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異能部  作者: KAINE
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営業所の日常

 航空及び宇宙業界の歴史はそのまま素材開発の歴史と言い換えても過言と言えない程に密接に関係している、ともすればそれはジレンマとの戦いでありライト兄弟が空を飛んだ日からずっと続いている。

 一口に空を飛ぶと言っても方法は複数有るだろう、例えば空気を暖めて飛ぶ熱気球、例えば比重の軽いガスで風船を膨らませて、例えば何かの反動で、例えば揚力で、その中で移動速度や荷物の量、方向、効率を見るならば飛行機は間違いなく最高で最強のツールだろう、風に任せるしかない気球や風船、トランポリンだとかジャンプ台なんてのは飛んではいるが海を渡れる筈もない、背中にジェットエンジン積んでスラスターなんてのはオリンピックのデモンストレーションくらいでしか見ないだろうし大陸間を渡るだけなのにスペースシャトルに乗る必要はない。


 飛行機の歴史は、やはり素材の歴史だ、より早くより多く人や荷物を運ぶにはより強いエンジンがいるしより強いエンジンはより頑丈にする必要があるし当然重くなる、そして重すぎれば揚力が有っても飛び立ちはしないだろう、仮に軽くしても今度は速度に耐える事ができる強固な建材が必要となる、当たり前だが飛んでも直ぐに墜落するでは話にもならない。

 だから日夜研究されている、羽の取り付け位置に角度、長さ、構造、可能な限り軽く頑丈で粘り強い素材、あるいは複数の素材を張り合わせたり異なる構造を積層化させたり、様々な角度からより強い、より軽い、より丈夫な物を作り出すための研究が世界中で行われている、その上でより安価ならば言う事は無しだろう。

その果てに常時ではないが音速を越える戦闘機だとか、乗客数百人、トン単位を運べるジャンボ機だとか、そういう物が完成した、彼の兄弟が空を飛んでから1世紀で木製の機体は鉄や合金に変わりプロペラはジェットに変わった、それは正しく技術の進歩が成した軌跡であり仮にジェットエンジンや合金やカーボン、科学繊維だとかに変わる何かが現れる時代が来ても、新たな何かはまた産み出される、より軽く、より早く、より頑強で、より効率の良い何かを。



 電話が掛かってくる場合、内容がおおよそ四つに分けられると気付いたのは営業に配属して数年で誰もが気付く、すなわち見学の依頼と、注文と、クレームと冷やかしと、後は修理依頼だとかが来るが小型飛行機建造が主な会社にはこの四つが基本となる。

 幸いにしてクレームは少ない、無い訳ではないが重大な事故は一度もなく、せいぜいが留め具がどうだとか椅子がどうだとか、そういう小さなクレーム程度で後は故障したと言いつつ電球の変え時だったとかだが幸いにして重大な事故だけは今まで一度もない。

正確に言うならば正規で販売して正規工場で修理やメンテナンスを行っている物では一度も無い、残念ながら中古販売業者だとか非正規の工場修理とかで墜落してしまったケースは有るがそもそもとして故障しない、壊れない物は飛行機に限らず作れない。

部品が多くなるとその一つ一つの劣化や故障の可能性は積み重なり、ネジ一本折れるだけでも飛行機にとっては命取りになる以上は常にどこかにダメージが有って、ソレでも許容範囲として飛べる状態に有るというだけだ、そしてこれは車だとか船だとかでも同じで飛行機の場合は事故が死に直結しやすいというだけだ、割りきれる物では無いし常に情報を仕入れてきて研究には勤しんでいる、不備や不良が出ない様にはしているがソレでも何時かは壊れる、諸行無常ではないが壮大な都も何時かは寂れ、山も削れて丘となる、ならば飛行機もまた同じだろう。


 「すいません、アポを取った男鹿ですが谷垣さんをお願いします」

 非常に若い、いや若いと言うのは語弊がある、若いを通り越して子供だ、おそらく小学生高学年か中学一年くらいの少年、まるでサラリーマンか何かの真似をするような事を言ってはいるがアポは確かに取れている。

 だが、少し忙しい時期に子供の相手はしていられないと営業部エースたる谷垣はどうせ見学依頼か冷やかしか、何かの罰ゲームかイタズラだろうと新人に目線を向けて首と顎で『行け』と合図する。


 「申し訳ない、谷垣は今急用で手が離せず、私で良ければお話を聞かせてもらいます」

 例え相手が子供でも物腰は丁寧にだ、担当が自分に押し付ける様を見られたとは思わないが出鼻から失礼をしている、昨今だと何処で悪口が広まるか解らないしとにかく丁寧に対応して最悪テキトーに模型でも与えて帰って貰おうという魂胆を隠して、とりあえず名刺を渡す。

