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とっても愉快でした




「つまり、ミルフィーユさんが睡眠の間、プロフィトロールはずっと待機だったのです」

「うん、ごめんね」

「ミルフィーユさんはお酒に被害を受けたですか?」

「今まであんまり飲んだことなかったんだけどさ、私お酒強くないみたい」

「プロフィトロールはまだ子供だから、お酒は禁止なのです。しかしプロフィトロールも二十歳になったら飲酒するです」

「無理に飲まなくてもいいのよ」

「しかしミルフィーユさんが飲酒しましたので、プロフィトロールも飲酒するです」

これは帰り道のミルフィーユ・トリュフとプロフィトロールの会話である。

プロフィトロールは二年前のある日、隘路に敷かれた毛布の上で目を覚ました。どうやら記憶がないらしい。そんな彼女を拾って研究所にやって来たのがシュークリーム三姉妹なのだが、プロフィトロール自身は何故か三姉妹よりもミルフィーユに懐いている。

プロフィトロールはミルフィーユを見上げると、ニコッと小さく微笑んだ。

「プロフィトロールは今日、とっても愉快でした。今日の出来事、生涯記憶に留めておきます」

「そう……、じゃあ私も覚えとくね!」

「日記帳に記録するですか?」

「そうね、日記に……って、なんでそれ知ってるのよ!」

ミルフィーユは飲酒で赤くなった顔を、別の意味で赤くして叫んだ。彼女は自分しか読まないつもりの日記をつけているのだが、内容がこっ恥ずかしいので日記帳は本棚の雑誌の間に隠しているのだ。

「先日ミルフィーユさんの部屋の清掃を命令された時に発見しましたです」

「い、いつの間にっ!」

打ち上げ閉幕の様子を書いておこう。ブレッド達の飲酒勝負がショコラの圧倒的勝利で幕を下ろしたあと、意識のある者総出で寝ている者を叩き起こした。意識のはっきりしない田村に金を払わせ店を出た。店を出る際店員達が「ありがとうございました、またお越しくださいませ」と言ったが、その表情には「もう来るな」という本音がありありと浮かんでいた。

店を出るなり田村は癖のようにケータイをチェックした。メッセージか何かが来ていたらしく、それを読むと彼は途端に目を覚ました。「もうこんな時間か!妹が夕飯を作って待っててくれてるんで失礼します!」と叫んで走って行ったが、あれだけ飲み食いして夕飯が腹に入るというのだろうか。

田村が去って行った後、市役所の他の方々と丁寧に挨拶をして別れたメルキオール研究所の面々。ますます寒くなった夜の街を、徒歩で研究所を目指す。

凍えそうなほど寒いが綺麗に晴れていて、頭上には満天の星空が広がっていた。

メルキオール研究所の者達は基本的に全員仲が良い。だが、今回の劇の練習、本番、打ち上げを共に過ごすことによって、普段一緒にいない者とも少し親密になれたかもしれない。相手の新しい一面が知れた研究所の面々だった。













男は思った。

彼と彼女は楽しげに会話をしているが、お互いの過去を知らない。他の者達も同様に。あんなに親しげに、信頼し、気を許しているのに。ここに来る前のことには頑なに口をつぐむ。過去の話題には触れない。

全員が自分の過去を隠すことで、研究所全体のバランスが取れているのかもしれない。おかしな場所だ。隠していることが当然。暴かれたくないから暴かない。

正直に言うと、自分はこの研究所に愛着なんて持ち合わせてない。なぜなら自分には皆みたいに大事な過去はないからだ。

けれど他の者にはあるのだろう。ここでなければダメな理由が。ここしかないと思っているのだろう。自分を受け入れてくれる場所は。ここに感謝しているのだろう。紛れも無く自分は生きていると。

皆にとってここは自分を守る最後の防壁なのだ。安全な壁の中に閉じこもって生ぬるい命に涙しているのだ。

男はクッと笑った。

俺にとっても防壁だよ。あんたら全員がね。





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