デートの日常その6
「男鹿、その前に悪いがそこの精神異能者、能力を封じて貰えるか? この調子で検察や裁判官まで操られたんじゃ堪った物じゃない、なんなら一生でも良い」
「あー、そういうパターンも有るのか、んじゃサクッと、おめでとう、今日から君は異能者じゃ無くなった、アイデンティティー壊したって意味で殺人犯した気分だがなんとも思わんな」
「さて、お次は誰から話を聞くか、それとも後は察官に任せて帰るとしようか、ナイフの類いは持ってねぇみたいだし暴れたところでこの数相手だ、しかも空手やら柔道やらやってる連中にチンピラ風情が敵う訳もない」
「とりあえず、それをするならこの目の覆いを取ってからにしてくれ、うちは基本的に男所帯なのに公休で女性陣が5人しか居ないからな」
「はてさて、それには服を着るまで待たないとだが、うちの後輩はともかくソッチのは魂抜けたみたいでな、毛布でも掛けて引退間近な起つ物も起たなそうな年寄りだけ復帰させるか、若いのには目の毒、いや保養か? まぁもう少し真っ暗の世界を楽しんでくれ」
「お前、なんなんだよ」
「何かと問われれば化け物だな、それとも人にでも見えるか? ならそのビー玉抉り取ってそこらの石ころ詰めてやるよ、まぁ俺が何でもお前らには関係ない、安心しろ、明日にはそんな事気にならなくなるから」
「とりあえず無理くり服着せたけど、この娘なんなの? なんか操り人形? ん? あぁそういう、こりゃ俺じゃ無理だな、後で知り合いに頼んでおいてやるよ、聞こえてねぇだろうがなんなら記憶も消せる、膜までは戻らんがクソったれの現実は消えてなくるさ」
「んじゃ、後は皆さんに任せるとして、帰るぞお嬢さん方、なんぞ用が有っても知らん、今日のところは帰宅だ」
「先輩、でも梓ちゃんが」
「んー? 知り合い? あー、操って引き込み役か、何処までも屑だな、んで障壁邪魔だしどうしようもねぇから友情盾に脅してストリップか、でも残念ながら助ける力を俺は持ってないからな、任せるしかない、ま、仇は取ってやるよ、物理的に」
「おいっ、待て男鹿っ」
制止も待たずに誘拐犯全てが泡を吹きながらのたうち回る、戻った視界ではすでに倒れ込んでいた二人でさえ声無き悲鳴を上げながら涙すら流せない。
濃密な血の匂いとアンモニアの匂い、男共の股間が血と小便で濡れているのを見るに何かをしたのだろう、ただ何かは知りたくない、知りたくないが聞かない訳にもいかない。
「私刑は看過できんと言った筈だ、一体コイツらに何をした」
「引っこ抜いた」
何とは聞かなくても解る、性犯罪者は去勢するべきなんて過激な論者は居るが実際にやる奴が居るとは考えたくはなかった、こうならないために無理をして上と話を付けて令状を取ったのに全てが水の泡だ、この男が絡むと何時もこうだ、何をどう報告書に書いて良いのか、書いたとしても罰する事もできない。
法に従うならば私刑やら何やらで当の昔に逮捕起訴されているが単に『強い』これだけでその網を掻い潜る事すらなく引き裂いていく歩く不条理、本人の言葉を借りるならまさしく化け物、道理も法も通じないのだ、情に訴えるにしても関係性が薄すぎるしそもそもマトモな思考回路を持っているのかさえも怪しい、人並みに怒るし人並みに笑う、人並みに楽しみ人並みに悲しんではいるがどれもAIがそうしているような、何処か演技じみてしか見れない。
化け物の精神に化け物の力を与えて無理やり人間という皮に押し込めたような感覚がこの数年間この青年を見てきて人で有ろうとする化け物にしか見えなくなりつつある、せめて人で有ろうとするのはありがたいが残念ながら己と彼とを結び付けるのは何時だってトラブルで、そしてトラブルに対して化け物が何をするのかは酷く分かりやすい、力付くで何もかもを吹き飛ばして解決するのではなく元から存在しなかったとでも言うように更地にしていく。
この目の前で転がっている悪漢にしても、余罪は一つや二つでは無いだろうが彼が関わった段階で表にすら出ない、便宜的に裁判は行われるだろう、そこで全ての余罪は明るみに出るのだろう、それは彼が関わった段階で決まっている道筋だ、だからせめてその道筋を綺麗に舗装して、せめて反省する余地が有るようにと願っても、ふとした事でコレだ。止めようがない災害のように全てを台無しにしていく、裁けはする、だがその道行きは荒野を行く方がまだ整備されていると思える程に山と谷しかない、とりあえず救急車を呼ぶ以外に、できそうな事は無いらしい。