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囚われの魔法少女

 ステラが部屋を出て、オクトを探しに行こうとすると、彼女の目の前にオクトはいた。


「へー、カナちゃんって言うんだ。魔法学んでんの? 実は俺も魔法使えるんだよね。え? どんな魔法か知りたい? 仕方ないな。それじゃ、目をつぶって。うん。俺がいいよって言うまで開けちゃダメだよ。それじゃ、今から君に恋の魔法を――」

「フリーズ」

「ギャアアア!!」


 ステラはオクト、もとい魔法皇国の中心にある魔法皇城で女を口説いている変質者に氷結魔法を使っていた。

 恋の魔法など聞いたことがないが、相手の同意を得ずに口づけをすることが恋の魔法だというなら、そんな魔法は即刻滅ぶべきだろう。


「あ、え……ス、ステラ様?」

「この男は私が処理するので、あなたは立ち去って構いませんよ」

「え、でも……その方が魔法を見てくださると……」

「この男は魔法なんて使えませんので、立ち去ってどうぞ」


 オクトに言い寄られていた女性が渋々と言った様子で引き下がる。

 魔法皇国にいる魔法使いは魔法への研究を日々行っている。それが故に、オクトの「俺も魔法使えるよ」というワードに反応してしまったのだろう。

 もしかすると、この国とオクトの相性は悪い意味でいいのかもしれない。

 ステラがそんなことを考えていると、氷漬けになっていたオクトが復活した。


「ぷはっ!! し、死ぬかと思った……! あ、あれ? あの美人なお姉さんは!?」

「もう行きましたよ。それより、ステラがいるのに浮気とは中々やりますね。プンプン」


 余計な心配をかけないよう、道化の面を被り、オクトに対峙するステラ。

 変わった人間を見ると、人は「自分とは違う」と言って心配しないことを、ステラは知っていた。


「浮気じゃねーから。それより、やっと来たか。お前も聞いてたから分かると思うけど、俺スライムたち倒しに行かなきゃいけないから、ちょっと送ってくれよ」


 ステラの内心など知るよしもないオクトがステラに、気軽に頼みごとをする。

 魔法少女を馬車代わりに使う男など全世界探してもこの男くらいだろう。


「酷い、何時だってステラは都合のいい女扱いなんですね。ああ、こんなダメ男に捕まってしまうなんてステラはなんて可哀そうなんでしょう」

「いいから、送ってくれよ。こっちは男の象徴がかかってんだ」

「そんなもの無くなってもいいじゃないですか」

「ダメに決まってんだろ!」


 クスリ、とステラは笑みをこぼす。

 オクトがステラの事情を知らないということもあるが、互いに気を遣うことなく出来る会話。

 それがステラにとっては新鮮で、楽しいものだった。


「そうですか。なら、喜んでください。レヴィ様の言ったことは嘘ですよ。ですから、オクトはスライムテンタクルと戦う義務はありません。パチパチパチ」

「え? まじで?」

「はい。邪悪なる触手たちと戦うのは選ばれし者である魔法少女ステラの役目ですからね。ドヤッ」

「…………」


 突然、オクトからの反応が無くなる。不安になったステラがオクトに視線を向けると、オクトは真剣な表情で俯き何かを考え込んでいた。

 暫くして、オクトが突然顔を上げる。そして、真剣な表情でステラの両肩を掴んだ。


「いや、俺も戦うぞ」

「……え? いやいや、何を言ってるんですか。オクトは戦わなくていいんですよ。あ、もしかして本気でステラに惚れましたか? やれやれ、モテる女はこれだから困っちゃうぜ」

「それは違う」

「即答ですか」

「だが、俺はこう見えても勇者と共に戦ったこともある誇り高き戦士だ。俺は触手を持つ者だが、人類の味方! そう、ステラ、お前の味方だ!! 味方が戦場へと向かうと言っている。ならば、応援しない味方がいるだろうか? 共に戦わない味方がいるだろうか? 味方を守らない味方がいるだろうか? 否! 断じて、否である!!」


 拳を強く握りしめ、やけに味方の部分を強調してオクトが叫ぶ。

 その言葉にステラが僅かに動揺する。だが、直ぐに平静を取り戻した。


「気持ちだけ貰っておきますよ。ステラは強すぎるので足手まといは必要ありません。オクト、あなたはのんびり休むといいです」


 そう言い残してステラは立ち去ろうとした。

 味方してくれる人は大勢いる。だが、ステラについてこれる、真の意味でステラの横に立つ仲間はいない。

 それほど魔法少女とは突出した個の力を持つ。

 なら、いっそ誰も連れて行かない。そうすれば傷つくのはステラ一人で済むから。

 今までの人々はステラの「足手まとい」という一言の前に、足を止めた。魔法を学んできたものばかりだったからこそ、正しく自分とステラの力の差を図れた。

 だが、オクトは違った。


「待てやおらあああ!!」

「なっ!?」


 八本の触手を展開し、ステラを羽交い絞めにするオクト。一瞬の出来事に、流石のステラも不意を突かれた。


「へっへっへ……さあ、ステラ。大人しく言うことを聞いてもらうぜ。もし、断ったりしたらどうなるか、分かってるんだろうな?」

「くっ……ステラがこんな奴に捕まるなんて……ッ! ステラは魔法少女、この身体をオクトが好きにしようとも、心までは屈しません!」

「へぇ。反抗する気か……。その強がりがいつまで続くか、楽しみだぜえええ!!」

「ステラは……負けない……ッ!」


 オクトの触手がうねうねと動き、ステラの身体に迫る。

 人類の希望が触手に襲われようかというその時、女性の叫びが響いた。


「キャアアア! ステラ様が襲われているわああああ!!」

「へ?」

「あ」


 オクトとステラの二人がいる場所は魔法皇がいる部屋の前の廊下。当然、人通りも多い。

 悲鳴に反応した人が瞬く間に数を集めていく。

 それに焦ったのはオクトだった。


「え、ちょっ……やばいやばいやばい! おい、ステラどうする!?」

「どうするって、ステラのようないたいけな少女を襲ったオクトの自業自得では? それじゃ、ステラはもう行きますね」

「は? ちょっ――」


 転移魔法で瞬時にオクトの触手による拘束から抜け出したステラは、そのままオクトを置いて行く。

 後ろからオクトの声が聞こえるが、既にオクトは城内にいる兵に囲まれている。これでオクトはもうステラを追ってこれない。


「少しだけ驚きましたが、ステラについてこれるのはステラだけですからね。ふふっ、機会があれば、また会えるといいですね」


 ステラはそう言い残すと、いつもの様に一人で戦いへと向かっていく。


こんなマニアックな話を読んで下さる皆さんに感謝!

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