西岸高校の日常その2
学校と言うのは基本的に閉鎖的な空間である、生徒、教員、保護者くらいしか中に入れず、例外は練習試合等で他校の生徒が来たり、交流会が有ったりするくらいで後は教育委員会や役所の視察だとか、テレビの取材、事件による警察検察の捜査、OBOGくらいだろうか、少なくとも後半部分は本来ならばレアケースの部類に入る、西岸高校の場合は事件が度々起こるため後半も珍しくはない。
それでも基本的には閉鎖的な空間なのが学校でオープンになるのは文化祭あるいは学園祭くらいでそれも在校生による入場券の類いか近隣校に生徒会の繋がりで配るソレが必要となる。少なくとも部外者でも歓迎みたいな事はこのご時世では不可能でこの日のために雇われた警備員と常勤の用務員が校門の前で出入りを確認している、まぁ下手にオープンにすると女子高生の盗撮のために変なのが寄ってくるし当然の様に問題が起こってしまう。
特に西岸高校の場合は顕著で入場券を持たない者はOGOBか関係者くらいしか中に入れない、この数年で強化された外壁や監視体制も有って侵入も相当な手練れでないと不可能だろう、唯一の穴は文字通りのマンホールを介した経路だが文化祭中にマンホールから人が出てきたなら通報待った無しだろう、少なくとも見咎められる。
「さぁーいらはいーいらはいー、レディースアンドジェントルマンアンドボーイズアンドガールズ、世にも奇妙な種も仕掛けもない異能によるごり押しマジック、綺麗所も揃ってる見ないと損だよ、さぁーいらはいーいらはいー」
校庭の一角で賑やかな呼び込みとベニヤと角材で組まれた屋台に机くらいといういかにも学生が作ったと言わんばかりのステージの前で普段と変わらぬ軽妙さで道行く者を呼び止める。
看板には異能部奇術ショーの文字、さらに開演時間と終演時間を書いた立て看板、どこまでも学生らしさが見えるソレラは文化祭ではありふれた物で排斥派が過半数を越えている世ではどうかとも思うが過激派はその一割程度、なんとなく排斥なんて層も当然の様に居るのだからそこまでおかしな事をやっているという風でもない。
「さてさて、本日最初の見せ物は世にも不思議で不気味な骨のサーカス、上手く行ったら御喝采、失敗したなら御慰み、先ずはネズミの綱渡りと行きましょう」
「おや? しかし困ったロープがない、いやいや御案じ召されるな、指をパチンと鳴らせばこの通り、何処からともなくロープの束が現れた」
空間から涌き出たとしか見えないロープがスルスルと動きだし、留め具も無いのに空中でピンと張る、これをトリックで行うならば相当に修練を積んで道具を揃える必要がある。
タラリと地面に伸ばされたロープに完全に白骨化したネズミが駆け寄り、そのまま生きていた頃のように登って綱を渡る、途中で止まって後ろ足で直立して前足を振る愛嬌さえ見せてそのまま渡りきる。
「おっと、困った先がない、少しロープが短いらしい、しかし不味いぞなんともはやアレに見えるは大蛇の骨」
全長が数メートルはあろうかという蛇の骨がこれまた生前をなぞるかの様にロープに巻き付きながら登っていく。仮に丸飲みにされたとて胃も腸も無いのだから消化はされないだろうしそもそも既に死んでいるが息を飲む光景に観客も思わず見入る。
目と鼻の先という程に二体の骨が近づいた瞬間、パチンと指が鳴らされネズミの骨が煙の様に消える、まるで夢か幻の如く居なくなった獲物にやれやれとでも言うように客の方に頭蓋骨を向けて首を傾げてみせる、これまた何処かコミカルで愛嬌が有るが大蛇の骨のため消しきれない野生の様な物が見えるのは仕方がない。