異能部の日常その1
時系列はバラバラになってます。
中間テストが終わればおおよそ期末試験までは誰もがノンビリと過ごせるのは何処の学校でも変わらずで追試の二文字を持つ者だけがゲンナリとするのもやはり常だろう。
故に異能部の部室は三者二様に別れていた、すなわち心配が無い者と有る者に。
それが綺麗に男女と言うのも不思議な物だが深井沈華は追試の告知の束を何度となく見詰めては溜め息を着き、今一人、黒髪をショートボブに纏めた、沈華と同じブレザー、タイのみが三年生を示す赤の少女もまた追試の告知を見詰めている。
ただ一人余裕綽々と雑誌を読みつつコーヒを飲んでいる男との対比はいっそ見事としか言いようが無い。
「先輩、この学校って珍しく順位張り出されるじゃないですか」
いい加減全ての科目で赤点という現実を直視するのに飽きたらしい沈華が呟くように切り出す、なお二年生の沈華から見ると両方共に先輩だが彼女がただ先輩と呼ぶ場合は男の方を指す。
「で、見てて思ったんですけど先輩って絶対に主人公になれませんよね」
「いきなり失礼だな後輩、俺は学年トップの頭脳に運動能力、身長183cmでモデル体型のアフリカ系ハーフイケメンで異能者だぞ、俺ツエー系ハーレム主人公だって夢じゃない、なのにそれがなんで主人公になれない」
「いや、だって冒頭によくあるやつ、俺はから普通の高校生だまで、やってみてくださいよ」
「俺は男鹿松平兼守長倉源温羅神馬手方平之真典影康男Jr.、世界最強の念動力と世界最強のバリアー、不死と言える肉体を持つ普通の高校生だ」
「はい、出落ち、まず名前が馬鹿みたいに長いですよね、三年生の学年一位の所だけ異様にフォント細かいの知ってます? それに能力がもうチート過ぎです、転生とか絶対にしないじゃないですか」
「同意するわね、ベタにトラック、隕石落雷、変わり種で頭に亀とか椰子の実、どのパターンでも死んで5秒で復活でしょ」
二人の会話にいい加減道徳の科目で零点を取った現実を直視するのに飽きたらしい三人目、音矢菜慈美が追従する。
「名前長いのは親に言え親に、ってか親父のルーツの部族に言え、名前長いのが幸運の象徴みたいな教えなんだよ」
「ずっと気になって聞いたら不味いと思って聞かなかったんですけど本名ですか?」
「本名だよ、親父が帰化する時に音の響きを日本人に聞きやすくしたらこうなっただけ、因みにギリギリまで日本人に聞き取りやすくするとオーグァマッツダェイレゥカーンムォリナーガクラミヌナモチーノウラノカミンウマデクァダヘーヌシンフムカゲヤスオジュニアだな」
「康男ジュニアだけ聞き取れました、って言うか何処までが名前で姓かって聞いて大丈夫ですか?」
「男鹿松平兼守までが姓で長倉源温羅神馬手方までがミドルネーム平之真典影康男Jr.が名前、法律に合わせると平之真から名前だな、因みに日本語訳すると男鹿松平兼守で猪、馬手方までが父方の爺さんの名前で狩りに行くライオン、典影まで親父の名前で雨の日、康男は母方の祖父の名前だな、つまり俺のための名前はジュニアオンリーだ」
「オガマツダイラカネモリナガクラミナモトノウマテカタヘイノシンヤスオジュニア、まるで早口言葉ね、それか寿限無」
「惜しいなウラノカミが抜けてる、後輩ちゃん、俺の免許証見る? 引くぜ」
名前が間違えられたと言うのに気にした風もなく訂正するだけなのは本人達の言葉を借りるならば幼馴染みで一応彼氏彼女だからだろう、それ以上に五文字抜けたとは言えほぼ完全に長い名前を言えるからか、単純に慣れているだけかもしれないが。