隠れ家の日常その2
カチャカチャとパーツを外してひたすら並べていくという作業は必要なのかと問われれば必要だが必要はないと答えるしかない、目的の作業を行うためには外側に配置された部分を一度取り外さないと念動が使えてもスペース的な問題で難しい部分が出てくる。
不可能ではないが傷付けたりする可能性を考慮すると横着をしないで一つずつ外していく方が良い。
ついでにパーツのチェックだとか必要なら再塗装やグリスアップも可能になる、それらを含めて考えれば無駄ではない、例え異能の副産物で見るまでもなく傷の有無が確認できるのだとしても様式美は必要なのだ。
ほぼ全てのパーツを取り外すという、これに関しては全く必要のない行程は完全に気分の問題でそうした方が見映え良さそうとかいう誰に見せるでも無いのに考えて実行に移した結果だ、幸いにしてパーツの総数はモーターバイクに比べれば少ないため組み立ては楽だが無意味な事をしているのは間違いない。
後はパーツを付け替えて組み立てるだけだがここまで来たらついでとタイヤの方まで手を出そうとパーツストックを漁り目的の物を取り出す、軸の部分をハンマーで叩いて抜き、軽くグリスアップしてベアリングを手早く交換、再度軸を入れてブレを直す、ついでにスポークを拭いて汚れを落とす。前後のグリスアップとベアリング交換を終えてようやく本来の目的に移るがその前に虫ゴムの交換とコンポの清掃にまで手を出し当然のようにスプロケットの清掃も済ませる、ここまで来たらもはや意地だ、やれる所を全てやるくらいの勢いでブレーキパットの交換だとかワイヤーのチェックとか予定に無い物まで手を広げていく。その姿はさながらテスト前に部屋の片付けに熱中する若者の如くだが本当にやりたい事は当然ソレではない。
一通りのチェックを済ましてようやくチェーンの交換とボディの清掃という本来の目的に立ち返る、油跳ねで黒く染まった部分を中性洗剤で洗い流し元の色と模様が出るまで確りと綺麗になるまで磨く。
それが終われば組み立ててチェーンを切り、新しい物を取り付けて油を差してトルクを規定の物に絞める、その上でギアを変えつつ微調整を加えてようやく自転車が一台組上がる。
通学用のシティーバイクは使用頻度の関係からほぼ使わないマウンテンバイクやロードバイク、全く使わない飾りと化しているレース用バイク、それらの中で三年間の通学を助けてくれた言わば盟友だ、少しくらい感謝の印に細かい所までメンテナンスしても罰を食らうという事も無いだろう。
卒業したら使う機会は無いが菜慈美が使うにはサイズがやや大きい、サドルを限界まで下げればなんとか乗れるだろうがママチャリよりはスピードも出るしなんとか乗れるという状態では危険だろう、幸いにして鈴子は体格的に問題なく乗れるため其方に下げ渡すが汚いより綺麗な方が良い。
流石にここからさらにピンクとかゴールドに塗装し直せと言われれば億劫だがやれと言われればやるまでだ、どうせ今から塗装ブースは使うのだから作業が夜まで掛かるというだけ、その程度なら可愛い妹のために骨を折っても気にはならない。
完成した自転車を写真に収めて妹に送る、タイトルは『こんな感じでどうよ』とだけ書くが素人にはどうよと言われても困るとしか返せないだろう、ママチャリよりは速そうとしか思うのがせいぜいで何か注文を着けるにしてもカラーリングくらいだろう。
しばし待って返ってきたのが良いんじゃない? のスタンプ一つで気に入った訳ではないが無料だし良いか感が透けて見える。
買うとしても新品でざっと5万も出せば保険や防犯登録に追加の鍵やライトまで買えるが現状中学生にはやや大きい買い物だ、別に1万円前後で買えるママチャリで通学しても良い、と言うか大多数がそうなのだが進学を機会に新調しようと思っているという会話を聞いて、ならば中古にはなるがメンテナンスがされているお下がりはどうかという話になる、結果として防犯登録の名義変更まで含めて片手間に済ませてしまう、保険の関係上で年一のメンテナンスと更新は必要だがその程度ならお小遣いから出せるし故障に関しては余裕で直せるのが居る、初期費用が無料で問題が起こった時の修理費用も無料、年に一度数千円のメンテナンス費用と更新費用が居るだけ、メンテナンスにしても保険の要件を満たすためにやるが手を入れるとして空気圧くらいになる、それでも値段は変わらないが残念ながらそこは技術料だ諦めるしかない。贅沢を言うならばほとんど使われていない自転車達を頂きたいだろうが最低ランクの物でさえ10万円近い、流石においそれと渡せる代物では無いだろう。