 山田と書かれた名刺を何も言わずに受けとる辺りはやはり子どもなのだろう、仮に罰ゲームか何かならばこの会社に出向いた証拠としては十分だろうしイタズラならば戦利品にでもすればいい、どうせ無くなれば経費で買える安物だ、机の中には300枚近く同じのが眠っている。


 「えーっと、とりあえず小型の飛行機販売、建造もですか、していると聞いてきました、その上でかなりの無茶と言うか改造、この場合はカスタムってお願いできるのかなと、まぁ追加料金は発生するでしょうが」

 開口一番、小学生くらいとは思えない、彼は小型とは言え自家用の飛行機をそれもカスタムしたのを買いたいと言っている、これは相当に面倒な案件だろう、親のカードでも盗んで来たか、でなければ相当に手の込んだイタズラか、どちらにしても面倒だ。

 「そうですね、お客様の要望には可能な限りで御応えさせて頂いております、例えばカラーリングや内装等は変更可能となります、他には窓の形を変えたいなんて御依頼も有りました」

とにかく丁寧に対応する、丁寧に対応してとにかく早く帰ってほしい、どうせ見積もりで尻尾を巻くか前金の段階でボロを出すか、目の前の黒い肌の少年が時間泥棒にしか見えないがこれも仕事だ。


 「まず窓は正面以外は無しで良いとしてエンジンもいらないです、その変わりにバッテリー積んで貰って内部電源確保してもらって、機体は重量とか気にしないでとにかく頑丈に、その上で高度と速度とGPS、後はブラックボックスに長距離用の通信器機、それに現在地付近の地図も、内部は運転席込みで8人座れれば良いしカーペットはデフォルトで酸素ボンベとマスク常備、椅子は全部ファーストクラスレベルでコンセントとか常設、要望はこんな所です」

 意味が解らないし解りたくもない、例えば何かのモニュメントならば似せて作れば良いし家屋代わりにしたいならば通信器機とか必要がない、雰囲気を出すためだけにブラックボックスだとか速度計なんて必要ないだろう。

本当に面倒な客だ、仮に本気で買うつもりでもカードはダメと言って前金全額振り込みだ、ローンも泣き落としもなし、だが十中八九は尻尾を巻くと踏んだ。

 「なるほど、まず、可能か不可能かでいうと全て可能な範囲です、重量がどうとかはよく解りませんし、用途でどの程度の強度が必要か算出してみます、モニュメントとか遊具、家屋の代わりか、いずれにしても搬入は専門の業者を紹介できますがおそらく値引きはしてくれないかと」

 「いや、飛ばすんですけどね、強度はまぁマッハで飛んでも空中分解しないくらい? 最悪バリアで補強するし守るから強度もそれなりで良いか、うん、極論飛行機の形してなくても良いし羽も必要ないならいらないです、欲しいのは管制塔とやりとりできて管制塔から現在地とか速度と高度確認できる器機と動かす電源くらい、後は自力で飛ばせます」

フワリと少年が浮かぶ、本当に面倒な客が来た、よりにもよって異能者とは、これで時間泥棒なら今夜は一杯奢ってもらうくらいじゃ腹の虫は収まってくれないだろう。


 「一応書類は持ってきてる、えーっと、身分証だろ、国交省からの免状に許可証、紹介状なんてのも有りますね、それに仕様要求纏めたルーズリーフに手付け」

 背負ったリュックの中からクリアファイルと共にいろいろと取り出している。

 「あぁ、手付けはとりあえず2000用意しました、受ける受けないはソッチに任せます」

ドンと札束が二つ置かれる、小学生が取り出して良いレベルではないし手付けにしても小切手とか振り込み、いやそれだと信用度に欠けると持ってきたのだろう、金額としてはカスタム費用含めると50分の1程度だが少なくともポンとそれだけ出せるらしい。

軽く見る限り書類もとりあえず見た目や様式は本物と思えるし書かれた連絡先を照合して確認を取る必要はあるが新人である自分が取れる仕事としては十二分に大きい、面倒だとは思っていたがもしかしたら大当たりを引いたのかもと思いつつ書類全てに細かく目を通して手付金に関してはリュックに戻すように手で合図する、もう遅いかも知れないが誰が見ているかも解らない、仕事を取られるという以上に誰かに知らせて襲わせる可能性だってゼロではない。それに今は基本的に振り込みがメインで現金を渡されても困るというのが大きい、それこそ買えるだけの現金をアタッシュケースにでも入れて持って来たとしても受け取りは拒否だ。

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