二人の化け物
単に最強と言っても を殺す事は難しくもなんともない、例えば毒や爆発物、ナイフに銃弾、縄に炎に超低温等々人間が死ぬだけのダメージを与えたならば容易く死ぬ程度にその体は脆い、多少は鍛えているし若さゆえの溌剌さもある、それでもロシアの怪僧や不死身の軍曹の様な驚異的な討たれ強さや尋常ならざる生命力を持っている訳ではない。
死んだら肉体と周囲を元通りに戻すという過去に類を見ない極めて特異な異能でゴリ押しているだけで肉体的な強度で言うならば同年代の人間と大差は無いし常時無敵の障壁を張っている訳でもない、友人知人、あるいは町中で見方美人に張る事は有っても自分自身の防御は基本的に極めてザルで例外的に精神的な干渉に関しては異常なまでに目が細かく固く厚い、下手に操られればそれだけで驚異となりえるための措置だが本人が施した物ではない。
謎としか言えない、名前も性別も年齢も人種も不明なWhoと呼ぶしかない、何せ本人にその気が無いのだから余人に知る方法は無い人物の手で、おそらく ならばその障壁で認識阻害を防いで正体を知る事もできるだろうがそうしていない、知りたいと思っていないのではなく教えてくれないなら無理に聞く必要もないという事なのだろう。それでも信頼関係なのか利害関係なのか、互いに互いの不得手を補っている、その性質故に自らの身の守りに頓着しない化け物と、その異能故に世界が生き辛い化け物は手と手を取り合う事はなくとも互いに互いを守っている。
仮にそこらの精神干渉能力者が を操ろうとしたならば、予めその精神に埋め込まれたカウンターが発動して数時間は眠る事になる、世界最強の精神能力者が直接脳みそに催眠を使う様な物で防げるような物ではないうえ に対して全くの不自由なく、ただ世界を壊さないという制限のみを残して完全な防御を成している、対して彼の者には物理的な防備が万全に成されている。
普段で有ればそこに存在するだけで大地から大気から知りたくもない情報を受ける身だが、その大半を障壁が防いでいる、完全に防げば生活が成り立たないため大半だがセミが煩い真夏の森と気密性の高いマンション内に設置された家庭用の防音ブース程度の差が出る、それでも十分な差で存在しているだけで精神を蝕んでいたのがノイズキャンセラー無しのイヤホンで雑踏を歩く程度の煩わしさしかない。
それに生活面に関しては合法的にだ、館山市のマンションの一室が与えられ、捏造した戸籍と住民票と保険で今までは操ってしか不可能だった事も異能を使うまでもなく可能となる、手間が無くなる以上に操る段階で嫌でも流れ込んでくる対象の記憶から解放される、何せ他者に気付かれないようにするまでもなく没個性の有象無象として町に溶け込めるし万が一にも職務質問を求められても偽装したとはいえ戸籍から得たパスポートが身分を証明する、限りなく異能を使わない生活というのは自殺を思いとどまるのに十分で折角生きる事を考えたのに世界を壊されては堪らないと にストッパーを着けているだけと言えばその通りなのだろうが は で世界に愛着とやらを持っているらしくふとした時に壊さないようにと受け入れている。