空の旅の始まり
空港、空の玄関口なんて呼ばれる日に何万と言う人間が行き来する現在の交通の要で行き来に乗り換え、荷物の運搬等々で多種多様な人間がやって来る場所だ。
特に国際空港ともなれば日に何十万に届く空港も少なくはない、それに国際空港だから海外専門なんて事はなく国内線も有るのだから海外へ行く、帰国するやって来る、だけではなく移動のためだとかに使う者も居れば単純に併設された店を利用するためや、出迎え、そこで働く者も居る、それらを含めれば日に百万は言い過ぎではないだろう。
そんな空港の出入口の一つに影野父娘は大きな旅行鞄片手に立ち尽くしていた、ただ彼らからするとキャリーケースも小さく見えるし中身はそれなりに詰まっているのに車輪を使うなんて事はしないでヒョイと抱えて運べるが。
「おー、流石に背が高いから目立って良いな、待ち合わせはしたとは言え普通ちょっとは探すぜ」
そんな風に言いながらやって来たのは隠すまでもなく その人でこちらはリュック一つと言うかなり身軽な格好でこれから渡米するとは思えない程だ、
「男鹿松平えっと兼守君だね、今日は本当にありがとう、おかげで家計が大助かりだ」
「ん? あぁ気にしないで下さい、偶然行き先と日程が一致しただけですから、あと男鹿で良いですよ、クソみたいに長いんで、ではお楽しみの出国手続きと荷物検査済ませましょうか」
先導しつつ向かうのは通常の航空会社の受付から少し離れた位置に在る専用の受付でパスポートやビザのチェック、荷物検査、身体検査等を済まして一切の問題なく通過する、便宜上はこれで既に日本国外に半分足を踏み入れている様な物だ。
「さて、とりあえず荷物はそのまま手荷物で運んで貰うとして、諸事情で飛んだら着くまで動けなくなるからトイレとか行きたく無くても言って捻り出した方が良い、普通のより断然早いがそれでも数時間は掛かりますから、荷物はまぁ交代で見張りますかね、一応はセレブリティエリアなんで不心得者も居ないでしょうが万が一も有りますし」
そんな風に言いながらトイレを指差す、数時間くらいなら我慢できなくは無いだろうが体に毒なのは間違いない、渋滞のソレと同じで行きたくても行けないというのは本当に辛い、それが空の上ともなると尚更だろう。
係員に案内されて倉庫に止まった飛行機の様な物の前に立つ、形は中型のジェット機だが最大の特徴として何処を探してもエンジンらしきものが着いていない、例えば主翼の下だとか、尾翼の辺りだとか、機体下部も上部も、まさしく飛行機の形をした置物(エンジン無し)だ、これで普通のより早く飛ぶのだからいろいろと間違っている気もするが生身で空を飛ぶのに比べればまだマシだし開発段階で翼を無くすかという話にUFOに間違えられるからと飾りに翼を着けただけ見た目は良いのだ。
取り付けられたタラップから乗り込みそのまま扉をガッチリとロックする、本当に窓一つないがスペース事態は映画だとかアニメに登場するソレとほぼ同じだ、異なるのはラグジュアリーなテーブルやバーカウンターが無いくらいだろう。
「荷物は座席の上に、一応もう一度後でも説明するが着席したらシートベルトを、しっかり着けて外さない様に、ここに酸素吸引用のマスクが有ってこのボタンが各座席との通信、マイクとスピーカーはそこの受話器でこっちのボタンが運転席直通、リクライニングはここで倒せる」
そんな風にテキパキと説明しつつ自分の荷物も収納スペースに叩き込んで前方に向かってしまう、普通なら十キロは有るキャリーケースを頭の高さに上げるのは相当な苦労だがそこは鍛え方が違う、軽々とこなして着席してベルトを絞めた。
「えー、当機にご搭乗頂き云々は端折るとして、当機は離着陸及び巡航中は着席の上シートベルトをしていてもらう必要があります、安全のため今一度チェックをお願いします、当機はこれよりアメリカへと飛び立ち飛行時間は約3時間半を予定しています到着予定時刻は現地時間4月30日の朝10時頃、巡航速度の問題で強いGを多少感じますが耐えきれなくなった場合は内線でご連絡下さい、速度を落として航行します、では暇で不快な空の旅をお楽しみ下さい、尚本日のビデオは前日のプロ野球中継となります」
そんなふざけた挨拶と共に酷く静かに機体が動き出す、当然の様にエンジン音は皆無で酷く静かな空の旅、せいぜい前方のモニターでプレイボールが宣告されてスターティングメンバーが発表、それに合わせて実況と解説が会話をする音くらいだ。