生徒会の日常その5
「邪魔すんでー」
ノックもそこそこに返答も待たずに扉を開けるのはこの男が紳士然と言い切れない理由の一つだろう。
所作は丁寧だし物腰も悪くは無いがそこかしこにガサツさが見え隠れしている。
「えーっと確か、邪魔するんだったら帰って、でしたか」
そんな返答に少し嬉しさを見せつつ
「ほなそうさせて貰うわ」
と扉を閉めて立ち去り、一瞬の間を置いて
「ちょい待ちーや、そういう意味とちゃうねん」
と突っ込みと共に扉を開く、お約束と呼ばれる一連の動きは関西出身の彼からするとやってみたい事の一つなのだろう。
「乗ってくれたんわありがとうやけど間が悪いのと言い切らんかったのがちょっとアレやな、自信無くてもハッタリかますくらいの気持ちで言った方がええで、次はあんじょう頼むわ」
「あんじょう、ですか」
「よろしくいう意味や」
地味に関西弁のレクチャーをしつつ板田の微妙な乗り具合に気をよくしたらしく普段以上に声は明るい。
「それで用は自分にあんねんけど、手は休めんでええから耳だけこっちに向けて」
書類を纏めている巨体、影野黒子を見ながら言う、対して自分という二人称故に対象は解りづらいが目線を向けているのだから己だろうとお約束の三文芝居を見つつ手は止めなかったのを続けて言葉を待つ。
「さて、ちょっとややこしいって言うか言いにくいけど、うん覚悟決めるわ、訴えるんやったら好きにして」
そう前置きして
「セクハラでもなんでもなく自分この10日経たんうちに服がキツなっとるやろ、なんでかは知らんけど腕とか破けそうやで」
「あぁ、急遽ボディビルの大会への出場が決まりまして、プロテインを解禁してパンプアップしている最中です、ゴールデンウィーク明けには大会も終わりますから遅くとも6月には戻りますよ」
「ほぉー、大会か、そりゃエエな、まとにかくや、服的に厳しそうやし期限付きの許可証渡すから体操服かジャージで授業受けて登下校に切り替え、ジャージも派手な色や無かったら学校指定やなくてもかめへん、やないと近々に破けんで」
「そんで大会て、どんなんや、公式やったら学校的に成果出そうやったらバックアップできるし自分やったら入賞間違いなしやからな、参加料とかプロテイン代の足しくらいやったら理事会に掛け合って出せんで」
「伝統は有りますが非公式ですね、参加料は150ドルなんで16000円くらいですね」
「アメリカて、また唐突やな、まぁ若いうちから世界を見んのも勉強やけどそれが急に参加決まるて急にも程っちゅうもんが有るやろ」
「偶然と言いますか元は父だけの参加だったんですが男鹿先輩が大会中の渡米をすると聞きまして都合が合うなら撮影をお願いしたいと申し出たらプライベートジェットだし都合が合うなら一緒に来るかと、それで急遽参加です、暫くは彼に足を向けて眠れませんよ」
「ほー、あいつプライベートジェットとか持っとんのかブルジョワやな、前に宇宙関係で定期的にバイトしとるとか言っとったけど随分稼いどるようやな羨ましい限りやで」
関西弁を意識して書こうとすると難しいんだなと、口語をそのまま書こうとするとどうにも無理が有る気がします。