TVショーの日常その1
「皆様こんにちはお昼の情報バラエティー」
「「ブランチランチ」」
「本日のピックアップニュースはこの様になってます、まずは本日のゲストのご紹介」
「帰りてぇなぁ、マジで面倒くせぇ」
テレビに映る13時30分からの情報番組を見るでも無しに見ながら着替えを済ます、と言ってもジーンズにシャツからスーツに変わるだけだが、楽屋と呼ばれる一室で自分がこの後に出演する番組を見るという体験は初めてだが叶うなら一度として体験したくはなかった。
緊張なんてする性質は持ってないがひたすらに面倒だ、おおよそ30分後には1時間近くMCのアナウンサーやゲストの専門家とやらにプレゼンや質疑応答、場合によっては議論、ある程度の流れは決まっているが本当に面倒でならない、俺が出演するタイミングで何かしらの事件でも起きて欲しいが人の不幸を望むようで嫌になる。
「えー、ではここからのゲストは南薩摩大学教授で宇宙開発の専門家でもある滋野教授、そして今回の議題でもあるOGA.co社長、男鹿松平兼守長倉源温羅神馬手方平之真典影康男Jr.さんにお越しいただきました」
「よろしくお願いします」
「えっと、名前が長いんで男鹿で良いですよ、後オガコーポレーションではなくオージーエーコーポレーションが正しいです」
「大変失礼しました、まずはこちらのvtrをご覧ください」
会社の外観にCM、客の声や近所の声、町の声、客の声に関してはアンケートで顧客満足度九割超えだ『楽しかった』としか返してないし安全やらを疑問に思うとは言っていてもそれだけだ、近所の声は基本的に良好、道の駅や商店への流入もあって歓迎寄りだが安全性に疑問、町の声は行ってみたいという好意的意見もあるがやはり安全性に疑問か、これ質問で意識誘導してるな、後は編集の力でひたすら安全性への懸念を叫んで視聴者に刷り込んでやがる、解ってはいたが敵地だな此処は。
「さて、vtrを見ていて安全性というワードが多出したように思います、その点に付いて説明させていただきましょう」
「まず、大前提として、この事業における安全性は三つの形が有り、それぞれにどのラインを引くかという問題があります、一つはガワ、つまりあのコンテナと呼んでいる物の安全性、一つは外的要因、例えば隕石だとかですね、一つは人的要因、このうち前の二つに関しては自信を持って安全と言えます、最後の一つは内外の要因があり内に関しては前の二つと同じく外に関してはどうにもなりませんがどうにかしています」
「あー、話が見えないんですが一つ一つ説明していただけますか? 貴方が自信を持っていると言うだけでは証明としてかなり薄い、水道水持って霊験有る御神水だなんて霊感商法じゃ無いんだからそれを説明する義務が有るでしょう」
「ではまず、ガワから、これは教授の方が専門だと思いますがあのコンテナ、正式名称はちょっと失念してますが、アレは日米が共同で開発した物で宇宙という極限空間に対応した物です、極端に言えば中に人入れて椅子置いてパラシュート着ければ大気圏突入も可能だろうと聞いています、まぁSサイズならですが、我が社のはLLサイズなんで流石に大気圏突入を自由落下とパラシュートじゃ下が海とかでギリギリなんとかなるかなって感じだと思います」
「その上で運用実績としまして日本固有の宇宙ステーション八咫烏、アレの建築資材とか同型の物を使って私が何度も、それこそ11か2歳頃にはやってたから6年は続けてますが事故は有りません、その経験が有るから許可も取れたしコネが有るからコンテナ買えたって感じですね」
「つまり以前から飛ばしていたと」
「ええ、極めて、まぁロケット飛ばす予算から見ればですが、格安で請け負ってます、他には二つ目の問題点にも関連しますが使用の終わった人工衛星、俗に宇宙デブリと呼ばれる物の回収とかも請け負ってますね、こっちも教授の専門でしょうが今まではたぶんこうだろうって消耗具合とか確認できるし使ってるレアメタルとか回収できるしでそれなりに寄与できているかと」
