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異能部  作者: KAINE
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デートの日常その4

 渋谷という町はナニかと都合が良い、当然の様に服飾関係の店が集まっているし遊ぶには持ってこい、仮に気に入った服が無くてもほんの少し足を伸ばせば原宿もすぐそこ、関東近縁の若者の集まるメッカと言えるだろう。

 故に偶然にも知り合いに出会うなんてのは珍しくもない、小学生の時のクラスメイトだとか、数年前に引っ越した旧友だとか、特に待ち合わせた訳でも無いのに再会するのは流石に稀有だろうが隣のクラスの奴だとかならば日に数度は何処かで起こっている。一方的に見掛けたレベルならば両手では足りまい、行き合って共に動くかは別にしてこの程度ならば渋谷に限定せずとも世界中で起こっている小さな偶然だ。

そしてそれらはきっと何時でも誰にでも起こる偶然で、例外があるのだとしたら生まれてから親兄弟姉妹以外を知らずに過ごしてきたとか、そういう理由くらいで後は国すら違っているとか星が違うとか、そういうレベルで住居圏が離れているとか、もはや旧友が皆墓の中とかくらいだろう。


 季節先取りで春物のコートに幾つかのアクセサリー、セール品の服に靴、荷物持ちも頼めばよかったと思うも後の祭り、諦めてコインロッカーを利用してまだ買い足りぬと次の店を目指す。

 ウインドウショッピングではなく買うためのそぞろ歩きだ、溜め込んだ小遣いを放出して、しばらくは禁欲に励むとしても購買欲はまだまだ満たされない、手持ちは諭吉さんが残り二人と厳しいがそこは売り尽くしやら閉店やらのセール品を狙えば良いし帰りの電車代を気にする必要もない、財布から既に数人飛び立ったがまだまだ飛んで貰うとしよう。


 「久しぶりー」

そんな声に振り返ると見知らぬ他人がそこにいる、自分一人ならばソレなりに恐怖を感じるか、宗教勧誘か何かだろうと無視するが連れ合いが居るならばそっちの関係者か、でなければ向こうの勘違いか人違い、もしくは自分の後ろに居る誰かに声をかけたかだ。

 「あー、久しぶりー」

 どうやら後輩の知り合いだったらしく、やや手持ち無沙汰にはなるがその程度ならば気にならない、と言うか怪しい宗教の勧誘でなかっただけマシというものだ。


 「本当に久しぶり、同窓会以来だっけ?」

 「えーっと、どうだろう? 去年こっちに引っ越してるから多分そうじゃないかな?」

 「あっ、えーとこちら今お世話になってる先輩で音矢菜慈美さん、で、こちら小中一緒だった幼なじみの重盛梓ちゃん」

 「ヨロシク、まぁ私の事は置物とでも思って貰って、こんな往来じゃ邪魔だし荷物もまた溜まってるし、コーヒーでも飲みながら積もる話ってのをしましょう」


 少し歩いてファストフード店で席を取り、高校に入ってからの数年を簡潔に話し合う、まぁかなり脇道に反れてカッコいい先輩がいるとか、隣の席の子がダレソレと付き合ってるとか告った告られたなんていう恋話に飛んでしまうが。

 女三人集まれば姦ましいなんて言うが初対面が一人混ざろうともおおよそその範疇から外れる事もなく、学業だったり、ドラマやアイドル、恋話と話題は切り替わりながら小一時間コーヒー一杯で席を占拠するなんて余裕も余裕、朝飯前どころか寝ながらでも可能なくらい。

ついでだし機会も少ないだろうと共に回るという結論に至り、そして店を後にする、そのままさて何処から攻めるかと思案する中で重盛がどうしてもという店をまず見ようと路地裏に入った所で、横付けしてきた自動車から延びた腕が深井を外から中へと引き込む、咄嗟の事に声すら出ず、アタフタもできないままに己も引き摺り込まれ、その後から悠々と重盛が乗ってきて扉が閉まる。

事ここに至ってようやく声も出ようという物だが発車する前にと髪飾りを瞬時に外に転移させる、気付いた所でもう遅い、数百メートル単位で離れたならばアイツは直ぐに気付くし仮に取りに戻るにしても回りに人も居た、車のナンバーを覚えられるような危険を犯してまで取りに行くような物でもない。これは詰みだ、初手で完膚無きまでに出鼻を挫いて全てを終わらせた、そして目的が何で有ろうとも、それが叶う事は金輪際起こり得ない。

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