二度あることは三割増しで6
約五分後。場所は下足箱から正門までの道。正門の先、校舎の角を曲がったところが職員用の駐車場である。
博士とキプツェルは野洲高校での講演会を終えたのだ。あの後腕っ節の強そうな教師が出てきて、博士とキプツェルは震え上がり、挨拶もそこそこに体育館から退散してきた。当然のように教師達からお礼の言葉をもらう場面もなく、居づらくなった二人は早々に帰ることにした。
車を持っていないため徒歩で来た二人は正門を目指している。と、そんな二人の前に七つの影が現れた。待ち伏せしていたブレッド達である。
「いやー、散々でしたね博士」
「ブレッド君!」
「何でああなっちゃうのかなぁ?」
「スフレ君……君達来ていたのかね!?フロマージュ君、シフォン君まで!」
研究所の真面目キャラで通っているフロマージュとシフォンまで来ているのを見て、博士は更に驚いた声を上げた。フロマージュはゴニョゴニョと言い訳をする。
「まぁ……あの、博士が心配だったので」
「博士がファンの生徒達に囲まれて押し潰されたら大変って意味ですよ」
内容までゴニョゴニョとしていたフロマージュの言い訳に、チョコレートがすかさず一言添える。単純な博士は少し機嫌を良くし、フロマージュはチョコレートに感謝の眼差しを送った。
「まぁ、相変わらずの低レベルぶりだったがな」
「キプツェルさんがって意味です」
シフォンの嫌味にもすかさず一言添えるチョコレート。シフォンは「むぅ」と小さく唸ったが、当然キプツェルからは批判の声が上がる。
「俺が低レベルっておかしいでしょ。俺は終始正しかったでしょ」
「キプツェルさんはちょっと黙っててください」
「そうだ、お前が犠牲になれば済むことだろう」
チョコレートには笑顔で言われ、シフォンにはあっさり突き放された。キプツェルはギリギリと奥歯を噛みしめる。
「くっそぅ、みんな博士の不機嫌が面倒臭いからって……!」
と言うキプツェル自身が一番面倒臭がっていたりする。
「とりあえず!講演会も終わったことだし帰りましょう!」
フロマージュがパンパンと手を叩いて合図する。全員正門へ向かって歩き出した。
「そうだな、んじゃ帰るか」
「私は空腹で倒れそうだよ」
「私達朝ごはん抜きでしたからね」
腹を抑える博士とキプツェルに、ビスケットが余計な一言を言う。
「でも博士、今日の食事当番キプツェル先輩っスよ?」
それを聞いた瞬間、博士は今にも吐きそうな感じに顔面を崩した。
「うえええぇ、こんな日に限って!」
「うえええぇは無いでしょ、うえええぇは」
その反応に不満気な声を上げるキプツェル。その隣でスフレがケロッと言った。
「あたしキプツェルのご飯食べられるよ?」
「バウムクーヘンはな……」
引きつったブレッドの声に、ビスケットのいちいち騒がしい声が被る。
「さすがスフレさんっス!あんなダークマターを食べられるなんて!」
「ぅえへへ、まぁね~♪」
照れ顔で頭をかくスフレ。その横で、キプツェルがビスケットを睨めつけた。
「おいビスケット、ダークマターって何だよ」
「食えない料理の総称です!」
「ビスケット……お前という奴は先輩に向かってぇ~。こらっ、逃げるな!」
キプツェルはビスケットの首根っこを掴むべく手を延ばし、ビスケットはそれをひらりとかわした。そのままみんなの間を縫って走る。
「うわ~、キプツェル先輩が追いかけてくる~」
「お前が逃げるからだ!」
鬼ごっこを始めるキプツェルとビスケットを眺めながら、フロマージュは呟いた。
「相変わらず元気ですね………二人共」
「まだ若いからな」
「マ、マフィンさんもまだ若いですよっ」
興味なさげに答えたシフォンに、フロマージュは少し慌てながら返した。シフォンはそんな彼女を初め不思議そうに見ていたが、やがて「でないと自分が若くないことになるしな」と考えた。確かに二人は二つしか歳が離れていないが、シフォンのその答えは間違っていた。
とはいえ、フロマージュがそろそろ年齢を気にしているのは事実ではある。
校舎の角から下足箱への道を監視していた男性は、ワイワイと正門へ向かって歩くメルキオール研究所の面々を確認して呟いた。
「出て来たな……」
「何かぞろぞろいますね」
モヤシのような体型の男性……略してモヤ男は、不安そうに答えながらメガネをクイッと動かした。
「何人いても同じだ。行くぞ」
「はいっ」
男性の背後に隠れるようにしてモヤ男は校舎の影から出る。堂々と歩く男性に、三十人程いる白衣の集団もついて行った。びくびくしているのはモヤ男だけだ。
男性はよく通る声で言った。
「何処に帰ると言った?」