「そうですね、基本的に人工衛星の回収は不可能に近い、再突入させて燃やし尽くすとかしないと増え続ける物ですから、一つ無くなれば外的要因の事故は僅かに減るでしょう、宇宙空間は広いですがそれでも何かの拍子にぶつかってビリヤードよろしく向かって来たら、それが物凄い速度なら鉄板でも穴空きますから」
「で、その外的要因、隕石とか宇宙デブリの衝突ですね、これに関しては異能でなんとでもなります、私の異能は物を動かすだけじゃない、障壁を張るってのもありまして、強度的にはそうですね、教授に酸素ボンベでも担いで貰えるなら生身で太陽に突っ込んできて貰っても平気ですし、世界中の核兵器集めてもその爆発を封じ込めるのは簡単です、当然放射線も含めて完全にね、それを全てのコンテナに張ってます、ですので例えば運悪く宇宙デブリとか隕石がピンポイントに命中したとしても内部に衝撃すら伝えずに弾き飛ばすなり受け止めるなりできます」
「その根拠は?」
「うーん、とりあえず一身上の都合でよく襲撃とかされるんですが、鉄砲で破られた事は一度もないですし、原子力発電の廃炉とかで出た放射性廃棄物の封じ込めもバイトでやってますからね、後は強度実験で1cm四方に数トンの圧力かける機械から卵守ったりとか、そういうデータがどっかの省庁に眠ってるはずです、八咫烏の時に徹底的にやりましたから」
「後は例えば、車とかの性能テストでコンクリにぶつけたりするアレ、まぁ私の異能だと運動エネルギーが一気にゼロになるんで中の人がムチ打ちになるか、ベルトしてないならガラス突き破りますが、少なくとも車は無事ですね、障壁にぶつかるとかも起こりませんし、せいぜい急に止まるからタイヤの軸とか折れるかもってレベルですし」
「中の人は守れないと」
「まぁ普通ならですね、うちの場合だと添乗員含めて障壁張ってるんで想定外が重なって生身で宇宙空間に出てもとりあえず即死ってのは起こりません」
「最後は人的要因ですね、例えばドアのロック閉め忘れるとか、私が加速減速ミスるとか、後はお客さんが許可されてない危険物持ち込むとかですね」
「まず、ドアのロックは私の異能でやってるんで余人が入る隙間は無いですし万が一の時は添乗員が鍵持ってます、かなり特殊な鍵で特定の行程が必要になるんで例えば誰かが何らかの手段で奪っても扉を開けるってのは無理ですし言ったように添乗員には障壁張ってますから物理的な脅しとかは効果無いでしょう」
「私が加速減速ミスるってのは起こり得るでしょうが言ったように長年やってますからね、一度二度はヒューマンエラーで起こしてますが幸いにして、重大な事故には繋がっていない、それは運が良かっただけ、ヒヤリハットで見るなら重大な事件に繋がると言えばその通りですが予定より早い遅い程度で電車のダイヤの乱れと変わらない、後は私が急に異能を無くすとか死ぬとかですが、異能を無くしたって話は過去を遡っても前例が無いですから起こらない訳ではないが無視して良いとして、私が死ぬってのは病気事故他殺、どれでも起こり得ますが私の四つ有る異能で多分一番意味不明な死んで五秒で元通りってのが有るんで死んだところで問題無いですし、死んでても障壁とか消えないんですよね」
「最後に人的要因の外的要因、要するにお客さんが持ち込み禁止の危険物持ち込むとかですが、これに関しては防ぎようがない、空港に有るような金属探知機だとコンテナとか土地の確保でけっこう使ってるんでそのローン払い終わるまでは無理ですし設置したとしてもなんらかの手段で持ち込む奴は出てくる、それこそマッチ一本火事の元じゃないですが他者を害する事をなんとも思わない連中なんざ嫌ってくらい見てきました、自暴自棄で他人巻き込んで自殺しようとする奴はゴマンと居る、障壁でそれらは防げますがトラウマは防げない、身の安全はお約束できますが心の安全は万全とは言い難い、故に何処を安全とするかのラインによっては我が社は落第点で合格点です」