その名の通りの
「あ、アンニン君」
博士が落っことした言葉に、周囲の者達は顔を上げた。
「ほんとだ、アンニンちゃんだあっ」
「え?ヨウカンさん?」
「うおっ、ヨウカン、お前どうしたんだよ」
スフレ・バウムクーヘンが顔を輝かせ、キプツェル・マカロンがぱちぱちと瞬きをし、ブレッド・ティラミスが驚いた。
アンニン・ヨウカンは開けっ放しの集団研究室のドアの前で一旦足を止め、ブレッドの問に律儀に答えを返す。
「……買い物」
それだけ言うと、アンニンは再び玄関を目指して廊下を歩く。
アンニンの答えを聞いて、全てわかったとばかりに博士が頷いた。
「そうか、買い物かぁ。キプツェル君、君ついて行ってやりなさい」
「ええぇ~、私がですか~ぁ?」
すぐ近くで他人の席を間借りしていたキプツェルは、博士に思い切り不満気な声を返した。
「無茶言わないでくださいよ博士~。見ての通り私今めっっちゃくちゃ忙しいんですよ~。見ての通り~」
「そうかそうか、ポテチを貪りながら漫画を読むのはそんなに忙しいか」
「くっ、今の状態では分が悪い!」
「ふははは、どうしたキプツェル君?何も言い返さないのかね?」
ギリギリと奥歯を噛むキプツェルに、高笑いをかます博士。博士は足元にあった段ボール箱に片足を乗せながらふんぞり返った。
「くっそ~う、一体どうしたらこの魔物を倒せるんだ!」
「ふはは、もう貴様を倒すのにはこの低俗悪魔、ブレッドリーニョで十分のようだな!やれっ!ブレッドリーニョ!」
「どうでもいいっスけどヨウカンもう行きましたよ」
「「えっ!?」」
ブレッド・ティラミス、現在二十九歳。博士とキプツェルのくだらない遊びに付き合うような年齢ではない。
ブレッドリーニョに冷めた目を向けられた博士は、途端に恥ずかしくなりながら段ボール箱からそっと足を下ろした。
「あ、もう行ったの?いや、分かってたけどね、もちろん」
「これも作戦の内さっ。さ、作戦成こーおぉぉ……」
「いや、ほんとどーでもいいから」
ブレッドに冷ややかな態度を返され、居心地の悪さを感じ始めた博士の後頭部に突如衝撃が走った。
「痛ッ!」
開け放たれたままのドアから大きな段ボール箱が現れ、その底辺が博士の後頭部に直撃したのだ。その衝撃で段ボール箱がぐら付き、二段に重なっていた上の箱から大量のファイルが雪崩れる。
「うわあああ!」
そのファイルは博士の目の前にいたキプツェルに襲いかかった。完全にイスに腰を据えていたキプツェルは逃げ切れずにそれを全弾浴びる。
「ああー……」
上の段ボール箱が消え失せ、チョコレート・モンブランのクリアになった視界には後頭部を押さえる博士と顔をガードしてイスに縮こまるキプツェルが映った。
「運が悪かったですねぇ」
へらっと笑うチョコレートに、キプツェルと博士は声を揃えて叫んだ。
「「まず先に謝れ!」」




