生徒会の日常その2
「失礼するぜー」
ノックもそこそこに生徒会室の扉を開いたのは男鹿以下略その人でつい先日テロリストに頭吹き飛ばされて久しいのに何時もと変わらぬ飄々とした、軽薄そうな雰囲気を漂わせている、馬鹿は死んでも治らないと言うが性根もまた死んでも治らないのだろう、彼の場合は楽天的かつ享楽的なともすれば軽薄な雰囲気は死んでも治らず。挨拶を受けた、例えば生徒会長板田挑の生真面目さやココ一番の勝負弱さ、それでも名前の通り挑戦を止めない反骨精神は死んでも治らないし例えば生徒会書記影野黒子の筋肉フェチは死んでも治らないのだろう。
「ほい、文化祭の出し物書いて来たぜ、書類くれ書類」
そう言いつつ箇条書きのルーズリーフを手渡す、西岸高校の文化祭は基本的に提出が早い者勝ちでネタ被りは三つまで、例外的に飲食系と演劇演奏、展示は各々決められた枠内なら最小でも六つまでとなる、各クラスに部活となるとその雌雄は血で血を洗うは言い過ぎだが慣れていない一学年はともかく二三年は日取りが決定した瞬間より始まっている。
異能部の場合、学校非公認組織だし同好会ですら無いのだが毎年参加しており、内容は部のコンセプトである異能との触合いだとか相互理解のソレに近いが彼がまだ一年生の時にやらかして以来、生徒会で出し物の精査と認可を得てからと言うキツイお達しを受けている。
尚、文化祭は7月なのに4月の時点で申請が可能なのは数代前の生徒会による悪行である、西岸高校は生徒の自主性を高めるために校則の条文抹消、変更が手続きを踏めば可能であり新たな校則の発布も生徒の承認を受ける必要がある、対して生徒会会則は生徒会のみで変更が可能であり当時生徒会長を筆頭とした役員が他クラスに先んじるために会則に変更を加えて後出しで発表、さらに新たな会則は向こう20年変更不可という悪法まで敷いた、問題は悪法だが校則、会則双方で一切の問題が無く決を取られた時点で確定するという点で残念ながら向こう数年は入学式より3日後には申請可能という会則を守るしかない。
「この紐無しバンジー体験ってのと浮遊撮影会ってのはなんだ」
ルーズリーフに書かれた幾つかの案の中で間違いなく穏当からは程遠い二つに眉間に皺を寄せて問い詰める。
「前者は屋上から紐無しのフリーフォール、サイコキネシスで危なげなくキャッチアンドリターン、お手軽臨死体験だな、後者は同じくサイコキネシスで中に浮かせてその様子を撮影、小物として絨毯と箒とチャリに宇宙人人形用意だな」
「どちらも安全性は問題無いのだろうが万が一もある、第一学校の屋上からフリーフォールとか御近所さんから通報されまくりだろうし屋上は立ち入り禁止だ、後者はまだマシだが最低限下にマットか何か敷かないと駄目だしそれだと上手く撮らないと興醒めだ、この種も仕掛けもない超物理マジックショー辺りが妥当じゃないか? 演劇枠は余裕有るし、これなら音矢くんが瞬間移動とか深井くんが紐すら無く骨を動かしたりとか、部全体で活動してる感が出る」
「あー、俺らのクラスは今年はやる気皆無の展示だから良いけど後輩はまだ演劇か演奏かで喧々諤々らしい、事と次第じゃ創立メンバー二人でになるが、まぁ良いか」
手渡された書類に手早く記入して返却する、流石に部長を自称するだけあって軽薄な割にこの辺りは本当に手堅い。
「時にゴールデンウィークに予定有るか? 近く隣町で非公式の大会があるが」
「あー、今回パス、この間のでアメリカ行くんだわ、てか俺の持ちキャラだと大会上位厳しいんだよな、知っての通り最新のアップデートで無敵時間と投げ吸いが修正入って動き遅いただのサンドバッグだ、むしろ強化してバランス取れるくらいなのにあのクソ運営が」
「俺のもスラキャン修正入ったんだがな、ガードめくりも微妙になったし、投げ抜けは楽になったがあのクソ運営が」
二人して格ゲーの運営への怨嗟を吐き出しつつゲーマーらしく一強ではなく一長一短を求めて、しかし自分の持ちキャラは優遇して欲しいという二律背反を抱えて、それでも一秒16フレームの読み合いの世界で六つのボタンと一本のスティックによる戦場に飛び込む。
「アメリカですか? 5月2日に西海岸に居る予定は?」
「2日だとニューヨークだが予定は幾らでもだ、何か有るのか書記ちゃん」
マスキュラーを決める少女の質問に返答と質問で返す。
「えぇ、父がその日渡米してボディービルの大会が、残念ながら一人が往復する分しか捻出できず、撮影をお願いできればと」
「あぁ、そういう事なら構わない、どうせ移動とか自力だしな、と言うか失礼を百も承知で言うがそんなに経済的に厳しいなら、無料で数人なら連れていけるがどうする? それこそ半月は先だしキャンセル料も少ない、払い戻しで親父さんと書記ちゃんの二人の滞在費にお土産買ってもお釣りが来ると思うぞ」
「黒子くんなら調整とか無しに優勝も夢ではないし参加は兎も角として撮影は可能か、時に手続きってのは?」
「あー、そうだな、こっちの手続きもあるから返答は二日以内にな、まぁ書類が何枚かだ、因みにパスポートとビザは確定、後は手荷物の上限はないが申告は必要、当たり前だが不合法なのを持ち込むのも無しだ、ソレさえ済ませりゃサイコキネシスによる快適な尚且つそこらのジェット機より速い空の旅だ、外装だけは小型のジェット機使うし、エンジンの代わりにバッテリー積んで揚力とか無視して機体を強化してる、窓が少なくて閉所恐怖症にはキツイがな」