化け物の日常その3
テロリストと言うのは何処に潜み、何時行動を起こすのか解らない、terroristすなわちterrorを起こす者、直訳するなら恐怖人だろうか、争いの種を撒き、恐怖を振り撒き、他者を害する事を厭わずに目的を達成するために手段を選ばない存在、相手は誰でも良い、国を相手にするのに軍隊ではなく民間人を標的にして、無関係な誰かを傷付けて自分の正義とやらを見せ付ける。
傍迷惑を通り越して、仁義も無ければ人道もない、道理も筋道も蹴っ飛ばして、ただ恐怖を与えるために殺戮の限りを暴虐の限りを尽くして哀しみの連鎖を続けるだけの存在。
場所を選ばず時間を選ばず人を選ばず、その思想に感化された者まで使って事を成す、だからこそ踏んでは行けない虎の尾を踏む事もある、たまたま占拠した場所に国民的なスターが居たならば、元首に相当する程の人物が居たならば、たまたま巻き込まれたなら、日和見や平和主義者すら敵に廻す事になり、泥沼の殺し合いが始まってしまうが、それでもなおダメージを与えるために恐怖を与えるために行動を止めないのだ。
だから、それは偶然でしかなく、不幸な事件でしかなく、世界が哀しみに染まる事件でしか無かった筈だった、銃を乱射して建て込もって手榴弾からハンドガンから持ち出して警官隊と州軍と相対して人質を殺し尽くす、自分たちの正義を声高に叫んでひたすらに悪逆無道を成す、よくあるテロにしては対応が難しいという点を除くならば被害者事態は平均値に収まる程度の物、数千には遠くしかしてゼロではないという狂気の果て、その中に化け物が混じっていたというだけだ、その瞬間に居合わせただけの青年が流れ弾か狙ってかは解らないが死んだ、それだけの事だ。
数十人の死者の一人に数えられるだけで、それに倍する怪我人と共にNEWSで伝えられるだけで終わる、数日後には慰霊会が開かれ世界が哀悼の祷りを捧げる一人になる、そんな悲しいまでに見慣れてしまった光景に名を連ねるだけになる筈だった存在。ただ化け物というだけだ、ただ制御ができないというだけだ、ただパワーバランスだとか国家だとかプライドや理念や宗教、主義を気にしないというだけだ、あらゆる物に縛られないという化け物が化け物としてそこに居た、居合わせた、そして運悪くか運良くか敵意を向けてしまった、害意を殺意を向けてしまった、それだけの話だ、とてもシンプルで解りやすい話だ。眠れる化け物を叩き起こした、それも極めて不敬に、極めて乱暴に、極めて間の悪い瞬間に、意図せずとも(意図していたならなお悪いが)開けてはならない蓋を開け起こしてはならない化け物を起こし、後に残るのは希望なんて一欠片もない、ただほんの数日後に慰霊のために皆が集い哀しみに暮れる中で、一つの組織がこの世から消えるというだけのそんな喜劇でも悲劇でもないお話。