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どうでもいい割に首を突っ込むのね




「何ということだ……」

「博士、どうしたのですか?」

資料や試験管が溢れかえった小さな部屋で、灰色の白髪をはやした老人が呟いた。老人と表現したが、実年齢はまだ若そうだ。老人の呟きに、近くにいた二十歳そこそこの男が振り返って詳細を訊ねた。

「キプツェル君、それが大変なことになってしまったんだよ……」

「と、いうと?」

博士と呼ばれた老人は、ことの詳細を簡単には言わず無駄にタメを作った。キプツェル・マカロンはそのくだらない演出に「さっさと言えよこの老いぼれジジイ」と声に出さず悪態をついた。彼にとっては「何ということだ……」の先なんて気にもなっていないのだ。ただスコーン・タルト博士が聞いてほしそうにしていたから訊ねただけなのだ。

「それが、私の開発したメディシンⅡが、直射日光のあたる温かい場所に置いておいたら蒸発してしまったんだよ……」

「な、なんですって!?」

博士の言葉にキプツェルはとびきり大きな声を上げた。目を見開き上体を軽くのけ反らせる。しかし、彼は心の中でメディシンⅡが一体何だったかを必死に思い出そうとしていた。

「大変だ……どうしよう……どうしたら……」

冷や汗をかきながら悩む博士に、キプツェルは恐る恐る声をかける。

「あのー、つかぬ事をお伺いしますが……。メディシンⅡってどんな薬品でしたっけ。いやあ~、忘れたわけじゃないんですよ?ただ、博士の作る素晴らしい薬品がとてつもない量でして、私なんかの脳みそは博士のように良くないからその……いやホント!ホントに忘れたわけじゃ……」

「キプツェル君!メディシンⅡの恐ろしさを忘れたのかね!?」

「いやだから忘れたわけじゃ……」

「あれは……あれは、人の人格を変える薬品なのだッ!」

「うえぇぇえ!?」

キプツェルは今度こそ本当に驚いた。あまりの驚きように、手にしていた数冊のファイルがバサバサと落ちた。メディシンⅡが完成したとき、博士は誇らしげに助手のキプツェルに自慢したのかもしれないが、キプツェルの脳みそはそんなくだらない記憶は保存しない。彼はその時話半分に博士の自慢を聞き、「この音声ファイルを保存しますか?」に即座に「いいえ」と答えたのだ。

「私は……どうしたら……」

「な、なんでそんな薬品をお作りに……?」

「それは……趣味なんだが……。何ていうか……まぁ……。作ってみたかったからサ」

茶目っ気たっぷりな博士のウインクから星が飛び出して、キプツェルの肩にぶつかった。キプツェルが今にも唾を吐き出しそうな顔をしていたので、博士はそっと目をそらした。

「……ということで、キプツェル助手」

博士はゴホンと咳払いをひとつすると、まるで部下に指示する社長のような態度でキプツェルを見上げた。キプツェルはやる気のない「……ハイ」を返す。

「被害者が出る前にメディシンⅡを回収してきてくれ」

「はぁ!?え、はぁ!?」

「なんだね、その反応は」

信じられないという顔をするキプツェルに、信じられないのが信じられないという顔をする博士。キプツェルは今にも掴みかかりそうな勢いで博士に詰め寄った。

「なんだね、じゃねぇよ!何で私が貴様の尻拭いをしなきゃなんねぇんだよ!」

博士は唾が飛んでこないように顔の前に手をかざす。

「当たり前だろう、君は私の助手なのだから」

「パシリの間違いじゃないですか」

かくして二人の科学者は、人類の未来を脅かすメディシンⅡの回収に向かったのであった。



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