正月の日常
「リーチ」
年始と言うのは各家庭でその過ごし方は変わるだろう、寝正月を決め込む家も有れば家族揃って初詣、はたまた福袋の購入、親族揃って飲み会、全員が好き勝手に行動等々、その過ごし方に優劣は無く各家庭が各家庭で過ごす。
男鹿家における年始の過ごし方は決まっている、炬燵に電気ケトル、茶葉やポット、酒、各々のコップ、そして34種4牌計136牌、麻雀、中国をルーツとするテーブルゲームは冬の男鹿家の恒例と言える。
なお、通常の牌を使うと凹凸から手牌も山も丸見えという理由で特注の凹凸が無くサイズ重量が同じ牌を使っている、また空間認識と物理エンジンがどれほど優秀でも100を越える牌を記憶してその行く先を把握するのは瞬間記憶能力でもない限りは不可能だ、10や20くらいならばなんとかなるかもしれないが物凄く集中する必要かあるしそれに気を取られてゲームが上手く進まなくなる。
さて、どうやら佳境、東三局手番六順目、それなりに早いが初手よりはマシだろう、少なくともヒントは有る。
自分の手牌はキチンと並べるなら四五六②②④⑤⑦4569白、三色同順を狙えるしドラ牌は8、上手く行くとドラも乗るがさて問題は息子の捨て牌は一四六東東8、ツモ牌は⑥、解るのは風牌が無いドラも無い、筒牌が無い、索牌が少ないくらい。
捨てるとすると⑦9白のどれか、しかしどれを切っても通りそうで怖い、しかも己が持ち点は僅か5000、通ればまず飛ぶ、しかしこの手配で降りるなんて選択肢は無い。
白を切る、もはや戦略も糞もない運でしかないが動かない事にはどうにもならない。
手順は巡り娘は東、一人勝ちしている親でもある妻は四とヒントは無い、と言うかツモっても最悪飛ぶがどうやら当たりは引かなかったらしい、しかし捨てたのは六とまたノーヒント。
ここにきて、よりにもよって②が来る、リーチだ、後はどちらを切るかの二択、ドラかそれとも、順当に行くなら点数の稼げるドラ残しだ、だが筒牌が捨てられていないのがどうにも気になる、
こういう時は川を見て流れを読むのがセオリーだがどちらも渋い、少なくともドラは手持ちくらいしか見えないから誰かが抱え込んでるか山に眠ってるか、七筒も一枚も出ていない、リーチと同時に手牌整理はしていたから捨てた位置からの予測は無理。
男ならここで強く出る、自分の勘を信じて打つしかない。
兄のリーチを受けて父親が長考に入る、あれは捨てる牌が無いというより手牌が良いのだろう、そうなると怖いのは早い段階でリーチをした兄より父だ。
問題は自分の手牌が悪いという点だろう八九九①①③⑨⑨12299、いや、かなりの悪い、ここからだとトイツ辺りが妥当だろう三暗刻三色同刻に持っていければ御の字でここは流れ狙いで罰符払ってでも安牌切りだが安牌が無いのも問題だ、父が長考してくれているから落ち着いて回りを見れるが一人勝ち中の母は相変わらずのポーカーフェイス、兄はニヤニヤ、父はへの字、そうして父がようやく切ったのが白、風牌とか危ない橋だが通らないらしい、さてとツモ牌は東、そのまま切って母に流す、ほとんど悩まず安牌切りしてツモを手牌に、どちらにしても情報が薄い。
続く兄もツモ切り、とりあえず一発は消えたがあのニヤニヤはどちらか解らない、あれはあれでポーカーフェイスで手が良いのか安上がりかどうにも予測ができない。
また長考に入る父を横目に紅茶を啜り落ち着く、二連続で長考とはよほどツモに恵まれていないのか、逆に物凄く手が良いのか、僅かな迷いを見せてドラを切ると同時にリーチ、どうやら通らなかったらしいがその牌はそのまま私が貰って一発は潰そう。
そのまま1を切って母に移る、どうせ後は安牌切りでノーテン払いだが鳴いて無理やりフリテンに持っていければラッキーだろう。
一四九①⑦⑨19東南西白白、国士無双単騎を狙えと言わんばかりの手配から一向に揃わないまま息子のリーチを許す、持ち点が50000を越えているため少々なら振り込んでも大丈夫だろうがこのまま押し通したい、仮にこれが通れば少なくとも夫は飛ぶ、そのまま捨てられた白を見逃しツモは北、とりあえず安牌切りでイーシャンテン、これは流れが来ていると見て良い。
そのまま手順は進んでドラ切りリーチだが娘が鳴いてリーチならず、娘の表情からしてとりあえず一発潰しで勝負してるって風ではない、その辺りを隠せないから弱いままだと何時になったら覚えるのか、と言うか高々一発を恐れる必要があると考えているから弱いのだ、
ツモは發、これは完全に来ている、大きなビックウェーブが私に来ている、⑦を捨ててリーチを宣告する。
「「ロン」」
男二人の声が揃いそのまま手牌が晒される、一瞬の間を置いてルールを思い返すが基本的にアリアリが男鹿家のルールだ、当然ながらダブロンは通る、これは不味いかもしれない、少なくとも長考していた伴侶は不味いと牌を見れば断公九、三色同順単騎、まぁまだマシな方と息子を見て愕然とする。
三三三③③③333444⑦、四暗刻単騎、ダブル役満、地味に三色同刻、計算するまでもないこれは飛んだ。
明けましておめでとうございます、本年もよろしくお願いいたします。