過重限界
「なぁ、ちょっと思ったんだが書記ちゃんって何キロまで行けるの?」
「さぁ? 聞いた事が無いので解りませんがそもそもジムとか通ってないしたぶん100は軽いと思いますけどね」
「ふむ、気になるし調べて見るか、って事でちと行ってくるわ」
「面白そうなんでお供します、菜慈美先輩も居ませんし」
「今日はほら新刊買いに行ってるから、なんか楽しみにしてたシリーズの最新が出るんだと、ついでにいろいろ買い込むんだろうさ」
「邪魔するよー」
「邪魔するんだったら、って貴方ですか」
「おうよ、板田が退任してから此所に入るの初めてだが、代わり映えしねーのな」
「そりゃまぁ、備品とか勝手に弄れませんし、なんだかんだ言って使いなれてるのが一番良いので」
「時に新任会長君は?」
「運動部の折衝を少々、緒方君に用事ですか?」
「いんや、書記ちゃんにちょっと聞きたい事が有ってね」
「私に……ですか? 何でしょう?」
「流行りに乗って、ダンベル、ってかバーベル何キロ持てる?」
「さぁ? 試したら事が無いのでなんとも、ただバイト先で50キロの鉄の塊持ち上げるのは楽勝だったので最低がその辺りかと」
「未知数か、体育館のスペース借りて擬似的なバーベルで試してみるかい? とりあえず50キロスタートで今日は100まで、休み跨いで80キロスタートの150ってな感じで限界知ってみる気とかない? とりあえずデットじゃなくてベンチでになるけど興味は?」
「無くは無いですね、幸いにして主だった仕事も無いですし、擬似的なと言うのが気になりますが」
「そりゃ俺の便利な異能でちょちょいとね、箒の柄とか強化して後は過重でどうにでもなる、体育館の床と書記ちゃんのスペック次第だけど、やろうと思えばトン単位も夢じゃない」
「あの、1日でやらない理由ってなんですか?」
「そんなの体への負担考えてに決まってるでしょ、俺と違って死んだら元通りみたいな体質なら無茶もさせられるけど、流石にいきなり200とか補助有りでも危ないって」
体育館の片隅に椅子を並べ挟み込むようにマットを敷き、簡易的なベンチプレススペースを作る、後はそれらを障壁で強化してしまえばトラックが突っ込んでも動かず象が乗っても壊れない物が一瞬で出来上がる。
そこに寝転がりロッカーの中から拝借した箒からビスを抜いて柄だけを取り外して強化すると鉄塊が全く存在しないバーベルの完成だ、この時点だと木製の箒の柄くらいしか重量は無いが下方向に力を加えれば用途としては十分だろう、問題はおおよそ何キロくらいというアバウトな指標でしかないという事くらいか。
「さて、とりあえず50キロくらいの過重、正確に言うと25キロを両端にだな、普通のバーベルだと棒自体が10キロくらい有るんだが流石にそこまで細かくコントロールするのは面倒でな、ちょいとバランス悪いかもだが勘弁してくれ」
「後は、バーベル保持か、光度調整でどうにかするかね」
僅かに空間が歪み、黒い刺股の様な物が二つ、見た目はアレだが完全にベンチプレスのソレに近付く、ベンチは折り畳み式の椅子を繋げた物だしバーは箒の柄だしで相当にオカシな部分は多いが見た目はそうでも実際は障壁でガチガチに固められた一つの構造物、後はもう自分を追い込む奴が居たならジムだ。
「ふむ、軽いですね、10回は余裕かと」
そう言いつつ軽々と反動を付けずに上げ下げする、体操服から延びる上腕に体操服越しで解る大胸筋が躍動している。
「うん、今上げ下げしてるの多分中学生女子の体重くらいは余裕で有るんだけどな、じゃあ75キロいってみるか」
やはり軽々上げ下げする様は余裕の一言でそのまま100の大台も軽々だ、このクラスになると補助も念動でないと歯が立たない、試しにと50で試してみるが持ち上げるのが限界で上げ下げとなると5回も続かないと言うのは男子高校生として普通なのかどうなのか、とりあえずその場に居たバスケ部バレー部の中で体格の良いのを呼んでみたが流石に運動部だけ有って10回ならなんとかなる程度、これ以上はと言うとちょっと無理、と言うか筋肉痛が怖いという答えしか出ない、おおよそとは言えその倍を軽々上げ下げする膂力は首から下が格ゲーキャラ、首から下がプロレスラーと呼ばれるだけの事は有るのだろう。
「気分的に物足りないかもだが続きは月曜だな、無理してもアレだし、ってか書記ちゃんの体重分くらいは持上げてるわけだし」
「いえ、おおよそ半分ですね、この間計ったら190くらいだったので」
「身長?」
「そっちは211センチです」
「わーお、俺の持ちキャラとほぼ同値だ」
「よく言われますね、まぁ彼ほどバルクは有りませんが、代わりに後背筋は私の方が上です」
「まぁ女子でその体ってだけで凄いんだけど、なんだっけミオなんちゃら? アレに近いんだっけか」
「その疑いが強いというだけですが」
「強いってか確定な気がするが、ステロイドもプロテインも変な薬も無しでその体って男でも厳しいし」
日を跨いで過重を少しずつ増やし、最終的に180kg辺りが限界だろうという答えを得る、さらに日を跨いでデットリフトで200kg辺りという答えを得る、体を仕上げていけばおそらくさらに数十は加算可能だろう。