隠れ家の日常その1
その外観は一言で言うならば町工場だろうか、トタンの壁に屋根、倉庫とも思える雰囲気を持つ建物、やや古ぼけて見えるし塗装の剥げも有る、扉横の大きなシャッター等は錆びも浮いている。
しかし、それらは全て狙って、言わば雰囲気を出すためだけに作られた紛い物で外見はトタンの倉庫でも内側はコンクリでしっかりと建てられたコンセプト建築だ、屋根にしてもトタン屋根の下にはコンクリの屋根が有る、言ってしまえば普通の建物の外装にトタンを張り付けて古く見せる塗装をしただけ。すなわちイミテーションでしかないが中身は外見のソレに近い。
まず一階は天井まで6m程有りかなり広い、塗装用のブースが有って数台の車にバイクに自転車、予備のタイヤにパーツ、工具にペンキ、まるで自動車の修理工場で看板でも出ていたなら間違いなく何処にでもある修理や塗装を行う、あるいは車検を行う工場だろう。
一階はガレージに塗装ブース、溶接ブース、着替えスペース、シャワールーム、トイレ、二階にリビングキッチン、寝室、風呂トイレ、本当に何処にでもありそうな個人宅兼工場、これが個人の趣味の賜物でしかないのだから驚きだろう。
「あー、こりゃギアが逝く寸前だな棺桶に両足突っ込んで後は寝るだけだ、直せるがパーツ足りねぇし時間かかるぜ? ってか友達料金で作業料普通の半分以下に押さえるにしてもだ、純正パーツの取り寄せとか考えたら買い換えた方が良いだろうな、地味にサスとかも棺桶三歩手前だし走行距離考えてもそっちのが良いだろう」
「どうにもならないのか?」
「どうにかはなるよ、ただフルで入れ換えたらそっちの方が面倒ってだけだ、使えるパーツをオーバーホールで誤魔化して使うにしても寿命を10年伸ばせりゃ御の字、少なくともギア交換しただけだと次は数年内に足回り、それを交換しても次はまた何処か、バイク買い換えたいとか言ってたし今は故障品でもそこそこの値段で買ってくれる所も有る、個人的にはそっちをお勧めってだけだな」
「それに知っての通り俺は技術有るだけで資格とか無いし、変に交換とかすると純正使ってても改造品とか言われて買い叩かれたりするとか可能性としては有り得るからな、それでも良くてパーツが届くまでと修理までのざっと2週間貰えるならサスとギアのパーツ代と取り付けにオーバーホールの工賃込みでざっと6か7万くらいか、まぁパーツ料金でかなり変わるが」
「8万として10年か、買い取り考えると微妙なラインだな、ナナハンの新車相場って100万くらいか、中古で半値としてもちとキツいな、大学入ったらバイトするにしても10年で買い取り不能と見て、少し考えさせてくれ」
「まぁゆっくり考えると良いさ、念のため言っておくが普通にバイク屋とかに持っていって頼むなら買い叩かれたりはしないはずだぜ? 工賃込みで軽く3倍は取られるってだけで、って言うか改造程度で買い叩くって相当な悪徳だろうが」
「売るとして、どのくらいになると思う」
「さぁな、大雑把に中古で買う半額以下としてこの型で走行距離なら15万に届けばラッキーくらいじゃねぇの? まぁ10年で壊れると決まった訳じゃねぇしその頃にはリーマンか公務員かフリーターだろ? 将来の金銭的余裕信じて先伸ばしも間違いじゃない」
「俺みたく現状金銭的余裕が有るからって趣味全開で走るのもどうかと思うしな、ってか俺の場合はバイトのチートが有るから金には困らないしな、おかげで菜慈美に集られるが、自分を殺す毒やら爆薬やらの資金出すって手の込んだ自殺にしてもどんな感情になりゃ良いのか全く解らん、ってか試しに大型乗ってみるか? そこのまだ改造されてないのはナナハンだから試乗には十分だろ、ただ保険的に立ちゴケも事故もゴメンだが」
「おい、微妙に修理に気持ちが傾いてるのに揺らぐ様な事を言ってくれるなよ、少し黙ってコーヒーか何か持って来い」
「トンでもない客だな全く、まぁ分水嶺にしちゃ些事だが悩めば良いさ、コーヒーは無いしそこの自販機で買ってくる、ブラックで良いか?」