異能部の日常その16
「卒業生答辞、在校生諸君、来賓のご保護者の皆様、そして先生方と事務や用務員さん達、この場に居合わせた卒業生以外の皆様にまず感謝を、この麗らかな春の日に我々卒業生一同はこの学舎を卒業し旅立ちます」
「雨の日も風の日も雪の日も晴れの日も、この学舎に通い、よく学びよく遊びよく動き、友達と後輩と去年一昨年卒業していった先輩と語らい、笑いあい、怒り、嘆き、そうして我々は今日に至りました、本当にありがとうございます」
「部活をやっていた者は合宿や大会、やっていなかった者でも運動会文化祭に修学旅行、思いでは数多く、語り出せば尽きる事のない日々を過ごしてきました、それを見守り育んできた先生方、両親に最大の感謝を」
「たかたが一年二年早く生まれただけの我々を敬い、何かと立ててくれていた在校生に感謝を」
「そして在校生諸君、我々は何かを残せた訳では決して無いのかもしれない、何かを伝えた訳では無いのかもしれない、我々は先輩として至らぬ所が有ったのかもしれない、それでも、独りよがりと言われようと我々は何かを残し伝え先輩として恥じぬようこの一年を通してきたと確信している、来年君達がその立場になる上で、不安に思う者も居るだろう、我々だってそうだった、だが安心したまえ、我々は今日ここを巣立ち新たな世界を見に行くが、それでも相談に乗ってやれない程に忙しい者は稀有だろう、卒業したんだから後は知らないなんて薄情な奴は皆無だろう」
「いくらでも相談に乗ろう、我々が此処に居た頃とかわりなく、ほんの少し大人になれたかもと偉ぶる我々に辟易とするかもしれないが僅かばかり長生きしている功という奴だ」
「ご来賓の皆様、我々は今日この学舎を卒業し、新たな世界に一歩踏み出します、大学に行く者、働く者、浪人としてもう一年を過ごす者、皆様から見ればまだまだ青い未熟者ばかりですが、今日という日は我々のための日だと少しだけ我が儘を言わせて下さい、これが最後ではない我が儘ですが子供っぽい我が儘ですが、高等学校の勉学範囲を修了したというと証であるこの日を我々に謳歌させる事を許して戴きたい」
「最後に、皆様に今一度の感謝をありがとうございました、卒業生代表、板田挑」
「やっぱ纏まり悪かったんじゃねぇかと今更ながらに思ってるよ」
「そりゃあ俺の真面目な原稿にお前が勝手におふざけ入れたんだからそうなるだろうよ、それを読んだ俺も俺だがお前の責任は大きいぞ男鹿」
「まぁほら、それを言い出したらせめて原稿の一部でも書けって言い出した教師陣の責任って事にしようぜ、校長とか本気で止めてたのに結局押し付けてきたし」
「アレは断れんよ、今から卒業式が憂鬱になりそうだ、これなら答辞を二人でっていう深井君が垂涎の状態の方がまだマシだと思えてくる」
「そういう事言うなよ、ホラうちの後輩の手が加速したじゃないか、どうしてくれる宥めるの俺なんだぞ」
「まぁ私はそう悪くないっておもうけど? 杓子定規なのより若さ溢れるって感じで多少の粗は卒業式って事で目溢し貰えば」
「音矢君、卒業ってのは杓子定規な形式ってのが大事だったりするんだよ、退屈で飽き飽きして眠くなるくらいが最良だな」
「そんな形式捨てちまえって言いたくなるな、って言うか証書渡してはい終わりって訳にはいかないのかね」
「情緒って物が大切なんでしょ? 二時間近く使うのは私もどうかと思うけど」
「大半は送辞と送るための歌と言葉と校歌斉唱なんて時間だがな」
「いや、一応練習してる後輩の目の前でそういう事言うなよ男鹿、と言うか俺らも練習してたろうに」
「そんな事言い出したら後輩の前で答辞を作ってた時点でアウトな気もするが、後俺面倒で口パクしてた、声は異能でなんとか」
「それ、絶対に外で言うなよ、フリじゃないぞマジで言うな」