異能部の日常その3
普段通りの紅茶ではなくコーヒーが飲みたい気分の時やその逆、はたまた緑茶烏龍茶、甘酒や飴湯が飲みたい日も有るだろう、基本的に異能部の部室には菜慈美の持ち込んだ電気ケトルと紅茶が数種類揃っていてハーブティー等も有る、ティーパックの安物からポットを使って煎れる本格的な物まで、一応はコーヒもあるがソレ以外は全くない、例えばジュースが飲みたいとか炭酸水が良いとか、はたまた栄養ドリンクが欲しい、あるいは単純に冷たい飲み物が欲しいならば購買まで走るしかない。
故にたまには気分を変えようと生徒会室に何故か常備されている紅茶目当てに足を運んでいたのは生徒会長その人で、勝手知ったるでノックと挨拶もそこそこに、生徒会室から持ってきた自分用のマグカップに紅茶を注ぐ、その失礼というか蛮行に目くじらを立てるでもなく三者三様今日は本の虫らしい同級生と後輩についでだからと空いていた湯呑みに紅茶を注ぎつつなんとなく無言の時間だけが過ぎていく。
そもそも彼らの場合はこういう事はままある、生徒会室に何故か常備されている焙じ茶目当てにやってくる事もあるし来客の好みの問題で互いに行き来するのは常で片や学校非公認の空き教室を占拠しているともすれば不良と呼ばれる様な集団、片や学校公認の生徒会の間とは思えない程に穏当で、非常に和やかな空気が漂っていた。
「邪魔すんでぇー」
ノックもなしにそう言いつつ扉を開けたのは非常にチグハグな男である。
間違いなく海外の高級ブランドのスーツに身を包み、革靴は履き込まれてはいるが手入れはよくされているらしく曇り一つないストレートチップのダークブラウン、ネクタイからタイピンに至るまで英国紳士然とした服装で背筋や足元等も筋金でも入っているかの様に真っ直ぐだ、だと言うのにだ、服装一つ一つ見ても、そのトータルコーディネートを見ても、ネクタイの色使いのセンスすら完璧な、だと言うのにだ。一言で言うならばその全てを台無しにする顔である、関西出身のとある不細工と呼ばれる芸人に瓜二つを通り越して双子の兄弟というくらいに顔の造形はソックリで、違うのは彼の人物がかなりオデコが広い短髪なのに対して髪型だけならナイスミドルと言いたくなるロマンスグレーをオールバックにしている事くらいだろう、本人の関西弁とソックリなダミ声も相まって鬘被ってるだけにしか見えないのだが。
「なんや自分此処に居ったんか、さっき部屋行っても居らんかったから探したで」
会長の方を向きつつ言葉を発するのは関西弁特有のミーがユーになる事による対象個別の弊害を無くすためであろう。
なにせこの男は他者を基本的に名前で呼ばない、数が多いなどの例外は有るが四人程度ならば全員が自分と呼ばれる。
「お疲れ様です校長先生、何かご用ですか?」
「そや、来期の部活の予算案でちょっとな、そのついでにコイツら大人しゅうしとるか見にきてんけど相変わらずみたいやな」
「ハッハー、相変わらずとは随分と見くびられた物で、そこの幼馴染につい10分前に毒殺されました」
「自分らは一体何をしとるんかホンマに解らんわ、なんで同級生に毒盛んねん、ってかなんで毒持ち歩いとんのかそこが解らん」
自分の事でも有るのに我関せずで読書に没頭する辺り慣れとは恐ろしい、彼女の場合は日に一度は毒殺がもはやライフワークで調子に乗りすぎた幼馴染を諌めるためとは言えそこに躊躇はないし罪悪感もない、これで恋人というのがおそらく最も理解できない点だろう。