花
花は香る
それは深い川底のにおい
花は咲き 香る
深い川底のこと
水流はなまめかしい
魚どもが死に
魂は奔流のセクション
聖域は営みへ無限の連続を踏み
いまめかしい川底で
花が揺れている
沸騰してはハヤが死ぬ
水に揺れる
いくつもの死体が通り過ぎていった
水面という空の
遥か上を見つめている
花はなぜたゆたい
奔流に遊ばれるかしらない
水の征くえがどこかも
生涯の些末さも
なぜ咲き 香り 種を遺すかも
(まだ幼かったとき
川底に花を見つけた
見えない流水になぶられ
ひとつ性的な立ち竦みかたして
川底の花は揺れていた
わたしは水を掬い
聖域に触れる
それは地球に触れるというよりは
異界に手を突っ込むというようなことで
わたしはその恐ろしさをしらなかったし
花もきっとしらなかった
わたしは水を掬う
腐った肉のにおいがした
おぼえている
グロテスクな鮮明さで)
川とは
魂の集合体なのだろう
花はそう思った
すぐそばを死体が流れ
ぼくは囚われたひとりなのだろう
生命とは死であるし
魂とはこのように流れていき
ぼくの花びらもまた
この流れのセクションと化すのだろう
時は流れている
いまもまだ花は時刻をしている
川底に香る生命の
過去へ捧ぐ兜率天の祈歌