旅の日常
「親父、そろそろ変わるか? 京都も近いし」
「いや、もう少し頑張るよ」
「 まぁヤバくなったら言ってくれ」
「しかし後ろは楽しそうで良いな、ラジオ聞くのと地図見る以外やる事無さすぎ、やっぱ行きは東京からフェリーで良かったんじゃねぇか」
「馬鹿言うなよ、帰りで疲れてるのに九州から大阪経由で東京とか地獄だろ、それとも九州から大阪経由で徳島に行って東京ルートか? どっちにしろ考えたくもない」
「そもそも大阪経由する意味が解らん、親父がどうしても史跡見たいとか言うからお袋たちがアミューズメントパーク行くって言い出して、去年みたく北海道旅行とかの方が楽で良いな」
「そりゃお前去年は免許持ってないから後ろだったろうが、調子にのって準中免取るのが悪い、普通車ならコイツ運転できないから今ごろは後ろで姦ましい三人相手にポーカーでもできてた」
「何が悲しくて野郎二人で前なんだろうな、ナビ役なんぞ機械に任せりゃ良いのに」
「いやほら、法改正でいろいろとな、タバコの火だっておいそれとだ、職業柄気を付けないと路頭に迷う」
「お堅い仕事ってのは大変だな、そろそろ切れてそうだが次はタバコかシガリロか葉巻か」
「パイプが良いが危ないしな、タバコでいいや」
「ほいラスト一本、いい加減控えねーとひ孫の顔見る前に死ぬぜ?」
「ひ孫云々は知らんが母さん残したくはないなぁ、ただでさえ日本人は長生きなのに」
「アフリカ人の平均寿命って何歳くらいだよ」
「62くらいだな、まぁアフリカは広大でいろいろと足りてないから仕方がない面も有るけど、うちの一族も爺さんが店起こさなかったらまだサバンナで狩猟と観光客相手してた」
「観光客相手ってマサイ族並みに有名じゃないと厳しくないか? 超ドマイナーな部族だろ?」
「否定はしないね、最近言語が日本語に聞こえなくもないってバズったけど一過性だし、そもそも癖強いし、俺の所に取材来ない時点でお察しだろう」
「そもそも親父がそこの出身って知らないんじゃねぇの? もはやクイズ得意なオッサンくらいにしか見られて無い気がする」
「それは否定したいなぁ、まだ老け込むには早いし、元は大学の広報の一環だったけど今じゃサイン求められたりするから悪い事ばかりじゃないと信じたい」
「いや40過ぎの紛う事なきオッサンじゃないか、それに面白アフリカ人では有るが少数民族ルーツとか覚えられてないだろ」
「そういう事言うかね、それに年齢の事言うと母さんが怖いんだが」
「後ろに聞こえたらその発言の方が怖いんだが? 嫌だぜ俺は旅行の初日から親父の土下座見るとか、確実に俺も横に居るだろうし」