異能部の日常その7
「一つ、二つ車輪よ回れ」
それは歌、なのだろう、酷く調子っぱずれで節もメロディーも適当な鼻歌、それでもおそらくきっと歌なのだろう。
「三つ四つ馬車馬走る」
同じメロディーを繰り返しながら、しかし音痴なのかどうなのかさえ判別が着かない調子で。
「五つ六つ道を進む」
「七つ八つ死への道」
佳境に入ってもやはり調子っぱずれは否めない。
「九つ十さぁ来たぞ」
調子っぱずれのまま始まり調子っぱずれのまま終わる、いっそそれが正しいのではないかと思えるくらいに調子っぱずれで仮にワザワザ崩してそんな歌い方をしているのならば逆に技術は有るのだろう。
「前々から言おう言おうと思ってたんですけどその歌歌うの止めて貰えませんか部長、この間なんてテスト中に無限ループ入ってただでさえの成績が地に落ちました」
「んー? 地に落ちても低空なんだからダメージ少ないと思うが、まぁイヤーワームなんぞ無視してテストに集中しないのが悪い、俺なんてテスト中に何故か勃起しても問題なく満点取れるぞ」
「随分と今日は辛辣ですね、って言うかイヤーワームってなんですか?」
「脳内音楽無限ループの正式名、電波ソング辺りは不意に一節だけ思い出して残り忘れるとか曲名思い出せないとかでイライラするアレ」
「自分が歌ってる数え歌が電波ソングって自覚はないの? って言うか何処の? 何の? どういう? 英語で言うと5w全て含めた歌なのよ」
二対一では分が悪かろうと は渋面を浮かべて肩を竦めて白旗代わりにハンカチを降っている。
「まぁ俺のルーツたる部族の数え歌だな、俺が誤訳しまくって改編してるが親父の正確な翻訳版だと一つ二つ数えて回る、三つ四つ子供が走る、五つ六つ時は過ぎる、七つ八つお先へどうぞ、九つ十死よ来たれ、栄枯盛衰諸行無常、輪廻転生はちと違うが世代交代とかを戒める歌らしい、終わらない物も壊れない物も存在しないってな歌だ、一応言っておくと部族語で歌えってのは無理だぜ、親父には劣るがマルチリンガルで通る俺でも発音とか意味不明過ぎて片言すらお手上げ、自分の名前すら向こうじゃ舌足らずの子供が自己紹介してるくらいにしか見てもらえないからな」
そんな風に嘘とも本当とも着かない事を言っているが彼を知る者からしたら何時もの事である、平気で嘘とも本当とも取れる事を言うしポーカーフェイスだったりニヤニヤ笑いながらだったり厳めしく眉根を細目ながら嘘を吐くのも少なくはない、まぁ最後にネタばらしはするからまだ性格が悪いで済むが。故に何処までが本当かは帰る頃には解るがこれで嘘ばかりでネタばらしもなしなら人格の問題になってくる、ただ大前提として優しい嘘とかなら人を騙すのも良しだろうし程度にも左右される、詐欺師か嘘吐きかタチの悪い冗談好きか、その境界は受け手で変わる曖昧な物だが彼の場合はタチの悪いに分類される。
「まぁ祝いの席での歌だよ、宴の終わりに皆で歌って良い事ばかりが続くでも悪き事が続くでもなし、諸行無常塞翁失馬って教訓としてはかなり苛烈な歌だがなんか歌いたくなるんだよな、メロディーテキトーだけど」
「苛烈ねー、アフリカってそんななの」
「さてな、俺向こうの親戚に会ったの一回だけだったんだよな、つーかアフリカ事態一回、いや大陸で言えば二回か、いや三回かな? エジプトに二回、南アフリカに一回、モロッコも行ったような、そもそもモロッコってアフリカ大陸か? えーっとアフリカだな、うん四回くらいは行ったがサバンナど真ん中は一回だけか」
「いや、サバンナ二回だっけか? なんか飛行機買う前に行った様な記憶が有るな、まぁそんな感じだからアフリカについて語れない、親父にでも聞いてくれ 20だか21までは向こうに居たし」
「昔からあっちこっち旅行に行ってるからな親父のフィールドワークも兼ねてたりするから流石に覚えてないんだよな」