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異能部  作者: KAINE
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組織のたぶんおそらくきっと日常

 その地位に立つとある種の全能感を得られる仕事や立場と言うのは確かに存在する、例えば一国の首相、例えば各国の捜査系トップ、スパイ映画のような凄腕は居なくともその地位に至れば自分の妻が浮気してるか、していたかを調べるのは造作もないしお気に入りの女優の連絡先や誰と連絡を取り合っているのかを調べるのも朝飯前だろう。

 勿論、それらは職業倫理とかそういう物で雁字搦めだろうし私的な事を調べるのに使っていい組織でもない、例え警視総監に類する者が娘の素行調査に警官を数千人規模で動員でもした日には翌日を待たずにその地位から追い落とされるだろうし一国の大統領だとか総理国王君主がアイドルの連絡先調べるのに秘密警察とか情報局とか捜査官とか使えば色んな意味でその国の未来は絶望的だ。

しかし、だがしかし間違いなくその地位は全能感を得られる程度にはいろいろと知る事ができる、国の内外で起こった様々な事象を専門の分析官が纏めた物を毎日の様に目を通せる立場に有るのだ、どこそこの重役が誰と会うらしいとか、どこそこのテロリストの動きが活発だとか、どこそこの誰ソレが亡命を希望しているだとか、そんな余人では知りえない特別を知る事ができる。


 さて、そんな彼らが彼女らが、その地位に着いた時に最初に読むのは引き継ぎの書類や倫理規定やはたまた神への宣告のための聖書か、おそらくはその辺りだろう、では次はと言うと間違いなく国の内外の不穏分子や危険分子の動向、或いは自らの敵対者のリスト辺りだろうか。

 残念ながらそれらは余人では到底知りえないし解らないが、一つ間違いない事として、世界中の君主首相に類する者と、情報局、諜報局、捜査体系に位置する長が目に入れる書類の一つに異能者の項目は必ず有る、そしてこの中には(各組織の長が集まって確かめた訳ではないが)間違いなく一人に関しての情報だけは誰もが持っている。


 男鹿松平兼守長倉源温羅神馬手方平之真典影康男Jr.、通称男鹿、オーガ、またはミスターESP、世界最強最高、いや違う、絶対無敵の異能者、その気になれば国も大陸も星すらクッキーを砕くより容易く粉微塵に変える事ができる念動力に世界中全ての核兵器を絶え間無く、又は同時に撃ち込んでも罅すら入らないバリアー、そして本人がどういう訳か自身の周りに常時障壁を張っていないため可能となる暗殺に成功しても5秒で生き返る不死の肉体、異能者の項目、ファイル、ページ、その一番最初に彼は必ず乗っている、最も留意すべき存在として、最も注意すべき存在として、間違っても、とち狂っても敵対的行動を取ってはならない最重要人物として。

 幸いにして(これも各国が協議した訳ではないが)彼に野心らしい野心は無いというのが間違いなく総意だろう、仮に彼がその能力のままに旁若無人悪逆非道唯我独尊に生きていたならば世界は彼にかしづかなければならない、絶対的な強者でそれが許される唯一の力を持っている、だがそんな事にはなっていない、彼の住む日本ですら普通に過ごせては居る、しかしそれは形だけを見るならばだが。

端的にそれを言い表すならば平和条約だ、不可侵条約だ、書面でも口頭でも交わした事はないが全世界の君主に相当する存在や彼を知る立場に居る者はその地位に立つと同時に彼と条約を結ぶ、彼は世界を支配しないし壊さない、代わりに彼の好きなようにさせるし大きな事にすら目を瞑るという酷く一方的な条約を。或いは目の前で自分の妻や娘が彼に犯されたとて何ができる、銃が有る、兵器が有る、兵力が有る、戦力が有り金が有る、それらを自由に動かす才覚も能力もある。だからどうした、それがどうした、例え国中の世界中の異能者を集めようとその気になればその全てを殺し尽くして、壊し尽くして暴虐の限りを尽くせる相手に何ができる、例え宇宙人とか神とかが相手でもようやく互角に持ち込めれば御の字、そんな存在が今自分の目の前に居る、そんな事実にアメリカの情報局長官は恐れおののくしかない。


 「この間の名無しさん、英語圏、それもアメリカ訛りに反応したっぽいけど、何処の何方かご存知?」

 情報は有った、しかも調べるだけの時間すら有った、4月の頭に彼にとって何度目になるのか解らない襲撃を受けて、今は5月の頭だ、残念ながら襲撃犯に関しては自分ですら、諜報官ですら分析官ですら解らない、指紋もDNAも過去の前科犯や危険人物、過激派等のデータベースにはなく、パスポートを所持せず、日本の入国記録にすらない密入国者、当然ながら出国記録をつぶさに調べても何も出てこない、だからこそ何か知らないかという問いかけに残念ながらと答えるしかない、しかし何時かは解る、今までもそうだった。

 襲撃者が名乗ったパターン、後に組織が声明を出したパターン、どちらかが名乗らないパターン、どちらも名乗らないパターン、その全てで、その全てで数ヶ月以内に世界の何処かのテロ組織や排斥過激派グループが壊滅する、完全に抹消する、犯人を問うのは野暮だろう、それに問うたところでどうなる物でもない。

だから願わくば国内組織でない事を祈るしかなかった。

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