化け物の日常その4
今回の事件に関して、加害者はただ運が悪く、私はそれに呼応してババを引かされたというだけになるのだろう、よりにもよってアレの後輩と彼女に手を伸ばすというのは相当にツイていない、それに気付いた時点で淡々とアレはアレの行使可能な力を使って動く、放置すると可愛い彼女の方がもっと怖いという単純な消極的な理由で、自分を害されたなんて嘯いて怒ってみせる。
何処までもおちゃらけた雰囲気を隠して怒りの仮面を被る出来損ないで出来が悪い道化として、たぶん普通の奴なら怒るだろうからと役割を演じて、私がそう調整したわけではない、アレは自分の今の在り方や性格に多少なりとも私が介在して介入していると勘違いしているが私がアレに介入したと言えるのは世界を壊さないというストッパーと私以外の精神操作に対するトラップくらいで、あのふざけた態度も雰囲気もアイツ自身の処世術でしかない。
と言うか私の人格面や性格面は壊れてはいるのだろうしお世辞にもマトモから程遠いのだろうがだからとあんな道化を作り出す筈もない、私とある種の同類は私より壊れていると言うだけで化け物だの枷だの鎖だのと縛られたフリをする、眠っているフリをするだけで、ただ下手くそなパントマイムを演じるその在り方すら偽物のピエロでしかない、それに気付いているのは家族と幼なじみと私というチートを除くならば一人くらいだが本人が自覚して、しかしそれを他人による調整と棚上げしているに過ぎない。なるほど本質的な化け物というならばその通りで誰しもが被るペルソナがたまたまアレの場合は道化だったというだけだが問題はそこではないし演技力が伴っていないからでもない。
仮面の出来に関してでも当然ないし衣装どうこうでもない、中身の問題だ、衣装の下、仮面の中、人ならざる人、怪物化け物、偽悪とか偽善とか秩序や混沌、人間の悪意を固めたとしても『ああ』はならないという本質、サイコパスとかサディストとか、人格破綻者とか、そういうモノではないナニか、定義するなら男鹿松平兼守長倉源温羅神馬手方平之真典影康男Jr.という名の生物と精神、誰しも仮面を被り生きているから人間らしいと言えばらしいのだがそこから逸脱してしまったのがアレだ。
そしてその後始末を任された哀れな化け物が私だ、被害者全員でないにしても重要人物のダメージの軽減、後輩ちゃんと幼なじみは簡単で済む、と言うか音矢に関しては必用がそもそもなく、相変わらずの中二っぷりに辟易としながら少しばかり優しさを与えてみるというこれまでの経験から徒労でしかない事をして、深井の掛け算と腐葉土やヘドロを超えた腐乱死体よりも酷い精神を調整して次だ、加害者であり被害者、認識を歪められた加害者の一人の調整は間違いなく難物だ、そもそも彼女が刑に問われるのは確定で情状酌量は有っても無罪だけはあり得ない、そんな被害者で加害者の調整となると時間が掛かる、その気になれば数分で終わるが人間の精神や心はそこまで単純ではなく、少しずつ違和感を感じないように記憶を消したり改竄したり植え付けたりして無理なく今後を生きていけるようにするのは私でも大変と言わざるを得ない。アレの様にただ壊すだけで良いならば物凄く楽なのだが問題が極力減るように納めるとなると話しは変わる、アレのように壊すか動かすか守るくらいしかできないならばもう少し楽な生き方も出来たのだろうしアレもアレでそれしかできない事を嘆いていて、だからこそ互いに互いを利用する、私に不可能な事は大抵アレがどうにかして、逆は私がどうにかする、二人して不可能ならケラケラ笑いながら諦めて数秒後には忘れて次の何かのために動き出す。
それが化け物だ、救えない物を嘆く必用が何処に有る、後悔も悲しみも捨てる必用すらない、済んだ事を嘆いても時間が巻き戻る訳ではないしそんな異能は私が知る限りで一人も居ない、せいぜい予知が使える奴が居るくらいだ。