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異能部  作者: KAINE
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自宅の日常その1

 「どっち勝ってる」

 「虎」

 「あら、負けてるな、ほいシャグ、あとピーナッツ」

 風呂上がりの青年はテレビにかじりつく父親に声をかけて、隣のソファーにどっかりと腰を下ろしてそのままウィスキーをグラスに注ぎ、流れるような手付きで炭酸メーカーを使用してハイボールを作る、ついでにパイプにシャグを詰めて父親に差し出す、酒は飲むがタバコはやらない息子と酒もタバコもの父の二人は交流戦を見ながら晩酌を楽しむのは常だ。せいぜい試合が無い日が有ったり贔屓の球団の中継がなかったりするくらいでリビングの一角は二人の指定席と言える。


 試合が進んでいき7回裏の時点で1-1のイーブン、中々に良い展開でピンチとチャンスが目まぐるしく変わっていく。

 これは先発がマウンドを降りてからかバテて球威が落ちてからが天王山になりそうだと手に汗を握る、きっちりと先発が相手の上位打線を抑えて8回に移る。


 「どっち勝ってる?」

 「8回引き分け」

 「なるほど」

 風呂上がりの鈴子がシロップに炭酸水を注ぎつつ声をかけてくる、ついでにピーナッツを三つ四つ摘まんで口に放り込む、そのついでとばかりに兄の頭を撫でる。

 「お兄、明日散髪ね」

 「よろしくー」

 剃ったばかりの感触を好むらしい鈴子からするとやや延びた髪の感触は許せなかったらしい、こういう場合妹の好きにさせると言うのが処世術としては正しいのだろう。

 「じゃあ今から砥石浸けてくるね」

だからと言ってドンドン道具を揃えてのめり込むのはどうかと思う、最初はT字の一枚刃、そこから多枚刃、最終的に日本カミソリにまで昇華させている、それも複数の砥石に革砥とお前は散髪屋でも始めるのかと問いたくなるほどに凝っている、と言うかスキンヘッドに関してならば修行を始めたばかりのテイラーよりも上だろう。ここまで来るのに多数の傷を負いはしたが同時に無駄毛の処理も上手くなったと喜ぶ妹を見て何かを言うような兄は居るだろうが文句ではなく小言だろう。

『何故ウキウキと砥石を用意するのか?』と、少なくとも中学三年生の女子が浮かれるような事柄では無い、広い世界を探せば一人か二人は居るだろうがその内の一人が此処に居るというのは家族だからこそ触れて良いのか悩みどころだ。


 お代わりのハイボールを作ると同時に冷蔵庫から缶ビールと戸棚から追加のピーナッツを浮かせて持ってくる、腰を上げずともカウチピーナッツでなんでもできるというのは物凄く便利でよくこれで運動不足や肥満体にならないと思うが普段から移動の際に飛んだりしているわけではないし若さゆえの代謝でどうにかしているのだろう。

 ワンアウト一二塁、代打の選手が出てきてどうやら監督はここで一気に試合を決めるつもりらしい、後は中継ぎ抑えが捕まらなければ、いや、その前に今期引退の熟練選手が打てるかどうかが分水嶺になりそうだ。


 結局得点はしたが後続が捕まり延長戦の上に引き分け、なんとも言えない結果で双方共に決めきれなかったというのが大きい、負けなかっただけマシと思うしか無いだろう。

 スポーツチャンネルからドキュメンタリーに切り替えて長かった試合にため息を吐く、ライオンの狩りを見るでもなく試合を脳内で反芻して

 「今回のキーは中継ぎだな」

 「あぁ、彼が崩れたのが大きい先発が7回で上位を抑えたのに六番にホームランを打たれてそこからアウト一つも取れずに一三塁はな、抑えがなんとか消火したが決めるチャンスがそこで潰えた、正直に言って彼処で選手の気持ちが一瞬切れたようにも見える、ほんの一瞬だから建て直したが」

 「切り替えるのが一瞬遅れたのがやっぱでかいか、畳み掛けられなかっただけ良いんだろうが向こうも向こうで攻め手が欠けた、こういうパターンも投打が噛み合わないって言うのかね?」

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