映像視聴
それは筋肉が物を言う祭典、より大きな筋肉、よりハッキリと見えるキレ、より美しいポージング、素晴らしい笑顔も忘れてはならない、世界一静かで世界一喧しいと言えるコンテスト、ただ黙々と筋肉を見せつけて、暑苦しいまでの筋肉を見せつけて、喧しいまでに筋肉を見せつける、ひたすら筋肉を競い会う祭典。
リラックス、サイドチェスト、マスキュラー、ダブルバイセプス、ラットスプレット、トライセプス、アブドミナルアンドサイ、フロント、サイド、バックで各々が各々で得意なポージングを取っていく。
「編集に手間取ってすまん、英訳を念のため親父に見てもらってたらそれなりに手直し食らってな、まぁ色々調べながらだから粗も有るが完成したよ」
生徒会室にてようやく完成したらしいDVDを差し出しつつ己の恥も晒す、日頃英語が完璧と言っているくせに微妙な甘さがあるのは増長や慢心による物か生の英語と言いつつ使う機会がそれほど無いからか。
「おー、この間のか、結果は聞いてるが見てみたい、先生に許可取ってくるから視聴覚室で待っていてくれ」
「プロジェクターの使用許可も頼む、家のでも良いが隠れ家ってあまりオープンにするものじゃないしな」
「言わずもがなだ、任せろ生徒会長ってのはこういう時に我が儘が通る」
「とりあえず可愛い後輩達にも声掛けるか、ってか次期会長君は良いのかね? 最近見ないけど」
「季節外れのインフルで入院中です、高熱でぶっ倒れたらしくて」
「ありゃ、激務が祟ったか? ブラック生徒会とか笑えねぇな」
「その激務の半分くらいが貴方のせいと理解していて言っているならば鏡必要ないですね」
「良い皮肉だ書記ちゃん、だいぶ生徒会に染まったじゃねぇか、たった数ヶ月で良い進歩だ」
「進歩とは言えないと思いますが?」
「それだけ慣れて染まったって事だ、これは持論だが人間慣れちまえば大抵の事はどうって事なくなるし大抵のどうって事も慣れちまえる、慣れたくなくても慣れてブラック企業に搾取される奴とか居るでしょ? アレ慣れて感覚麻痺ってる証拠だから、それは一つの進歩だ、前か後ろかは知らんがそんなのは見る角度一つだしな」
「余計に進歩と思えなくなりました」
「俺も言ってて『だろうな』って思うよ、まぁ俺の話なんぞ半分どころか一割も聞かなくても別に構わん、俺は便利な人間だし頼れる男だが人を導ける器は持ち合わせてないんでな、そういうのは会長に任せるさ、他で勝っててもカリスマ性と人間性じゃダブルスコアだし」
面白そうだと着いてきた二人も加わり、さらに偶然職員室に居合わせた校長まで加わる。
分厚いカーテンとブラインドで部屋を締め切るがやや明かりが漏れるのは窓を大きくしている弊害だろう、と言うか学校の場合窓の小さい部屋というのが少ないイメージが有る、それでもブラインドとカーテンの二重遮光で暗さを確保している、それでも足りないなら光を防げば良いのだ。
テキパキと用意を済まして映像を再生する、スリーカウントと何故だか配給ロゴとしてダブルバイセプスをする赤鬼という凝った作りは編集に手間取ったというのは何処に力を入れたんだと思うがこの分だと映像にも相当に手を掛けていそうではある。
アメリカの空港から映像が始まり、カットを挟んで車窓、そして会場近くのマーケットを背景にナレーションとテロップ。
「毎年五月にサンフランシスコで行われる『スタチューマンコンテスト』非公式のボディービルコンテストとしては53年の年季を誇る栄えある大会、今年もその静かな戦いの火蓋が落とされます」
「男性部門は五階級163名、女性部門が三階級55名、計200名を越える参加者が己の肉体を誇ります」
「レギュレーションは前後編の2部制、一次審査はワンブロック最大10人で行いリラックスポーズからスタートして一分間の自由演技、規定ポーズのみを最低5ポーズ、サイドフロントバックをそれぞれ1ポーズ入れる、その上でワンブロック2~3名が決勝に進み二次審査は一人ずつ各1分30秒、規定ポーズ以外も行えますが一次と同じく5ポーズかつサイドフロントバックそれぞれ1ポーズ、階級はテロップを参照下さい」
「これ、ナレーション誰よ」
「声優事務所に行って新人にバイト持ち掛けた」
「あの、私の事でそこまでしていただくのは少し」
「いやいや、最初は自分でやったんだがな、なんか違和感凄くて、レンタルスタジオで映像見ながら簡易機器だし、育成学校卒業したてでまだアニメにもモブでしか出てない若造だし、思うほどに金は掛かっていない」
「まぁ手間は掛かったがおかげで俺がやったのよりは良くなった、少なくとも滑舌は俺より良い」
「先ずは女性部門から、規定ポーズの参照と共にどうぞ」
「『リラックスポーズ』力を抜いてもこんなに筋肉が隆起するんだぞという規定ポーズで出てきた時、選考中はこのポーズで待つのが基本になります、また名前と異なりリラックスとは言い難いくらいに各所に力を入れる必要のあるポーズとなります『サイドチェスト』大胸筋や三角筋が出やすいポーズです『ダブルバイセプス』いわゆるマッスルポーズですが上腕二頭筋が良く出ますが両手を上げるため腹筋回りも気を抜けないポーズとなります『ラットスプレッド』主に広背筋回りを大きく見せたい時に使うポーズとなります『トライセップス』サイドチェストよりも三角筋が大きく出てくるポーズとなります『アブドミナルアンドサイ』腹筋と足回りの筋肉を見せたい時に使うポーズ『マスキュラー』全身を隆起させる究極のポージングと言えるでしょう、これらの正面背面側面が規定ポーズとなります」
「ふむ、こうして見るとやはり大きさやキレと言うのか? 筋肉のメリハリが如実に見えるような気がするな、6番の女性とか全体的に大きくキレて見える」
「俺も直で見てそれ思ったな、ネタバレになるから結果は言わんが正直に言ってボディービルなんぞ何が面白いのか良く解らんと思っていたが実際に目にすると考え変わる、少なくともポージング覚えたしな、自分でやってみようとは思わんし非公式でないと大会には参加できんが観戦は時間が合えばまた行きたいと思える」
「全員凄い笑顔ね、言葉を選ばないなら暑苦しいくらいに笑顔が光ってるわ」
「笑顔も評価の中に入ると言われてまして、少なくとも減点対象にはなりません」
追記、順番ミスでこの後に投稿される物が投稿されてました、修正しておいたので次話と合わせてお楽しみください。