済まないみたいですね」

「はあ? 何言ってんだよ。それより、アリエスが誰かシーナは知ってるのか?」

「ええ。当たり前です。彼の本名はアリエス・ルミエール。ルミエール王国の第二王子にして、今代の勇者です」

「あはは……」


 シーナの言葉にアリエスは気まずそうに頬をかいた。


 いや、それよりもだ。

 王子? 今、シーナは王子と言ったのか?


「シーナ、ちょっと来い。アリエスは少し待っていてくれ」

「え、うん」


 アリエスをその場に置いて、シーナを手招きする。


「なんですか? 公衆の面前でセクハラでもするつもりですか?」

「そんなことするわけないだろ。アリエスのことだよ。王子ってどういうことだよ。つまり、あれか? アリエスは男だって言うのか?」

「当たり前じゃないですか」

「あんなに可愛いのに?」

「はい」

「でも、体つきとか完全に女性だったぞ。男には存在しないくびれもあったし、首だって細いぞ」

「……アリエスさん、ギルド内から真水を持ってきてください。それとハンマーもお願いします」

「え、ええ!?」

「ちょっと待てええええ!!」


 俺に背を向け、アリエスの下へ行こうとするシーナの肩を掴む。


「何しようとしてんだよ!」

「いえ、女性に嫌われすぎて同性愛に目覚めたのかと思ったので、目を覚ましてあげようかと……」

「そんなわけないだろ!」

「でしたら、オクトさんはアリエスさんが女性だと思ってその身体に触れたということですか?」

「え? まあ、そうだな」

「アリエスさん、やっぱり真水と成人男性を縛れるだけのロープをお願いします」

「え、ええ!?」

「待てやあああああ!!」


 シーナの口を手で抑え、水を持ってくるべきか迷っているアリエスに「大丈夫だから、そこで待っててくれ」と伝える。


「無理矢理女性の口を塞ぐとは、鬼畜ですね」

「うるせえ。そんなことより、今はアリエスのことだ。本気で男だと思ってるのか?」

「正直、体つきはあなたの言う通り女性に近いでしょうね。ですが、他でもないルミエール王家が男だと言っています。王様の言っていることが嘘だと?」


 それを言われるとどうしようもない。

 流石に、王様を嘘つき呼ばわりして不敬罪で捕まりたくはない。


「まあ、あなたの気持ちも分かります。ですが、そこまで気にする必要もないでしょう」

「いやいや、気にするだろ!」


 そうだ。アリエスが女の子でないのだとしたら、俺のメインヒロインは男ということになる。

 ふざけるな。そんなことがあっていいはずがない。


「まあ、あなたの意見はどうでもいいです。これ以上アリエスさんを待たせるわけにはいかないので、中に入りましょう」


 そう言うとシーナは俺を置いて、アリエスと供にギルドの中へ入っていった。


 アリエスが男……。否、そんなわけがない!

 俺の目は、触手はアリエスが女だと叫んでいる。確かめねばなるまい。

 そう、風呂で!!


 決心を固め、俺は冒険者ギルドに足を踏み入れた。

 中には既にアリエスとシーナの姿は無かった。……あれ? 俺は放置?

ありがとうございました!

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