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異能部  作者: KAINE
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自宅の日常その14

 家のお袋こと男鹿松平兼守鈴の好物は何かと問えば本人と残りの家族全員に加えてお隣さんである音矢家の面々に彼女の生家である袴田家の面々は口を揃えて蕎麦と断言するだろう、夏でも冬でも春でも秋でも何かと言えば蕎麦を啜るのが常で月に最低二回は夕飯が蕎麦になるし休みの昼飯とかは基本蕎麦だ、夏ならザル、冬ならかけと変わりはするし二八だったり五割だったりツユだったりクルミやゴマなんてパターンもあるがとにかく蕎麦は基本で四国に行って饂飩食わずに蕎麦だけ食って土産まで蕎麦を買って帰ってくるくらいの筋金入り、ここまで来るとどうして蕎麦打ちにのめり込まないのか不思議なくらいでスーパーで乾麺かソフトタイプを買う事は有っても粉からと言うのは一度として無い。

 幸いにして俺の感覚は非常に精密というにはまだ少しばかり足りないが、それでも緻密な加減とか比率とかを見ただけでおおよそ予想して頭の中で組み立てられるくらいには研ぎ澄ませてあるし実際に数メートル先で実演しているのを見れば嫌でもそれを理解できるし模倣するのは難しくもなんともない、これが手でやれと言うならば数年は欲しいが見えざる手でならば今すぐにでもだ、信州となれば蕎麦は代名詞と言える、日本で蕎麦処はという問いにおそらく第二位をダブルスコアで引き離すだろうくらいに有名で蕎麦屋に信州の字が多い事も遠因だろうし並び立てるのは出雲かはたまた椀子蕎麦か、何れにしても長野で古くより十割を打つ蕎麦屋の動きはインプットした訳だしたまには実家に帰って親孝行でもしてみるか、それとも岩手まで連れていって椀子蕎麦でも食わせた方が良いのか、多分際限は有るが三桁行きそうだな。


 「ただいまー、信州土産持ってきたぞー、具体的には蕎麦粉」

 信州土産の辺りで目に見えてテンション爆上げが蕎麦粉で一気に萎れた、しかし長野で購入した最高級の蕎麦粉は店員曰く香りも良く旨いらしい、蕎麦つゆも買ってるし今日の昼に土産を持っていくと告げているから今か今かと待ちながら昼は信州蕎麦でと決めているという予想は正しく、テーブルの上には何もなく料理をした形跡もない。

 「おいおい、なんでテンション下げてんのかは予想できるがな、ちゃんと乾麺とかも買ってるぜ? それに蕎麦打ちなら既にインプット済みだし道具も作れば良い、必用なのは水と鍋いっぱいのお湯と器くらいだよ」


 水回しやらへそだしやら、まぁ正直に行ってなにが何やら解らないのだが彼の職人の技を模倣した見えざる手は蕎麦粉を捏ねてあの日見た状態と完璧に同じとまでは言わないが誤差コンマ%で仕上がり蕎麦切り包丁なんて物は無いので名も知らぬ蕎麦を打つための器と同じく障壁で再現する、手早く伸ばされ手早く切られ、後は数分茹でるだけだ。

 蕎麦粉の袋に記された茹で時間を置いてザルに移して水で凍める、そのまま盛り付ければ特に見た目は問題ない盛り蕎麦だ、ネギだのなんだのの薬味は無いが十分だろ。


 「あら、意外にちゃんとできてるわね、もっとぼそぼそかとも思ったけど」

 「そりゃあ老舗の大将の動きを模倣した訳だしな、湿度やら温度やらは変わってくるだろうし全く同じじゃねぇ、当然使ってる蕎麦粉も違うだろうから調整もできんが誤差は小さいんだから最低限を越えて普通に食えるレベルには落ち着くだろ、金取れるレベルには少し足りんだろうがな」

 「そうね、少しコシが足りないわ、でも美味しいし少なくとも初めて蕎麦を打った素人の出来は越えてる、私が昔打ったゴミと比べるのが申し訳ないくらいよ」

 「やってたのかよ」

 「結婚した当初くらいに一念発起してね、あんたがお腹の中に居ると解った頃には諦めたけど」

 「またどうして」

 「才能とか皆無だったから、教室に通ったりもしたんだけど一向にぼそぼそより酷いのから脱出できなかったから、それも二八でよ、一年ちょっと続けてこれなら芽はないだろうって見切りを着けたわよ」

 「それで我が家には蕎麦打ち道具が無いわけか、夏休みとか毎日蕎麦で普通の奴が素麺で発狂してんの見ながら蕎麦で発狂してたのに」

 「あんた1日置きで音矢さんの所で素麺食べてたでしょうに、菜慈美ちゃんは菜慈美ちゃんで1日置きで蕎麦食べに来てたけど」

 「利害が一致したからな、麺類なのは仕方がないにしても種類変えないとやってられなかった、正直に言って爺さんの家に泊まって卵焼きとお味噌汁と漬物と御飯っていう婆ちゃん曰く質素な飯がどれほど旨かったか解らん、まぁもう慣れたがな、諦めたとも言えるが」

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